新しい生命がお腹の中に宿るのは、とても喜ばしいことです。ですがそれと同時に、お母さんの体にとっては様々な症状が起こり、不安になることもたくさんあると思います。今回は、中でもよく耳にする「妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)」について解説していきます。

目次

妊娠中毒症とは何か

妊娠中毒症は、現在は正確には「妊娠高血圧症候群」といいます。

妊娠した時に、妊娠前にはなかった様々な異常が起こることがあります。具体的には、妊娠20週以降に高血圧がみられ、出産後12週までに血圧が正常に戻るのが妊娠高血圧症候群です。20人に1人程度の割合で発症します。この場合の高血圧とは、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上を指します。妊娠高血圧症候群では、このうちの拡張期血圧が上昇する特徴があります。
以前は、妊婦さんの高血圧、蛋白尿、むくみの症状が現れる病気を「妊娠中毒症」と呼んでいました。しかし、最新の研究で、妊娠中毒症は「血管の病気」で、その中心的な原因は高血圧であることが分かってきました。このため、現在は高血圧を他の症状とは区別して「妊娠高血圧症候群」と呼びます。

妊娠高血圧症候群の危険性

赤ちゃんの足

妊娠高血圧症候群が重症化すると、母子ともに様々なリスクが生じます。

妊婦さんへの影響

この病気を発症するのは、妊娠32週以降が多いです。しかし、最も重症化しやすく注意が必要なのは「早発型」と呼ばれる、32週未満で発症した場合です。

重症化した場合、妊婦さんの体には血圧の上昇蛋白尿といった症状に加え、脳出血子癇(しかん)と呼ばれるけいれん症状、腎臓・肝臓の機能障害、最悪の場合、HELLP(ヘルプ)症候群と呼ばれる肝機能障害や溶血を伴う異常が起こります。

胎児への影響

妊娠中毒症によってよくない影響を受けるのは、お母さんだけではありません。お腹の中の赤ちゃんにも様々なリスクが生じます。

  • 胎盤からうまく栄養がわたらず発育が悪くなる(胎児発育不全
  • 通常よりも体重が少ない赤ちゃんが生まれる(低出生体重児
  • 生まれる前の赤ちゃんが胎盤からはがれてしまう(常位胎盤早期剥離
  • お腹の中で赤ちゃんが急に亡くなってしまう(子宮内胎児死亡

などの異常に繋がることもあります。

このような状態になると、お母さんも赤ちゃんも非常に危険な状態です。できるだけ早く赤ちゃんを体外に出すため、帝王切開が行われることもあります。

妊娠高血圧症候群を防ぐには?

外国人の妊婦

実は、妊娠高血圧症候群の明確な原因は分かっていません。

しかし、以下に当てはまる人は妊娠高血圧症候群を起こしやすいとされています。

  • 35歳以上、または15歳以下の女性
  • 初産の女性
  • 肥満(BMI25以上)の女性。BMIは体重(kg)÷身長(cm)÷身長(cm)で計算できます。
  • 多胎妊娠(双子など)
  • 糖尿病、高血圧、腎臓病などの持病を持っている人
  • 以前の出産時に妊娠高血圧症候群にかかった人

その他、急激な体重の増えすぎや塩分の摂り過ぎも妊娠高血圧症候群のリスクを高めることが分かっています。一般的には、体重の増加も、妊娠全期間を通して10kg以内が望ましいとされています。また、食事は「高カロリー低塩分食」がよいです。納豆やお豆腐などの大豆製品、塩分の摂取は1日に10g以下に留めるのが良いでしょう。

医師や助産師・保健士などと相談しながら適切な栄養管理を行いましょう。

食生活については、「痩せすぎも太り過ぎもダメ!?妊娠中の食生活」の記事もご参照ください。

妊娠高血圧症候群の治療法

妊婦とベビー服

軽症の場合は、基本的に体重塩分制限による治療が中心となります。重症化した場合は、血圧を下げる降圧剤を使用します。お母さんや赤ちゃんの状態次第では、早い段階であっても帝王切開などによってすみやかにお産にし、それから双方の治療を行うケースもあります。

基本的には、産後、お母さんの状態は良くなることが多いです。ただし、重症の場合は出産後も高血圧が続くことがあります。 出産後も84日以上にわたって高血圧状態や蛋白尿が続く場合、他の病気のおそれがあるので、詳しい検査がすすめられます。

最後に

明確な原因や予防法が確立されていない妊娠高血圧症候群を防ぐのはとても難しいです。しかし、かかりつけの医師の健診をしっかりと受け、過度な体重増加を予防し、適切な生活を送ることが大切です。元気な赤ちゃんを産むため、まずは食生活に気を配りたいものです。妊娠中に気を付けていただいことについて解説している「痩せすぎも太り過ぎもダメ!?妊娠中の食生活」も、ぜひお読みください。