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皆さん、保健所って何をしているところか知っていますか?地域住民の健康増進、疾病予防のために様々な活動をしているのですが、今回は「感染症」における保健所の役割を紹介します。

感染症の流行を防ぐために保健所は何をするの?

まずはこちらの図を見てみてください。

保健所の介入による感染症患者抑制効果

※筆者作成

この図が保健所の役割を最も分かりやすく説明しています。

保健所の主な役割は次の二つです。

  1. 予防
  2. 発生時の拡大防止

一つ目の「予防」のための事業で最も分かりやすいのは「ワクチン接種」です。例えば母子保健の一環で、子どもたちは実に多くのワクチンを接種します。他にも市民へのエイズ防止啓発運動、ノロ防止のためのお届け講座などを実施しています。「予防」の方は分かりやすいと思いますので、二つ目の「発生時の拡大防止」を中心に話をしていきます。

ここで先ほどの図が出てきます。感染症の流行を早期に察知し早期介入することで、この図のように感染拡大を防止することが出来るのです。

どうやって感染症の流行を察知するの?

保健所は「感染症発生動向調査」の一環で、予め定められた感染症の患者数の集計、情報収集をしています。その感染症にかかった患者を全て報告しなければならない「全数届出疾患」と、決められた診療所・病院で報告するようになっている「定点報告疾患」があります。

「全数届出疾患」の代表例としては結核マラリアAIDS梅毒デング熱エボラ出血熱などで、大体のイメージとしては致死的であったり、非常に感染力の強いウイルス・菌です。

「定点報告疾患」はインフルエンザおたふく風邪(流行性耳下腺炎)RSウイルス感染症、性器クラミジア感染症などで、「全数届出疾患」よりは患者数も多く全数を把握するのは労力になってしまうが、流行時期などがあるために動向を押さえておいた方がよい疾患です。

これらを報告することが医師の義務となっていて、診療所や病院で働いている医師たちはこのような疾患に出会った場合、せっせと保健所にfaxを送って報告しているのです。それを保健所の職員がデータベースに打ち込んで、例えば「東京都感染症情報センター」の発表、警告が更新されているのです。

<インフルエンザ 2013、2014年度 東京都動向調査>

インフルエンザ 2013、2014年度 東京都動向調査

※東京都感染症情報センターより

このような医師と保健所職員を始めとした多くの方々の努力によって、感染症の動向が監視されているのです。このようなマメな作業の積み重ねは、日本人くらいしか出来ないんじゃないかと思ってしまいます。

さて、では早期に感染症の発生・流行を察知した後はどのような介入をするのか。ここからは私自身も保健所に在籍していた時に関わった、デング熱を例に説明してきます。

デング熱の患者が発生したら?

デング熱と診断がついた場合、あるいは疑いが強い場合、医師は保健所に届出ます。届出を受け取った保健所は、データベースへの登録を済ませると共に調査を始めます。電話もしくは患者さんが入院している病院に出張して、聞き取りを行います。

  • 発症前にいつどこで蚊に刺されたか?
  • 蚊に刺された時、同行していた人はいたか?同行者も蚊に刺されたか?
  • 蚊に刺されてから発症するまで、どこで何をしていたか?

こういった聞き取りを行うことで、「患者がどこで感染したか」、「どこにウイルスを持っている蚊がいるのか」を突き止めていきます。さらに拡大を防止するため、患者が入院せずに自宅で療養していた場合は外出を控え、蚊に刺されないように勧告します。

このような努力の積み重ねで、今年(2014年)の夏に流行したデング熱の感染源が代々木公園だと突き止められたのです。代々木公園は立ち入り禁止となり、(実はエビデンスに乏しいのですが)蚊の駆除作業が行われたわけです。

このような形で感染症に保健所が関わり、感染防止策を行っていきます。

エボラ出血熱対策を知っておこう

少し話題が古いのですが、エボラ出血熱を例に私たちがどのように保健所の感染症対策と関わるのかもお話ししましょう。

エボラ出血熱について保健所がどのような役割を担うのでしょうか?エボラ出血熱が疑われる患者が身近に出た場合、私たちは何をしたらいいのでしょうか?

厚労省がH26年8月に出した「エボラ出血熱疑い患者が発生した場合の標準的対応フロー」によると、保健所の役割は以下の二つです。

1. 症例についての概要を取りまとめ、都道府県等へ報告

2. 検査の実施を都道府県等と相談

その後の対応については、都道府県、厚労省へと情報が上がっていき、国立感染症研究所なども調査に加わって結果の公表、対策がなされていきます。

では、3日前にギニアから帰ってきた家族が高熱、嘔吐を催しエボラ出血熱が疑われる場合どうしたらいいのか?下手に介抱したり、病院に連れて行ってしまっては、自分も含め感染が拡大します。

このような時に保健所に連絡するのです。都道府県によって対応が異なりますが、例えば山梨県の場合、そのような報告を受けた保健所は防護服を着た保健所の職員が専用車両に患者を乗せ、県内で唯一の受け入れ先になっている県立中央病院に搬送します。

このような形で、保健所は感染の拡大防止に努めているのです。

社会経済の破綻を防ぐ〜新型インフルエンザを例に

今までデング熱とエボラ出血熱を例に感染症の「予防」・「発生時の拡大防止」における保健所の役割を説明してきました。最後には新型インフルエンザを例に、あと一つの保健所の重要な役割、「社会・経済の破綻を防ぐ」ということについて見ていきたいと思います。

インフルエンザのように非常に感染力の強い感染症の場合、労働者が感染して労働生産性が低下するだけでなく、流行を防ぐための対策をとると同時に、社会機能が破綻しないようなバランスを保っていく必要があります。

感染拡大を防ぐために、

  • 住民への情報発信・啓蒙活動
  • 感染者との接触者の外出自粛
  • 学校等の休業
  • 公共施設の閉鎖
  • 公共交通の運行自粛
  • 集会の自粛

といった対策を行っていきます。これらの対策を行うためには保健所・地方自治体・国が上手く連携する必要があり、保健所は住民の実状、流行状況、課題を把握し、住民と地方自治体、国、医療機関の橋渡しをしていくことになります。

まとめ

このような形で保健所は感染症の予防・感染拡大の防止に加え、「社会・経済の破綻を防ぐ」ためにも働いています。私たちが直接保健所に関わるとすれば、家族など身近な人が感染症にかかってしまって、病院に行くかどうかも含めて分からないことがあった場合、保健所のHPを見たり電話することで必要な情報を手に入れることが出来ます。