妊娠中や授乳中はできる限り体調に気を使うとは思いますが、それでも風邪を引いたりすることはありますよね。お腹に赤ちゃんがいる時や赤ちゃんに授乳する時に、気にしなくてはいけないのが薬の使用についてです。
特に妊娠中は、催奇形性(奇形にしてしまう)や胎児毒性(胎児の発育や機能を悪化させる)という言葉があるように、飲んだ薬や使用する外用剤も成分が血液中を回るため、薬によっては胎盤を経由して赤ちゃんへ影響を及ぼしてしまいます。また、授乳では母乳からの移行により、乳児に影響をあたえることが考えられます。今回は、風邪を引いた時に飲める・使えるような薬があるのかについてご紹介いたします。
時期によって異なる危険度、要注意の妊娠初期
妊娠中の薬の使用は、胎児への影響も考えられるので、特別な配慮が必要となります。薬の使用には注意を払いましょう。
妊娠週数の数え方
赤ちゃんに対する薬剤の影響は妊娠時期によって異なるので、まずは正しい妊娠週数の数え方を覚えておきましょう。
妊娠時期を表すのには「週数」が用いられます。最終月経の開始日を0週0日として、「X週Y日」というふうに計算します。
分娩予定日は「妊娠40週0日」になります。実際に妊娠が成立するのは最終月経の後の排卵の時(最終月経開始日から2週0日)なので、実は「妊娠1週6日」までは妊娠も成立していません。この方法は、月経周期が28日型(月経の開始日から次の開始日までが28日)の人を基本に数えています。月経周期が28日型よりも長い人は、排卵日が「2週0日」よりも後になっていると考えられるため、妊娠初期の超音波像などから予定日が修正されることもあります。
妊娠時期による胎児への影響
赤ちゃんに対する薬剤の影響は、妊娠のどの時期に薬剤を服用したかにより異なります。ただし妊娠週数は最終月経からの算定とずれることもあり、体内に長く残る薬剤もあるので、それらの点に留意する必要があります。
妊娠の各時期による薬剤の胎児(赤ちゃん)影響の変化
妊娠4週未満
まだ胎児の器官形成は開始されておらず、母体薬剤投与の影響を受けた受精卵は、着床しない・流産してしまう・完全に修復される、のいずれかです。ただし、残留性のある薬剤の場合は注意が必要です。
妊娠4週から7週まで
胎児の体が作られる器官形成期であり、奇形を起こすかどうかという意味では最も過敏性が高い絶対過敏期といわれます。ただし、この時期には、本人も妊娠していることに気づいていないことが多いです。
妊娠8週から15週まで
胎児の重要な器管の形成は終わり、奇形を起こすという意味での過敏期は過ぎています。ただし一部では分化などが続いているため、奇形を起こす心配がなくなるわけではありません。
妊娠16週から分娩まで
胎児に奇形を起こすことが問題となることはありませんが、多くの薬剤は胎盤を通過して胎児に移行します。胎児発育の抑制、胎児の機能的発育への影響、子宮内胎児死亡、分娩直後の新生児の適応障害や胎盤からの薬剤が急になくなることによる離脱障害が問題となることがあります。
授乳期
多くの薬剤が母乳中に移行します。薬剤の影響としては、胎児の時は胎盤を通して血液中に移行していたのに対して、乳児は消化管を通して吸収してしまいます。
※ 妊娠週数については、最終月経からの計算ではずれが生じる可能性に留意してください。
妊娠中の女性が使える風邪薬は?本当に薬が必要ですか?
上記で、妊娠の時期による赤ちゃんへの影響についてご紹介しました。風邪を引いた時に風邪薬を飲めば風邪が治ると思っている方が多いと思いますが、風邪薬は風邪の諸症状の緩和を目的としています。風邪を引いたら、水分と栄養補給と休養が第一、症状が辛い時には薬の使用も行いますが、症状が辛いのであれば、以下を参考にしていただくと良いでしょう。
ただし、妊娠初期の絶対過敏期における薬の使用は、産婦人科医に確認してからのほうが良いでしょう。
ヨード液でのうがいに要注意
風邪の予防に、ヨード液でうがいをしている人はいませんか?
実は、普段からヨード液でうがいをしている人は、水でうがいをしている人、うがいをしない人と比べると、水でうがいをした人は明らかに風邪の発症率が低くなりましたが、ヨード液でのうがいをした人は、うがいをしない人と同程度という統計結果が京都大学からでています。
このヨードうがい液は長期的に多用することによって、甲状腺ホルモン異常を起こす可能性があり、これは胎児も同じような影響が起こる可能性があります。
ヨードうがい液には殺菌効果があるため、感染が疑われるような症例には処方されることもあり有効です。しかし、妊娠の可能性があったり授乳中である場合は、自ら市販薬を購入するのは避け方が良いでしょう。
妊娠中の女性が風邪に対して使用可能な医薬品の例()内は市販名
解熱鎮痛消炎薬
- アセトアミノフェン(タイレノール)
鎮咳薬
- デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物
- ジメモルファンリン酸塩
- ベンプロペリンリン酸塩
- ペントキシベリンクエン酸塩
去痰薬
- ブロムヘキシン塩酸塩
- アンブロキソール塩酸塩
抗ヒスタミン薬
- 第一世代:クロルフェニラミンマレイン酸塩、クレマスチンフマル酸塩、ヒドロキシジン
- 第二世代:ロラタジン、セチリジン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩(アレグラ)など
抗アレルギー薬
- クロモグリク酸ナトリウム
気管支拡張薬
- サルブタモール硫酸塩
- テルブタリン硫酸塩
- クレンブテロール塩酸塩
- テオフィリン
- イソプレナリン塩酸塩
止瀉薬、整腸薬
- ロペラミド塩酸塩(トメダインフィルム)
- 乳酸菌(ビオフェルミン)
抗菌薬
- ペニシリン系
- セフェム系
- マクロライド系
- リンコマイシン系(ただし、添付文書には投与しないことが望ましいと記載されています)
ワクチン
- インフルエンザワクチン
※妊婦・授乳婦のインフルエンザワクチン接種に関しては、「インフルエンザワクチン、妊婦さんや赤ちゃんは予防接種を受けるべき?」をご参照ください。
漢方薬
- 香蘇散
- 参蘇飲
- 麦門冬湯
- 小柴胡湯
- 柴胡桂枝湯
- 柴胡桂枝乾姜湯、
- 小青竜湯(麻黄含有、長期不可)
- 葛根湯(麻黄含有、長期不可)
「市販のかぜ薬!何が違うの?~成分を強化したかぜ薬が増えてます~」で、市販の風邪薬の成分早見表を掲載しています。参考までにご覧ください。
授乳中のお薬について
授乳中の場合でも、極力お薬の服用は避けたほうが良いでしょう。乳児が母乳を介しての経口摂取に変わるため、小児にも使用できる薬剤の場合にはそこまで厳重な注意は必要ありません。つまり必ずしも危険性が高いわけではなく、たいていの場合は薬を使いながら母乳育児を続けることができるのです。
授乳時期に注意しましょう
特に注意が必要なのは、生後1~2ヶ月くらいまでです。まだ肝臓や腎臓の働きが不十分で、薬を排泄する能力が低いため、場合によっては母乳中の薬が赤ちゃんの体内にたまり、思わぬ症状を起こすおそれがあります。母乳による副作用報告例は少ないのですが、その多くは新生児で起きています。
離乳食を始めるころには、赤ちゃんの発育とともに母乳を飲む量も減り、薬の影響は少なくなります。
赤ちゃんを観察してください
薬を飲みつつ授乳している場合、念のため、赤ちゃんの様子をよく観察しましょう。母乳の飲み具合・眠り方・機嫌・便の状態などに注意してください。もし、決まった時間に母乳を飲まなくなった、1回の睡眠時間が普段と異なって異常に長い(4時間以上)、うとうと状態が続く、変にぐずる、いらいら感、下痢、発疹など普段にない症状がみられたら薬を飲むのを止めて、早めに医師に相談するようにしてください。
薬を飲むタイミングを工夫しましょう
薬は、飲んだあと徐々に血液や母乳に移行していきます。一般的に、母乳中の薬の濃度が最高になるのは2~3時間後です。ですから、薬の服用直前あるいは直後に授乳をすれば、赤ちゃんへの影響は少ないでしょう。
「毎食後」「寝る前」といった指示がある場合には、服用時点の変更が可能かどうか医師や薬剤師に相談しておくとよいでしょう。
授乳中の女性が風邪を引いた時に安全に使用できると思われる薬
妊娠中の薬に加えて特徴的なのが、薬剤によっては解熱消炎鎮痛剤の使用が可能になることです。以下、太字の項目が妊娠中との変更点になります。
解熱鎮痛剤
- アセトアミノフェン
- イブプロフェン
- インドメタシン
- ジクロフェナク
- ナイキサン
- フルルビプロフェン
- ケトプロフェン
鎮咳薬
- デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物
- ジメモルファンリン酸塩
- ベンプロペリンリン酸塩
- ペントキシベリンクエン酸塩
去痰薬
- ブロムヘキシン塩酸塩
- アンブロキソール塩酸塩
抗ヒスタミン剤
- 第一世代:クロルフェニラミンマレイン酸塩、クレマスチンフマル酸塩、ヒドロキシジン、トリプロリジン、ジフェンヒドラミン
- 第二世代:ロラタジン、セチリジン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩(アレグラ)など
抗アレルギー薬
- クロモグリク酸ナトリウム
気管支拡張薬
- サルブタモール硫酸塩
- テルブタリン硫酸塩
- クレンブテロール塩酸塩
- テオフィリン
- イソプレナリン塩酸塩
止瀉薬、整腸薬
- ロペラミド塩酸塩(トメダインフィルム)
- 乳酸菌(ビオフェルミン)
抗菌薬
- ペニシリン系
- セフェム系
- マクロライド系
- リンコマイシン系
- ニューキノロン系
- イソニアジド
- リファンピシン
- エタンブトール
ワクチン
- インフルエンザワクチン
<漢方薬>
- 香蘇散
- 参蘇飲
- 麦門冬湯
- 小柴胡湯
- 柴胡桂枝湯
- 柴胡桂枝乾姜湯、
- 小青竜湯(麻黄含有、長期不可)
- 葛根湯(麻黄含有、長期不可)
太字の部分が相違点です。
抗菌剤については、新しい系統の薬が含まれてきます。他の分類については、妊娠中とほとんど同じです。なお、乳児の時期によっても安全性に差があるため、処方された時にはしっかりと医師・薬剤師に注意点等を尋ねるようにしましょう。
復習:妊婦さん授乳婦さんが気をつけたいこと
妊娠中
市販薬で総合風邪薬を探すのは難しいです。解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン(タイレノール)、漢方薬がよいでしょう。漢方薬でも麻黄の入っているものは短期が良いと考えられます。絶対過敏期の初期・早期は、まずは病院へ行きましょう。
授乳中
一般の市販の総合感冒薬も使用が可能になってきます。購入時によく相談してください。ただし、服用時には乳児の観察をよく行ってください。
心配であれば、服用直後に授乳を行うのが、一番移行濃度が低いと考えられます。漢方薬の使用も可能です。
まとめ
今回は妊娠中と授乳中のお薬について簡単に紹介しました。詳細については参照に記載したリンクを参考にしてください。もらった薬の添付文書も、しっかりと確認しましょう。
とはいえ、まずは風邪を引かないことが第一です。水でのうがい手洗いをしっかりして、薬を飲まずに済むようにしたいものですね。