※本記事では、昨シーズン以前のインフルエンザ流行状況について解説しています。最新の流行状況は、本記事とは異なる場合があります。

昨年のインフルエンザシーズンの特徴としては、ワクチンの流通が遅く数も不足したために、本来なら予防可能であったB型インフルエンザが流行しました。

今シーズンは予防手段であるワクチンの流通はまだ不十分ですが、1回投与で効果のある新薬(ゾフルーザ)の処方が認可されるなど、予防・治療に変化がみられます。ここでは、今シーズンのインフルエンザ対策に関して解説します。

目次

昨シーズン(2017/2018)のインフルエンザワクチンと流行状況

まず、昨シーズンのインフルエンザの概況を説明します。A型については季節性の香港型(H3N2)の流行は小規模であり、どちらかというとA新型インフルエンザ(H1N1pdm09)の割合が多かったです。B型の感染者はA型よりもさらに多く、B型にかかった患者の年齢層の多くは幼児・学童であり成人は少なめでした。

昨年流行したB型およびA新型ウイルスは、どちらもワクチンによる予防効果は良好でした。しかし昨シーズンはインフルエンザワクチンの流通状況が悪く、接種時期も遅れて接種率が低い傾向がありました。インフルエンザワクチンの流通が悪かった理由としては、途中でターゲットとなるワクチン株が変更されたこと、またワクチンの出荷が適切であるかどうか判断する「国家検定」に相次いで不可という判定がされたことが主な原因と考えられています。

今シーズン(2018/2019)のインフルエンザワクチンの流通状況

※本項目は2018年11月時点に記載されたものです。

厚生労働省の発表によると、「本年は昨年より多く、2500万回の接種が可能である」とのことです。前述の「国家検定」も合格していますが、実際にワクチンの接種の時期に突入した今、おおむね半数の医療機関では「インフルエンザワクチンの流通が不十分であり、接種が予定通りできない」という状況が続いています。

この理由としては、昨年、インフルエンザワクチンの流通が不安定で遅れたため、入荷分のワクチンの接種を実施することができず、各医療機関がワクチンを返品するケースが多くなったことが考えられます。

このため、医薬品を販売する卸会社やワクチンメーカーが流通をコントロールするようになりました。その例として、大手のメーカー社の例では、10月上旬から12月下旬までのワクチン流通を12等分するという対応を行っています。こうした状況から、10月から11月では供給が不十分であるためにワクチンが接種できない状況があります。

ただ、厚生労働省は「インフルエンザのワクチンの接種は12月中旬から下旬までに完了することで予防効果はある」と発表しており、今後はワクチンの流通も改善されますので、急いで早い時期にする必要はなく、年内に確実にワクチンを接種することが重要と考えられます。

新薬「ゾフルーザ」とは?

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2018年より、1回の投与でインフルエンザの治療薬となる「ゾフルーザ」が登場しました。現時点では、まだ小児用の顆粒は未承認ですが、年内には承認される見込みです。

この新薬のゾフルーザは、これまでのインフルエンザの薬「タミフル」「リレンザ」「イナビル」など、インフルエンザの増殖を抑制する「ノイラミニダーゼ阻害薬」とは異なり、ウイルスの遺伝子(mRNA)そのものをターゲットとした、新しいメカニズムとなる内服薬です。ゾフルーザは、1回だけの内服で治療が完結するという特徴があります

新薬「ゾフルーザ」とこれまでのインフルエンザ薬との比較

ゾフルーザはA型の季節型にも新型にも、B型にも、また鳥インフルエンザにも有効であることが確認されています。

成人の臨床試験では、インフルエンザにかかったあと薬を何も投与しない場合、発熱の期間は80.2時間でしたが、ゾフルーザを使用して効果がみられた場合には53.7時間と26.5時間の短縮が見られました。一方、これまでのインフルエンザの薬(タミフルなど)でも、発熱の短縮時間は24時間程度です。このため、解熱時間を目安にした場合には、効き目はこれまでの薬とほぼ同等と考えられます。

体内でのウイルス量の変化ですが、ゾフルーザでは内服した翌日にはウイルス量は激減することが示されています。これまでのタミフルなどの薬剤の場合では、薬剤を投与した翌日のウイルスの量は約半分であることから、ウイルス増殖や感染を抑制する作用として、ゾフルーザは良好な効果が期待されています

ですが、A型インフルエンザでは、ゾフルーザを投与してから数日後に、ゾフルーザが効かなくなる耐性ウイルスの出現(アミノ酸変異が起きたウイルス)が認められています。ゾフルーザを季節型A型ウイルスに使用した場合、薬剤耐性ウイルス出現率は成人では9.7%、小児では23%と報告されています。薬剤耐性ウイルスが出現すると、発熱の期間も延長する(成人では63.1時間、小児では79.6時間)ようです。

新薬ゾフルーザでは、1回の投与ですむメリットがあります。解熱期間の短縮は従来の薬とほぼ同じですが、A型インフルエンザの場合ではアミノ酸変異などによる変異のリスクがあります。

【2019年1月28日追記】

国立感染症センターは、ゾフルーザを使用した患者から、この薬剤の効き目が低い「耐性ウイルス」が分離・検出されたことを報告しました。このウイルスが、集団感染するかどうかはまだ不明でありますが、こうした薬剤耐性のウイルスが発売後1年程度で検出されたことから、インフルエンザに関して、従来の薬剤を含め適切な薬剤使用を検討する必要があります。

まとめ

今シーズンのインフルエンザの対策は、例年通りにワクチン接種が重要であります。11月時点ではまだ流通は不十分ですが、12月までに接種を完了させてください。また、治療面ではゾフルーザという新薬が登場しますが、これまでのインフルエンザ薬との効果では発熱期間は同等である反面、1回での投与で終了します。