白内障は、視力が一定まで落ちてきたり、見え方に支障が生じたりすると、手術が必要となります。現在は「日帰り手術」ができる病院もあり、患者さんの負担は極力軽減されている印象を受けます。一方で、「目」というデリケートな器官を扱うために、やはり手術にはきちんとした技術を要します。

手術後に患者さん自身が目を正しく管理することも、治療の成功のために必要なこと。いざ、手術を受けることになった場合、患者さんはどんなことに気をつけるべきなのでしょうか。日頃、多くの白内障手術・目の治療を執刀する先生に教えていただきました。

目次

手術中に気をつけることはありますか?

  • 手術は点眼麻酔で施行します。点眼が最初多少しみるだけで、術中は痛みが無いことが普通です
  • もし痛みを感じる場合には、「痛いです」と声をかけてください。麻酔を追加します。
  • 細かい手術ですので、手術中は動かないようにしてください。咳やくしゃみが出そうなどでどうしても動く場合は、声をかけてください。

以上、私の病院で患者さんに配布している資料の内容です。

医師は、「なんでもいいから手術中はとにかく動かんといてね、キョロキョロもやめてね」と考えています。

というのは、白内障手術は簡単だと誤解されている患者さんが時々いらっしゃいますが、簡単なのは患者さんであって、こっちはターゲットの組織以外の部分を傷つけないよう、めちゃめちゃ気を使っているのです。目の中には豆腐みたいに柔らかくて一瞬で壊れるところが沢山あるんです。

角膜の直径はたったの1.2センチで、そこから見える部分の水晶体がターゲットですから、例えば1センチの幅でガタガタ動かれると、ターゲットの大きさと同じ幅で動かれることになりますから、手術になりません(元気良くて体長と同じぐらいの幅でピチピチ跳ね回っている魚をさばけと言われると非常に困るのを想像してください・・・)。

しかも他の部分を傷つけないように、顕微鏡で拡大しながら手術をやるので、例えば5倍ならば、1センチ動くと眼科医の視界の中では5センチ動かれるのと一緒なのです。

痛みがあるのに我慢する人とかいます。頑張り屋さんなのは認めますが、痛みを我慢するとどうしても動いてしまいます。なので、痛いときは我慢せずに医師に伝えてください。

普通の人はみなさん大丈夫ですから、心配しすぎないでくださいね。自分が動いて迷惑をかけるのではないかと心配しすぎてぶるぶる震えている人とかもいて、性格いい人なのはわかるのですが、やっぱり困るんですよねぇ現場は(笑)。

手術直後、手術後に注意すべきことを教えてください

手術当日~痛みを感じたときは痛み止めを~

白内障手術は楽な手術、とお考えの方も多いですが、それは技術の進歩によって「患者さんにとって楽」になったのであって、術者にとっては難しいですし、目にとって大きな負担のかかる手術です。

なので、術当日は痛みが出る場合があります。痛みが出そうであれば、処方する痛み止めを飲んでください。内服は食後が理想的ですが、そうでなくても大丈夫です。1錠で効果が弱い場合は2錠目を内服してください。それでも痛い場合は、3時間あけてまた1錠内服しても大丈夫です。24時間で最大3錠まで大丈夫です。

手術当日から一週間後~目を清潔な状態に保とう~

眼帯は外さないで、翌日診察に来てください。診察のときに外します。もし外れてしまった場合は、なんらかのテープでつけてください。基本的には眼帯がきちんとついていることが大切なので、セロファンテープでもなんでも、つけば大丈夫です。ただし皮膚がかぶれやすい・デリケートな方は、医療用テープを使用しましょう。

手術翌日に眼帯を外した後は、受付で目の保護用メガネをお渡しいたしますので、術後1週間、夜寝るときもかけてください。1週間経過したら(火曜日手術なら、翌週の火曜日の朝から)、かけなくてよいです。

手術翌日から3種類、1日4回の点眼を開始します。目薬の順番は、特に決まっていません。目薬と目薬は5分間あけて点眼してください。しみる点眼薬もありますが、心配ありません。

術後1週間は、目に水が入らないようにしてください。術後1週間は、お風呂につかるよりもシャワーだけのほうが良いと考えます。首から下はぬれても良いですが、目に水や汗が入らないように気をつけてください。顔は拭くだけにしてください。髪は、散髪屋さんや美容院や家族の手伝いを借りて、あおむけになって洗髪してください。7日目から(火曜日に手術を受けた場合は、翌週の火曜日から)、洗顔、洗髪、お風呂はすべて通常通り行って大丈夫です。

手術後一週間以降~メガネは度数が落ち着いてから~

術後は一生、目を強く押さないようにしてください。

3ヶ月経過すると度数が落ち着きますから、眼鏡をあわせることができます(必要性を感じない場合はあわせる必要はありません)。信頼できる眼鏡店さんがある場合は、そちらに直接行ってください。

なお当院(横浜相鉄ビル眼科医院)の場合には、検査時に検査員に伝えていただければ、度数をあわせ、会計のときに処方箋を渡しています。渡された処方箋を持って眼鏡屋さんに行ってください。3ヶ月より前にめがねを作ってもよいですが、後で度数が変わることがありますので、お金が余って困っている方以外は安い眼鏡にしておくことをお勧めします(笑)。

運動や旅行、プールなど、いつから再開できますか?

ハイキング-写真

運動の程度などにより千差万別、注意のポイントは2つ!

患者さんからよく「そろそろプールいいですか?」「いつから仕事をしてもいいですか?」などの質問を受けます。正直に言うと、質問されるお気持ちは100%理解しつつも、医療スタッフは回答に困っています。

というのは、プールではオリンピック選手のように泳ぐ人から歩くだけの人までいるし、仕事の内容も全くわからないからです。以下には、もし普通の日本人である大高が患者ならこうするというのを書いておきます。最終的な判断は自己責任でお願いします。ともかくも、術後半年は特別に患部を大事にしてくださいというわけです。

避けるべきは「ぶつけること(傷が開く)」「水や汗が目に入ること(感染を起こす)」です。特に最初の1ヶ月は感染に注意です。そこを乗り切ると感染が起こる確率が大幅に減ります。

■ゴルフ、ハイキング

ゴルフやハイキング程度の登山は1週間で開始しますが、暑くて汗が目に入る季節なら1ヶ月我慢します。球技は目にボールがぶつかるようなことがないように、保護用眼鏡(防御の為のサングラス、透明でもよい)を一生着用します。本格的な登山は、1ヶ月は我慢してくださいね!

■スポーツ

テニスや卓球なんかは汗をすごくかくので、1ヶ月は我慢します。やるなら一生保護用眼鏡はかけます。好きなサッカーは目にボールが当たるとアウトなので一生やらないです。ちなみに眼外傷の多いスポーツは、サッカー、バドミントン、サーフィン、テニス、バスケットボール、ラグビーです。

■海やプール

海やプール(屋内、屋外)に入るのは3ヶ月以降にして、6ヶ月まではもぐらないようにします。プール歩きは1ヵ月後から。ゴーグルは一生着用します。

■コンタクトレンズ

コンタクトレンズは、自分なら半年後から開始にします。3ヶ月でも問題は出ていないですが、決して推奨はしないです。

■お化粧

皮膚のお化粧は翌日から大丈夫ですが、眼に入る可能性のあるマスカラやアイライン、眼を押す可能性のある眼のまわりのお化粧は、3か月は避けます。

■車の運転

車の運転、自転車バイクは1週間後からにしますね。

■お酒

お酒は正直あんまり問題ないですね。当日はさすがにやめておきますが、翌日からは飲んじゃいます。深酒は免疫力が落ちるので、1ヶ月はビール大瓶で1本、日本酒1合ぐらいで!

■その他、仕事や旅、テレビなど…

仕事や旅や本やテレビやパソコンは、手術の週いっぱい(すなわち、火曜日手術ならその週の日曜日まで)休みます。飛行機は手術翌日から大丈夫です。

いろいろと心配はあると思いますが、よほど無茶をしない限りは大きな問題は出ていませんので、心配しすぎないようにして、みんなで頑張りましょう!

(以上、各項目について横浜相鉄ビル眼科医院、配布資料より引用)

術後、危険なのは「感染」が起きること

以上、私の病院で患者さんに配布している資料の内容の大筋です。他の病院とはもちろん内容が違うこともあるかと思いますが、本質的な部分は同様だと思います。

というのは、眼科医は、「術後は、ともかくも頼むから感染起きんといてね、起こさんといてね」と考えているからです。というのは、感染が起こると、永久に失明同然のような状態にあっという間、ほんとうにあっという間になってしまうことがあるからです。

この基本をわかっていると、どのように行動したらよいか、自分でわかるようになります。

手術直後に保護用メガネをかけてほしい、ぶつかったりするの避けてほしいと思っているのも、もちろん手術部が壊れてほしくないからというあたりまえの希望もありますが、それは一部で、ともかくも傷口が開いて感染を起こしてほしくないからなんです。

スポーツを慎重にというのも同様の理由です。汗やプールの水が目に入って感染を起こすのを避けたいというのもあります。プールや海は傷口に水圧がかかりますし、傷口が開くと水がすぐに入ってきますから、特に慎重になってほしいです。

コンタクトレンズを避けて、というのもそうです。

普通の人は皆さん簡単に乗り切れていますから、心配しすぎないように、だけど気を付けてくださいね。

まとめ

手術後のいろいろな指導は「感染を防ぐため」に必要であることがわかりました。日常生活の動きは患者さんによってもさまざまなので、すべての人にあてはまる一般的な情報はありません。あれこれ調べていたらわからなくなってしまった…ということにもなりかねません。

しかし、術後の注意のひとつひとつが「感染を防ぐため」であることを理解すれば、少しだけすっきりするのではないでしょうか。

手術を受けた患者さんが、術後もずっと快適で充実した生活を送っていただけたらと思います。