口臭についてのお話です。私は四半世紀にわたっての一般歯科医ですので私の経験で特に実際に感じ取れた項目についてお話しさせていただきたいと思います。

口臭の原因、化学物質などはたくさん検索できるものです。
今回は3つのキーワードについてお話しいたします。

目次

1.虫歯

歯医者

1つ目は歯科医師として大変多く遭遇した虫歯、特に一度治療を施した歯が二次的に虫歯になっている場合です。口臭には口腔を清潔に、よく磨きましょう。

特に歯と歯の間や、歯と歯茎の間、舌の上に舌苔をつかないようにと清掃を促します。とても正しいことで、みなさまもご自宅で気を付けられることですね。

ただしここで問題なのがどうしてもご自身では清掃できない口腔内の部分です。私が患者さまの口腔をお預かりした中で、被せ物を外した途端に異臭が広がる経験です。

クラウンやインレーと呼ばれる虫歯の修復物のその中で進行してしまった新たな二次的な虫歯は冠の中なので磨くことができません。金属などの修復物は歯科用セメントで接着しているのですが、長い間の使用においてセメントが溶けてしまったり剥がれてしまったりして隙間が生まれます。その隙間から虫歯などが侵入し歯や歯根を腐敗させます。二次虫歯という原因の腐敗臭は被せ物の隙間から漏れ出してしまいます。

この場合は歯医者さんで治療を施さないわけには悪臭を改善することはできません。虫歯や歯根膜炎という原因を除去し、新たに修復し直すことで口臭を改善しましょう。重度の歯周病による局所的な口臭は抜歯によって改善させる必要もあります。歯周病治療や予防は直接口臭対策でもあります。

2.唾液

2つ目は口臭のある方に多く見られた唾液の減少です。

唾液は私たちの身体の入口である目や鼻と同様に粘膜を湿潤にし、リゾチームによる抗菌作用によって細菌などの侵入を防いでいます。またアミラーゼによる消化の促進や、Phの緩衝という作用もあります。そしてみなさまにもおなじみの自浄作用があります。唾液があることで口腔の清掃と、抗菌と消化、Phを食後の酸性からアルカリ方向へ戻すことで歯を溶かす虫歯を防ぎます。口臭を防ぐことも上記の複合で強力なパワーを発揮してくれています。

唾液はサリバテストという検査で分泌量や緩衝能を測定できます。カリオロジー(虫歯学)やぺリオドンタロジー(歯周病学)でも大変重要な唾液ですが、口臭でも一番のキーポイントです。

この唾液の分泌が減少することが口臭の増加原因になります。しかし、加齢や更年期障害、高血圧などに連用する経口投与剤の副作用で唾液は減少します。喫煙や飲酒もこれの原因です。

実際に就寝中は唾液が減少しますので、朝目覚めたときは多少の口臭がどなたにも発生しやすいのです。

改善策としましては、唾液の分泌を促進する目的の所作で、よく噛んでお食事する。水をよく飲む。すっぱいものを思い浮かべる、昆布を噛むなどがあります。唾液腺のマッサージなども紹介されていますが一番唾液が分泌される舌下腺は下の前歯のベロ側にありますので、舌を使って刺激していただいたりします。

また、全身状態が弱った時や、過度なストレスでも唾液が減少しますので、リラックスして生活できることも重要です。とはいえ私も年齢により不眠なども経験しています。これらをコントロールできたら口臭だけでなく、きっと多くのことが解決できるのでしょうね。

近頃はドライマウス外来や歯科医院でも唾液の検査を行うところもございますので、思い当たる方は相談に行かれてみてください。

3.自臭症

お聞き慣れない名前かもしれませんね、私がお会いした方々はとても辛い思いを持たれていらっしゃいました。このことを紹介させていただくことでこれらの症状をお持ちの方の一助になれたら嬉しく思います。

この自臭症とは、実際にはそれほど多くの口臭がある訳ではないのにご自身ではとても気になさっており、中には外出もままならなく大変な勇気とともに歯科医院へ足を運ばれる方もいらっしゃいます。周りの方が鼻をかんだり、小声でお話ししていたりということ全てがご自身の口臭が原因と考えてしまいます。

私がお話を伺った方には、「3階のオフィスで仕事をしていて下の道路に目を向けると運転手さんがあわてて窓を閉めるんです。」という方がいらっしゃいました。目の前の私には問題ある口臭は感じないのにです。

特に几帳面で真面目な方に多く見られるようです。過去に心無い他人の一言が発症の原因になっていることもあります。症状から対人恐怖症やうつ病と併発することもあるようです。

歯科では何をして差し上げれるのでしょうか。私はともかく客観的に口臭を口臭測定器で測定し、そのデータが特別でないことをご本人に示し、面談させていただく私自身がマスクを外しました。そして実際の口臭は問題ないことを示したかったのですが、私の力不足でご理解いただけないことも多々ありました。

物理的に口臭が口腔の原因ではない場合は他科への受診もお勧めいたします。精神科では自臭症として面談や薬物療法をしていただけます。消化器疾患由来であれば内科への受診も必要です。より充実した生活の一助になれば幸いです。

さいごに

私たち人間、特に清潔好きな国民性の日本で生活する我々も生きている生物です。多少の匂いは持っています。ニンニク料理に舌鼓を打つことも楽しいことです。WHOの健康憲章でも「健康とは心身ともに健康であり社会貢献できること」とあります。

口臭はとてもネガティブに聞こえますが多かれ少なかれあって当然のものでもあります。原因があるのであればひとつずつ塗りつぶしていきましょう。口臭も前向きに向き合うことが一番の改善策であるのでしょう。笑顔でおしゃべりできる楽しい時間をお過ごしいただきたいです。