最近は認知症という言葉も広く知られるようになりましたが、認知症の代表的な症状の一つに物忘れがあります。物忘れがあると、認知症になってしまったと不安になる人も多いようですが、物忘れは正常な脳の老化現象でも起きる場合があり、認知症ではないこともあるのです。自分や家族の物忘れがどちらなのか判断できるよう、認知症による物忘れと加齢による正常範囲の物忘れの違いについて説明していきます。

目次

物忘れはなぜ起きる?

脳は1400gほどの重さですが、心臓が動くのも呼吸できるのも脳があるからで、私達が生きていくには絶対に必要なものです。

脳には主役である神経細胞があり、電気信号によって情報をやりとりしています。その数は大脳で数100億個、小脳では1000億個にもなるのです。神経細胞は呼吸や心臓を動かすだけではなく、経験した事からいろいろなことを学んだり、言葉を話したり、感動したり、今日の出来事を記憶する働きもあります。

物忘れが見られるものにはいわゆる認知症の他にも甲状腺機能低下症うつ病正常圧水頭症慢性硬膜下血腫などがあります。また注意欠陥多動性障害(ADHD)で注意力の不足から物忘れと感じる方もいますし、睡眠薬や抗生物質などの薬剤が原因の場合もあります。原因となる病気を治療することで物忘れが改善する可能性があるので、まずはこれらの病気と認知症を見分けることがとても重要です。

これらの病気でないことを確認した上で、物忘れが認知症の症状かどうかを診ていくことになります。

加齢によるものと認知症の違いは?

思い出せずに悩む男性

もし、前に挙げたような病気でなかったとしてあなたの物忘れは認知症によるものでしょうか。

分かりやすい例えでいうと、誰かに今朝何食べたか聞かれたとします。加齢による正常範囲の物忘れであれば、メニューが浮かんでこなくて考えこんでしまっても、今朝、朝食を食べたことは覚えています。しかし認知症の物忘れでは、メニューではなく食べたと言う出来事(エピソード)自体を忘れてしまうのです。

加齢による正常範囲の物忘れと認知症の違いについて、以下の表を見ながら自分や家族の物忘れがどちらか確認してみましょう。

加齢による正常範囲の物忘れ 認知症による物忘れ
体験したこと 一部を忘れる(ごはんのメニューを忘れる) 全部を忘れる(ご飯を食べた事を忘れる)
物忘れの自覚 自覚がある 自覚がない
日常生活 支障がない 支障がある
症状の進行 ここ1~2年で大きな変化がない 1~2年で増えている

ただし、ごく初期のアルツハイマー型認知症の方では物忘れの自覚がある方は沢山いますし、前頭側頭葉型認知症では物忘れが目立たずに進行も遅いので上の表のとおりではない例外もたくさんあります。

物忘れ(特に最近の出来事を思い出せないなど)を始めとして、昔は綺麗好きだったのに最近だらしなくなった、理解力が悪くなった、以前うまくできていたことができなくなった等、以前と比べておかしいなと思ったら認知症の症状の可能性がありますので、一度専門の医療機関に受診することをお勧めします

認知症は脳の病気

薬9

加齢による正常範囲の物忘れは、正常な脳の老化なので、治療の必要はありません。しかし認知症は脳の病気なので、治療が必要になります。認知症の中で大多数を占めるのが、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭葉型認知症の4つですが、物忘れが早期の段階から見られることが多いのは、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症です。

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症は早期に発見し、適切な治療を施すことで症状の進行を遅らせることができるとされています。物忘れが気になるようであれば、早めに物忘れ外来のある認知症専門の医療機関などに受診しましょう。

まとめ

確かに認知症では物忘れが起きてしまいますが、物忘れ=認知症ではありません。正常な脳でも老化してくると、物忘れが起きることはあります。ただ、認知症の物忘れは、物忘れをしている自覚がないことが多く自分では気付きにくいために、家族等の周りの人が認知症かもしれないと気付いてあげなければ、早期発見は難しくなります。おかしいと感じたら、検査だけでも受けに病院へ行きましょう。