人間関係、パワハラ、セクハラ、長時間残業、昇進や降格、職場では多くのストレスにさらされています。現代人はストレスと無縁ではいられません。ストレスが過剰になりうつ症状が出る、休職となる、自殺に至る。そうなる前に自分を、従業員を、企業を守るために、覚えておいてほしいのです。産業医を活用してください。

目次

産業医とは何か

産業医は健康診断の結果を伝えるだけの係ではありません。ましてや会社と結託して社員を辞めさせる係でもありません。産業医の主な業務は「アドバイス」で、人事を動かすような権限はありません。

産業医は専門的立場によって労働者の健康を守るために存在しています。その昔、労働者の健康や権利は無視されていました。社会の成熟とともにこれらに目が向けられるようになりました。1988年に安全衛生法が改正され、この時に初めて「産業医」が衛生委員会の構成員として明記されました。

産業医の目的は従業員の健康状態を守ることです。職場に関する危険や健康状態の危険を未然に防ぐことです。特に最近では長時間残業と精神的な健康、メンタルヘルス対策が重視されています。いわゆる過労死は絶対に防ぎたいことです。

過労死

過労死は英語でもKaroushi。日本特有の状況といえます。その原因には種々ありますが、客観的にわかりやすい指標は残業時間です。長時間残業によって健康へのリスクが増すことが知られており、残業時間を減らす重要性が示されています。そもそも業務効率の観点から言っても40時間以上の労働をした場合作業効率は低下することが1900年代フォード自動車における調査報告から示されています。

メンタルヘルス

職場における様々なストレス、それに対処する個人の性質、周囲の環境、これらが相まって仕事でのミス、欠勤などといった問題やうつ病などの精神疾患を引き起こすことがあります。長時間労働といった労働の量、昇進や降格、仕事の質、人間関係は多くのストレスをもたらします。

女性

自殺者の数

こうしたストレス軽減を図るのは健康被害を防ぎたい、最終的には自殺を防ぎたいということと言えます。

日本は先進国の中でも自殺者が多く、年間3万人以上が亡くなっています。これはロシアに次いで世界2位の死亡率です(WHO統計)。

そもそも仕事をする年代の方は病気で死ぬことは少ないと言えます。20代から30代までの死因第1位が「自殺」です。40代においても自殺は死因の第2位になっています。

そして職場における自殺の原因は「うつ」です(うつ状態を含みます)。自殺は本人、家族にとってはもちろん、会社、社会にとっても大きな損失です。

産業医も選ぶ時代

産業医はこうした不調を防ぐために医学的知識をもとに指導を行います。長時間残業やメンタル不調者との面談を通じ、本人の健康状態の把握、職場での問題を検証します。本人を守るために就業制限をかけ、改善を会社側に強く求めていきます。

産業医活動を行う者の多くは医師です。職場での健康状態改善に関心があり、取り組んでいる医師が多いと信じています。しかし、残念ながらネットで産業医を検索すると「会社の犬」といった表現も出ています。また、いかに産業医面談を突破して職場復帰するかといった内容が記載されていることもあります。面談は本人の健康状態が維持できるようにと行うものであり、不調なのに復帰するのでは本末転倒になってしまいます。非常に残念なことですが、誠意をもって産業医業務を行っている医師がいる一方で、裁判になった事例などをみると確かに悪質な産業医もいることが分かります。

 

ただ、産業医業務を専門に行い劇的な効果をもたらしている医師も確実にいます。そうした方を紹介したいと思います。

医者

ファーストリテイリング統括産業医浜口伝博先生

ファーストリテイリング、ユニクロです。

ユニクロと聞くとどういうイメージでしょう。「ブラック企業」のイメージが無いでしょうか。柳井社長は2014年末には「ブラック企業と言われているが、我々は全く反対のことをしている。サービス残業やパワハラ、セクハラに厳しく行動している」「昔の我々の会社には、ブラック企業の様な部分もあったと思う。それはなくなってきた」とコメントされています。

一度悪いイメージがつくとなかなかイメージが払拭できない例でもあろうかと思います。

私もそうしたイメージをなんとなく持っていましたが、浜口先生のお話を聞いて大分印象が変わりました。

どのような取り組みをされたのか。現在ファーストリテイリングで統括産業医の浜口伝博先生にお話を伺いました。

ユニクロでは業務の改善を本気で取り組むこととなり、浜口先生に依頼されました。当初はお断りしたそうです。実際は社長ではなく担当者からとのことでしたが、3回断っても尚頼まれたのでお受けしたとのことです。

以下の様な改革をなされました。

  • 衛生委員会の開催、委員会メンバーの教育
  • トップ判断によりウェルネスセンターの設置:産業医、カウンセラー、保健師、衛生管理者の常駐
  • 50人以上の全店舗に産業医設置
  • 組織運用のための書類、プログラム管理

結果健康への意識が変革し、現在は残業0、現在も改善への取り組みをされているそうです。

浜口先生は同様に共同通信社でも産業医をされています。こちらも就任後メンタルヘルスに重点的に取り組まれ、メンタル不調者の発生率が低下しています。同時に業務量も見直しが図られているそうです。その一方で、同社では健康管理や安全衛生を必要以上に行っていたとのことで、無駄も多かったそうです。こちらは専門的立場からプライオリティを判断し業務効率を図ることができ会社側から大変喜ばれたそうです。

産業医活動の成功には企業の理解と対応が必須

浜口先生はファーストリテイリングでの統括産業医としての活動が非常に楽しいとおっしゃっていました。その理由に「反応が早いから」が挙げられていました。

産業医単独ではなかなか改善が得られません。専門による的確なアドバイスと共に経営者の判断、全社での取り組みが重要です。

私が産業医を務める企業は今大きな成長段階にあり、長時間残業が問題となっておりました。講話を通じ残業の健康への影響を伝えたところ、四半期の目標として最も残業の多い営業部の残業をゼロにすることを掲げ、効果が上がっているようです。これも一重に会社の取り組みによるものです。

良いサイクルに入ると優秀な人材が集まっていくということにもつながろうかと思います。

たまご

終わりに

私の友人は過労死で亡くなりました。こんな悲劇は二度と起きてほしくないと強く思っています。産業医は従業員の健康状態を最優先に考えてそれを守るために存在します。色々なご意見がありますが、それが会社のため、社会のためにもなると信じて活動しています。以前は制度だから形だけと産業医を依頼されていた企業もありました。産業医と共に改善に取り組むことで業務の効率化や不調者発生率の低下など会社としても有効であった例があります。社員の方は自分を守る意味で、会社は社員と企業を守る意味で是非産業医を活用していただければ、万一産業医がいい加減な取り組みをしているのなら見直しを考えていただければ、そう思っています。