マイコプラズマ感染症を一言でいうと、「発熱としつこい咳が特徴です。初期症状は風邪と変わらないが発熱が続き咳もだんだん出る…このような経過が特徴的です。ほとんどは外来の治療で済みますが、この数年でその診断や薬剤耐性化による治療は変化しつつあります。

目次

マイコプラズマ感染症の特徴

一般的な肺炎では、細菌・ウイルスにより空気の通り道である気管支・肺がダメージを受けます。このため、聴診器で聴くと、痰がゼロゼロするような音が聞こえます。一方、マイコプラズマは気管支や肺を直接障害しないために、ゼロゼロした音が聞こえないことが多いです。

また、マイコプラズマはよくある細菌とは異なり、細胞壁という骨格を持ちません。よく使われている抗生剤はこの骨格がある細菌に対して効果を発揮しますが、マイコプラズマはその骨格(細胞壁)がないため、効果がある抗生剤は限られています。

多くは、学童から20代・30代までの若い年齢層に多くみられます。乳児・幼児では肺炎に至る経過は少ないです。また、一度かかっても十分な免疫がないため、数年後に再びかかることがあります。

マイコプラズマ感染症の症状と経過

体温計とマスク

初期の症状としては、風邪と同じであり発熱・咳です。おそらく、皆様も発熱したら医療機関を受診あるいは薬局で風邪薬を購入されて経過をみられると思われます。抗生剤が処方された場合でも、急激に病状が悪化することはほとんどなく、発熱が3-4日としつこく続きます。

これに合わせて、咳き込みがひどくなる(夜も咳で起きてしまう)という症状が特徴的です。この理由として、マイコプラズマ菌は、冬の風邪としておなじみのインフルエンザウイルスや他の菌と比べて菌が増える速度が緩やかであるということが挙げられます。それゆえ、次の項目で記載いたしますが診断が難しいです。

まとめると「学童期から若年の方の、数日間のしつこい発熱・悪くなる咳」が特徴です。

マイコプラズマ感染症の診断…その難しさと信頼性

肺炎にかかっているかどうかは、経過から胸部のレントゲン検査により診断は容易です。従来、それが本当にマイコプラズマ菌なのかどうかという判断は難しいものでした。しかし、近年ではその診断方法が変わってきております。

血液検査

発熱に加えて明らかな呼吸困難がある・脱水があるなどの重症感がある肺炎では、体内で細菌が増殖しています。この場合では、炎症反応の目安である白血球数やCRP値が高い値をとります。マイコプラズマ菌の場合では、白血球数はほぼ正常の値・CRP値は軽度上昇(2~3mg/dL)程度であり、普通の風邪との判別が困難です。

マイコプラズマに罹ると、菌を排除しようとしてマイコプラズマ抗体(MPHAができます。この抗体の推移で診断は可能です。 具体的には、症状がある時(急性期)と2週間後(回復期)の2回に採血を行い、抗体の4倍以上の上昇で診断が可能です。

しかし、咳や熱がみられたからといってマイコプラズマが必ず疑われるわけではありません。ある程度症状が進んでから検査されることがほとんどです。この場合でも、回復期にあえて2回目の採血を行うことは、少ないです。血液検査でマイコプラズマと判明するのは回復期であり、治療方針を検証する上では実用的ではないのが実情です。また、実際にこの2回の血液検査で診断を行っている割合は1割程度です。

また、採血により血液中のマイコプラズマのIgM抗体を調べる、血清による迅速診断キットのマイコプラズマ抗体キット(イムノカード)もあります。健常人でもIgM抗体( IgG 抗体も存在)保有者が存在すること、また、感染後も360日持続陽性となる症例もあること、成人ではこの IgM抗体の反応が非常に弱いことから、その信憑性は低いとされております。

マイコプラズマの病原体を用いた検査

LAMPという検査はより正確な検査と言われています。検査は採血ではなく、咽頭スワブ(ぬぐい液)を検出しますので、大きく口を開けて、綿棒により喉の壁から検体を採取します。これはマイコプラズマ菌に特徴的なDNAを直接検出する遺伝子検査です。マイコプラズマ肺炎では、発症初期にはすでに咽頭から気管支の粘膜に病原体がおり、数週間にわたって菌が排出されます。そのため、LAMP法によるマイコプラズマ検査では発症初期から(3~14日目)検出可能と報告されています。

もう1つは、インフルエンザの迅速検査と似たような迅速検査(プライムチェックでマイコプラズマ菌の存在の有無を調べる検査もあります。この検査もLAMP法同様であり、咽頭ぬぐい液で調べます。
LAMP法は精度が高いですが、結果が判明するまでに2-3日を要します。一方プライムチェックは、発症初期ではLAMP法に比べて精度は劣りますが、10分程度でその場で結果が判明します。発症初期ではLAMP法、少し時間が経過してきたらプライムチェックというように、今後しばらくはこの2つの方法がマイコプラズマ菌の検査の主な方法となるでしょう。また、これらの方法は保険適応です。
以上の理由から、確実に診断することはなかなか難しいのですが、マイコプラズマでは咳と発熱がしつこく、聴診では正常という経過から前述の検査を進めていきます。

マイコプラズマ感染症の治療…近年増加する薬剤耐性症例

薬瓶

これまで、マイコプラズマに効く薬剤はマクロライド系の抗生物質でした。よく使用される製品としてはクラリスクラリシッドジスロマックがありました。しかし近年では、このマクロライド系の薬剤に反応しないマイコプラズマ肺炎が増えてきています。

2002年以前では、マイコプラズマ感染症といえば、マクロライド系の抗生物質の投与により速やかな効果がありました。ところが2002年あたりから、このマクロライド系の薬剤が効かないマイコプラズマ感染症がどんどん増えてきてしまいました。マイコプラズマ菌そのものを分離して調べた結果、80%以上が薬剤耐性とされています。原因はいろいろ推察されていますが、日本では諸外国と比較してマクロライド系の抗生物質が頻用された結果とも推察されています。

マクロライド系の抗生物質が2~3日無効な場合には、テトラサイクリン系の抗生物質(製品名:ミノマイシン)ニューキノロン系の抗生物質(製品名:オゼックス、クラビットなど)が次の選択肢として考えられます。これらの抗菌薬投与においては、おおむね数日以内に解熱しますが、咳は約1週間程度続きます。

マイコプラズマ感染症は肺炎を引き起こすことが多いですが、重症となることは少なく、だいたい自宅での治療で治ります。しかし、マクロライド系の抗生物質が無効で全身状態が悪くなる場合には、入院することもあります。
高熱があるときは自宅での療養が基本ですが、解熱して2経てばマイコプラズマの菌量も低下して、夜が眠れる程度に咳も落ち着いてくるので登校・出社の目安となります。ただし、咳は続きますので、運動は1週間程度控えた方がよいといわれています。

まとめ

マイコプラズマ感染症は、初期症状はよくある風邪と同じで、しつこい咳と発熱の持続が特徴です。その診断は、近年ではマイコプラズマ菌の有無を直接判断する遺伝子検索(LAMP法)インフルエンザと同じ迅速検査(抗原検査:プライムチェック)が主流となっています。治療は、第一選択はマクロライド系ですが、近年では薬剤が効きづらい症例が増加傾向であります。