今や「超高齢社会」となった日本。医療の進歩によって平均寿命が伸び、少子化が進むにつれ、高齢者の占める割合は増加しています。
これから先、介護を必要とする方はますます増えていくでしょう。

そんな中で、「口腔ケア」は非常に重要となります。なぜなら、「口腔ケア」はただ単に虫歯や歯周病を予防するためだけのものではないからです。

目次

口腔ケアって何のため?

そもそも「口腔ケア」にはどんな目的があるのでしょうか?

美味しいものを美味しく食べることは、生きる喜びに繋がりますし、食べることは全身の健康を維持することに繋がります。食べるためには、お口の状態も整っていなければなりません。
そのために必要なのが「口腔ケア」です。このように「口腔ケア」は、健康面や心理面への影響が大きく、高齢者のQOL(生活の質)を向上させることにも大きく関係しているといえます。

お年寄りや介護が必要な方の歯のケア

口腔ケア

1.歯みがき(ブラッシング)

虫歯や歯周病だけでなく、誤嚥性肺炎を防ぐためにも、毎食後のブラッシングで口腔内を清潔に保つことは重要です。

  • 自分で磨ける場合はなるべく自分で磨いてもらいましょう。動かすことが困難な場合は電動歯ブラシを使用するのも良いでしょう。手を使うことはリハビリにもなります。
  • 片麻痺などがある場合は、柄の部分にスポンジを巻いて太くする、割り箸をつけて柄を長くするなど、握りやすいように工夫しましょう。
  •  経管栄養をしている場合や歯がない場合でも、ブラッシングは必要です。 柔らかい歯ブラシで歯茎をマッサージするように優しく磨きましょう。唾液分泌や血行の促進、口腔周囲の筋肉を刺激することにより機能低下を防ぐといった効果もあります。(経管栄養の場合は、嘔吐を避けるために空腹時に行う)
  • ブラッシング時の体位は、座位またはファーラー位(上半身及び頭部を45度に起こした半座位)が安全です。上顎が上に上がると誤嚥しやすくなるので、真っ直ぐまたは少し前かがみの姿勢になるようにしましょう。

2.顎と舌のケア

歯だけでなく、舌や上顎にも歯垢などの汚れがつきます。そのままになっていると口臭の原因になるばかりか、インフルエンザなどの感染症にかかりやすくなり、誤嚥性肺炎の危険性も高まります。

これらは通常、食事や会話などである程度落ちるのですが、加齢などで舌の動きが鈍くなるとついたままになりやすくなります。

  • 歯ブラシや専用の舌クリーナー粘膜用のブラシやスポンジを使いましょう。
  • 舌や上顎の上を奥から手前に優しく10回程度かき出すように磨きます。力を入れたり擦りすぎたりすると傷付けてしまうので注意しましょう。
  •  口腔内が乾燥している場合は、水や保湿ジェルなどで口の中を湿らせてから行いましょう。乾燥したままでは傷付けてしまいやすいので注意しましょう。

3.入れ歯と入れ歯を外した後のケア

入れ歯は必ず毎食後外して洗浄しましょう。歯がなくても、入れ歯と歯茎の隙間に食べかすが入ったり、入れ歯に歯垢や食べかすなどが付着したりします。そのままにしておくと、細菌が繁殖して不潔になり、誤嚥性肺炎などの原因にもなり得ますので注意が必要です。

  • 義歯用ブラシや使い古した歯ブラシなどを使って流水下で磨きましょう。歯磨き粉やお湯は使用不可です。
  • 週に1度、入れ歯洗浄剤を使ってお手入れしてあげると、より清潔に保つことができます。
  • 残っている歯もしっかりブラッシングしましょう。入れ歯を支える金具がかかっている歯は、特に大切です。汚れが残りやすい所でもあるので全周を念入りに磨いてください。

 4.うがい

口腔ケアのうがいは、口に含んで行う“ぶくぶくうがい”です。普段何気なく行っている動作ですが、加齢や意識の混濁などにより難しくなります。誤嚥を防ぐため、うがいができるかどうかを見極めた上で行って下さい

チェックポイント

  • 口の中に水を溜めておける、吐き出せる。
  • 頬、舌が動かせ、唇を閉じられる。
  • 頭をのけぞらせられる。

上記のような動作が難しい場合や、嚥下障害がある場合は、安全のためにうがいは控えて下さい。

代わりにガーゼや綿棒などで口腔清拭をしましょう。殺菌効果のある含嗽剤をしみこませて拭くのも良いでしょう。

※うがいの時の体位:立つもしくは椅子に座って前かがみで行います。寝たきりの場合も同様です。起き上がることが難しい時は、側臥位(横向きに寝た状態)で行ってください。麻痺がある場合は、麻痺側を上にしましょう。

介護をする時に気をつけるべきこと

介護

1.手を出し過ぎない

口腔ケアの場合も他の介護と同様です。本人ができることは、なるべく本人にやってもらいましょう。手を動かすことは、リハビリにもなります。

2.安全に注意をはらう

水や唾液などが誤って気管支や肺に入ってしまうと大変です。必ず安定した、誤嚥しにくい体位をとってもらうようにして下さい。こまめに声をかけ、意識を促すのも良いでしょう。

自分で磨くことができる場合

椅子や肘を置けるようなテーブルを用意し、安定した姿勢が取れるようにして下さい。ベッド上では体を起こし、膝を曲げると姿勢が維持しやすくなります。

自分で磨くことができない場合

後方に立ち胸で頭を支えるようにして安定させましょう。ベッド上で行う場合は、足がつくようにベッドの脇に座って枠を持ってもらい、背中に布団などを置くと安定しやすくなります。

自分で磨けず、体位もとれない場合

ベッド上で体を横向きにしましょう。

3.無理強いはしない

気分がのらないような時や、体調が優れない時などは、無理強いしないようにしましょう。

口腔ケアは毎日の積み重ねです。1日磨かずにいて大きな変化が出ることはあまり考えられないので、神経質にならず、大きく構えていきましょう。

4.口腔内を観察する

認知症や障害などによって、口腔内に異常があっても自分で訴えることができない場合もあります。

気がつかないままでいると、状況を悪化させてしまったり、痛みを我慢したままになってしまうかもしれません。そのような事態を防ぐため、介助者は常に口腔ケアを行う時に口腔内の様子はもちろん、表情や反応などの変化も注意深く観察しておく必要があります。

チェックポイント

  • 歯肉の赤みや腫れ、ブラッシング時の出血、口臭、歯石の沈着・・・歯肉炎歯周病
  • 大きく口を開けない、歯ブラシが口角に触れると痛がる・・・・・・口角炎ただれ
  • ブラッシングを嫌がる、刺激のある食べ物や飲み物を嫌がる・・・・口内炎
  • 舌苔の付着、口腔粘膜の乾燥、ブラッシングを嫌がる・・・・・・・ドライマウス

口腔ケア時の反応により、このような状況だと思われる時は、かかりつけの歯科医院で診てもらいましょう。

外出が難しい場合は、訪問歯科診療を行っている歯科医院に相談してみて下さい。

5.感染症対策

健康な人が唾液や血液に触れても、洗い流せば健康に影響を及ぼすことはほとんどありません。
ただし、以下のようなことに気を付けましょう。

  • 歯ブラシは流水下でよく洗い、しっかり乾燥させましょう
  • コップやうがい受けなども清潔に保ちましょう。
  • 介護の際には使い捨ての手袋を使用しましょう。

衛生を保つことで、自分が感染症にかかる可能性だけでなく、免疫力の低下した相手に感染させてしまう危険性を減らすことができます。

まとめ

いかがでしたか?今の時代、きっと誰もがいつかは介護をする立場、される立場になるでしょう。普段何気なく行っていることを誰かに行うことは、逆に難しいことかもしれませんね。今回お伝えしたことが、あなたの大切な方が健康でいきいきとした生活を送るための参考にして頂けたら幸いです。