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くも膜下出血とは

脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜と呼ばれる3層の膜に包まれています。くも膜下出血とは種々の原因で、くも膜と脳の間にある「くも膜下腔」という脳の隙間に出血が生じた状態を指します。くも膜下出血の85%は「脳動脈瘤」と呼ばれる脳血管の「こぶ」が破れることによって生じます。一度この脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を生じると、多い報告ではおよそ50%の死亡率と言われています。本稿では、原因として最も頻度が高くかつ死亡率が高いためにその予防が社会的にも重要である脳動脈瘤破裂くも膜下出血について紹介します。

どのような人がくも膜下出血を起こしやすいか

血の繋がりのある一親等(親子の関係)以内に脳動脈瘤をお持ちの方がいる方、男性より女性、人種としては日本人とフィンランド人にくも膜下出血が多いと言われています。また改善可能な生活習慣としては喫煙、高血圧、大量(1週間に例えば350mlのビールで8本以上強)の飲酒がくも膜下出血のリスクを高めると言われています。

くも膜下出血を予防するには

動脈瘤破裂くも膜下出血を起こすということはそもそも脳動脈瘤を持っていたということです。破裂していない動脈瘤ということでこれを未破裂脳動脈瘤と言います。未破裂脳動脈瘤を前もって見つけて治療をすることでくも膜下出血の予防をするという選択肢があります。脳動脈瘤があるかどうかを調べる検査のことを「脳動脈瘤のスクリーニング」と言います。これは主にMRIという磁石の力を用いて頭の画像を撮影する装置を用いて行います。しかし、脳動脈瘤自体は30歳以上の成人においては100人検査をすると3人強で見つかると言われており検査で脳動脈瘤が見つかることは決して珍しいことではありません。更に脳動脈瘤の破けやすさに関係する大きさ、場所、形等を度外視して、すべて押しなべて考えるとざっくり見積もって1年あたり全ての動脈瘤の1%程度が破けると言われています。そこで、どのような脳動脈瘤が、破けてくも膜下出血を起こしやすく、どのような脳動脈瘤がそうでないかを検査によって知ることが重要になります。「くも膜下出血のリスクが人種として高いと考えられている日本人の動脈瘤がどの程度破けるか」という疑問に答えるデータがこれまでにいくつか報告されています。UCAS JAPANやSUAVeと呼ばれるデータが有名ですが、それぞれがどのような脳動脈瘤がくも膜下出血を起こすかという重要な問題に示唆を与えてくれるデータです。

検査で脳動脈瘤が見つかったら

くも膜下出血

2017年1月現在、残念ながら内服することで脳動脈瘤を治癒させる薬は登場していません

脳動脈瘤が破れてくも膜下出血を発症することを防ぐための方法は手術に限られます。手術の目的は壁が弱く破れる可能性がある「こぶ」である動脈瘤に入っていく血流を遮断することですが、この目的を達成するために2つのアプローチが確立されています。開頭クリッピング術及びコイル塞栓術です。

前者では手術で脳動脈瘤を実際の直視下でクリップと呼ばれる金属で挟んできます。後者では、足の付け根や腕の血管から頭の血管までカテーテルを通して、動脈瘤の中に細くて柔らかい金属のコイルを詰めてきます。どちらも手術ですから、動脈瘤以外の血管が詰まってしまったり、手術の途中で動脈瘤が破けてくも膜下出血を発症したり、手術に伴う合併症の可能性が全くないとは言えません。つまり、見つかった動脈瘤の大きさ、場所、形、周囲の血管や脳の構造を総合的に判断して、「動脈瘤に対する手術をしなかった場合にくも膜下出血を生じるリスク」と「動脈瘤に対して手術をした場合の合併症のリスク」を適確に評価し、それらを天秤にかけて治療をするかどうか検討することが必要となります。

もちろんこの判断には例えば「脳動脈瘤を持っている事自体が心配で外出するのも嫌になってしまった」とか「破ける可能性はあっても破けない可能性もあるならばとにかく手術は受けたくない」等、おひとりおひとりの医療に対するニーズも大きく影響します。

一度動脈瘤が破けたくも膜下出血は前述のように半数近くの方が不幸な転機を辿ると言われている救急疾患であり、診断を受けた後に遠くの病院へ転医するというのは移動に際してのリスクもあり難しい現状がありますが、未破裂脳動脈瘤に対する手術はあくまでも予防の手術であり、一方予防の手術ではあるものの、重篤な合併症のリスクもゼロにはならない手術ですので、じっくり相談に乗ってくれる主治医を見つけて治療方針を相談することも重要だと思います。