認知症は年々患者数が増えつつあり、誰でもかかりうる病気です。今のところ認知症を完全に回避する方法はありませんが、適切な予防策によって認知症にかかりにくくすることができます。また、認知症にかかってしまったら、早期の治療によって症状の進行を遅らせることができます。ここでは認知症予防の5つの対策と3つの治療法を紹介します。

目次

認知症予防のための5つの対策

認知症のなかでも患者数の多いアルツハイマー型認知症脳血管性認知症では、生活習慣病(高血圧や糖尿病等)が発症のリスクを高めることがわかっています。また、生活環境が深い影響を及ぼします。そのため、食生活の改善や運動によって、脳を健康な状態に保つことが予防になります。また、人と積極的に関わったり、知的な行動を意識した生活をすることで、認知機能を鈍らせないことも重要です。

1.バランスのとれた食生活を心がける

認知症_野菜

血糖値の上昇は生活習慣病、そして認知症のリスクを高めます。砂糖の入った甘い食べ物や飲み物は控えましょう。また、食事のときは、野菜などを先に食べて、後から米や麺類などの炭水化物を少しだけとるようにしてください。また、魚や肉、卵、乳製品、大豆製品などからタンパク質を毎日とり、ココナッツオイルやオリーブオイルなどの質の良い油を使うようにしましょう。

また、以下の食べ物に含まれる栄養素は認知症予防に効果がありますので、積極的に取り入れて、バランスのとれた食生活を心掛けましょう。

  • 青魚 ― ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸
  • 野菜や果物 ― ビタミンC、ビタミンE、ビタミンB、ポリフェノール、食物繊維
  • 緑茶、赤ワイン、クミン― ポリフェノール
  • ココナッツオイル― 中鎖脂肪酸

2.定期的な運動を取り入れる

運動は脳の血流をアップし、認知機能を向上させ、認知症のリスクを減らすことがわかっています。特に、ウォーキングなどの有酸素運動は記憶力を高める効果があることが多くの研究で明らかとなっています。

フィンランドで1400人以上を対象とした研究では、中年期から少し汗をかく程度の運動を週2回以上、20〜30分行うことで、20年後にアルツハイマー型認知症になるリスクが約1/3に減少しました(PubMedより)。

少なくとも毎日30分程度、週2~3日程度の有酸素運動を継続して行いましょう。さらに、体を動かしながら暗算をしたり、しりとりをしたりするなど頭を使うとさらに効果が高まります。

3.人と積極的に交流する

一人暮らしで閉じこもりがちの生活をしていると、コミュニケーションによる脳の刺激が少なくなり認知症のリスクが高まります。「仕事を辞めるとボケる」と言われるのもこのためです。ボランティアやサークル活動に参加したり、友人や親族と週1回以上会うなど、人との積極的な交流を心掛けたいものです。

4.知的な行動を意識した生活をする

認知症_本

「新聞・雑誌を読む」「囲碁や将棋をする」「日記を書く」「絵を描く」「認知トレーニングをする」など、頭を使う活動は脳を刺激し、老化予防に役立ちます。様々な新しいことにチャレンジし、楽しみながら色々な脳の部位を刺激するようにしてみましょう。

5.十分な睡眠をとる

十分な睡眠をとることが認知症の予防に繋がります。例えばマウスの実験では、睡眠時間を制限するとアルツハイマー型認知症の原因物質であるβアミロイド(脳の老廃物)の沈着が増えたという報告(PubMedより)があります。

また、眠っている間に脳の老廃物が除去・排出される(PubMedより)ため、あまり睡眠時間が短いとアルツハイマー型認知症にかかるリスクが高くなると考えられます。6~8時間を目安に、規則正しい睡眠をとるように心掛けましょう。

しかし、一般的に年をとるに連れ眠りが浅くなり、睡眠時間も短くなりますので、質の高い睡眠がとれるよう、寝室の環境や寝具などを整えるなどして工夫しましょう。日中眠くなったら昼寝をしても良いですが、短時間にとどめましょう。30分以内の昼寝は認知症のリスクを下げるという報告があります。

認知症の3つの治療法

今のところ認知症を完全に治す治療法はありません。現在は、症状の進行を遅らせることが治療の目的となっています。

1.生活習慣の見直し

認知症を発症しても、症状の改善や進行抑制に上記の予防法は有効です。生活習慣を見直して、できるだけ認知症が進まないように工夫しましょう。

2.薬による療法

アルツハイマー型認知症では、脳内のアセチルコリンという物質を増やしたり、過剰なグルタミン酸による神経細胞死を防ぐ薬などによってある程度症状の進行を遅らせることができます。レビー小体型認知症でもアセチルコリンを増やすお薬の効果が期待できます。脳血管性認知症、前頭側頭型認知証では、症状に応じた薬物治療が必要に応じて行われます。妄想、徘徊、興奮などの症状が重いときには、症状改善のために抗精神病薬などを利用する場合もあります。

3.リハビリテーション

認知症_ヘルパーと男性

認知症のリハビリテーションは、脳の各部分に刺激を与えて機能の低下を抑えたり、残された脳の機能を活性化させたりすることが目的です。料理や買い物、掃除など、普段の家事も脳の活性化には有効ですので、できる範囲で続けてもらうことをおすすめします。また、簡単な計算、音読、書き取りや、昔の話を思い出して話す回想法、音楽療法、芸術療法など、様々な手段によって多角的に刺激を与えることが脳の機能低下を抑えるために重要です。

家族によるケアが大切

認知症では予防においても症状改善においても、家族によるケアが大切になります。高齢の家族がいる場合は、予防のための対策を心掛けましょう。また、認知症と診断された場合は、家族が病気についての理解を深め、本人の気持ちを尊重しながら前向きに関わっていくことが大切になります。

まとめ

認知症予防の対策は、毎日の生活に取り入れやすいものばかりでしたね。きちんと治療をすれば治る認知症もありますので、認知症と診断されたとしても焦ることはありません。また、アルツハイマー型認知症など治療法の確立されていない認知症の場合も、専門医との相談のもと家族で協力し、少しでも症状の進行を抑える努力をしていきましょう。