冬だけでなく、季節の変わり目にも引きやすい風邪
僕がまだ学生のころ、知人から風邪にまつわるこんな相談を受けました。
「このあいだバイト先で、他のバイトの子が体調崩して急に欠勤したのね。で、その子が電話で言うには、病院に行ったら『ウィルス性の風邪だから、大事を取って休みなさい』って言われたらしいんだけど、これってホントかな? ウィルス性の風邪って、普通の風邪より悪いの?」
 
さて、あなたはこの話、どう思いますか? 「ウィルス性の風邪は、普通の風邪より悪い」のでしょうか?
今回は、意外と知らない「風邪」の本質と症状について、また風邪と勘違いしやすい病気についてもご紹介します。

目次

※この記事は、執筆者が研修医の時に作成した記事です。

感染はWhatとWhereで考える

風邪についてよく知らない方でも、風邪が感染症の一種であることはなんとなくご存知でしょう。さて、我々医師が感染症をとらえるときには”What”と”Where”の2点がポイントになります。
Whatは「病原体」のこと。細菌やウィルス、あるいはその中間の性質を持つマイコプラズマやクラミジアなど、病気を引き起こす原因となるものたちのことです。
これに対して、Whereは「感染臓器」のことです。上のような病原体が、人体のどこで感染を引き起こすか、という話です。
したがって、たとえば連菌という細菌が扁桃に感染を起こせば「溶連菌性扁桃炎」ということになりますし、マイコプラズマが肺に感染を起こせば「マイコプラズマ肺炎」ということになります。これが感染症のとらえ方の原則です。

風邪とは「ウィルス」による「上気道」の感染

件の「風邪」とは、正式には「かぜ症候群」と呼ばれるもので、「上気道炎」のことを指します。すなわち、ウィルスや細菌が鼻、咽頭、喉頭といった気道の上のほうの臓器に感染する病気が風邪なのです。なお、最近では下気道(気管、気管支、肺)にまで広がるものを総称することもあります(参照:日本呼吸器学会)。
実は、上気道炎や気管支炎の病原体は90%近くがウィルスだと言われています。したがって、典型的な「風邪」は「ウィルス性上気道炎」なのですね。
ウィルスは厳密には生物ではないので、「抗生剤」が効きません。ここが細菌との大きな違いです。幸い、ウィルス性の感染症は重症化するものが少ないため(例外もたくさんありますが)、解熱剤や咳止め、痰切りを飲んで安静にしているしかありません。
知ってるようで知らない風邪とは「ウイルス」による「上気道」の感染だった-図解
ここまで読んでいただければ、冒頭の話の辻褄があわないことはすぐにわかりますよね。風邪の多くはそもそもウィルス性ですし、細菌より悪いということも別にありません。「風邪」のことをよく知らずに妙な言い訳をしてしまったようですね。

咳のどはながバランスよくでるのが風邪

風邪の特徴-病原体-ウイルスと細菌の違い-図解

ウィルスと細菌の違いは、抗生剤が効くかどうかということに加えてもう1つあります。それは、

「細菌は基本的に1つの臓器にしか感染しない。これに対して、ウィルスは複数の臓器に同時に感染しやすい」というものです。
こう書くと「じゃあウィルスのほうが怖いじゃん!」と思われそうですが、そういうことではありません。要するに、ウィルスの感染では複数の症状がでる、ということです。
風邪をひいた時のことを思い出してください。が出たり、のどが痛くなったり、鼻水が出たりと、症状は1つではないでしょう。これらの症状は、それぞれ別の臓器の感染を意味しています。咳は気管支の、のどの痛みは咽頭の、鼻水は鼻・副鼻腔の感染によるものです。これが「複数の臓器」に感染しているということです。ウィルス性の上気道炎では、これら3症状がバランスよく出現します。

一方、これがどれか1つに偏って出現するのが細菌性の感染です。咳だけがずっとつづくなら「細菌性肺炎」や「マイコプラズマ肺炎」の可能性を考えなければいけませんし、のどの痛みだけなら「細菌性扁桃炎」を、鼻水だけなら「副鼻腔炎」を考えなければいけません。いずれも1つの臓器だけに感染が生じた結果なのです。
ウィルス感染であれば抗生剤が必要ありませんから、3症状がまんべんなく出ているときには「風邪かな、家で休んでいれば大丈夫そうかな」と判断できます(例外もありますが)。逆に、細菌感染なら抗生剤治療が効きますので、咳やのどの痛みなど1つの症状だけが続くときには病院に行ってみる価値があります

まとめ —病院に行くべき症状は?—

今回は、意外と知らない「風邪」の話をしました。今まで漠然と口にしていた「風邪」について、よく知っていただけたのではないでしょうか。
「風邪かな?」と思った時には、それがウィルス性なのか、細菌性なのかを頭の片隅で考えてみると、病院に行くべきかどうかがある程度判断できます。咳、のど、鼻の3症状がバランスよく出ていればウィルス性の可能性が高いため、まずは家で安静にして、必要なら市販薬を使うというのが一番いいかもしれません。
逆に、たとえば「熱と咳だけがずっと続いてる…」といった場合、ほんとうは「風邪」ではなく、細菌性の肺炎かもしれません。抗生物質での治療が必要かもしれないので、病院に行ってみることをお勧めします。