皆さんは薬を飲む時に、「飲み合わせ」を気にしたことはありますか?飲み合わせという言葉自体は聞いたことがあっても、あまり気にしていないという方も多いかもしれませんね。

薬と食品・健康食品には、一緒に飲んだり食べたりすることで薬の効果を弱めてしまったり、思わぬ副作用を招いたりしてしまったりする組み合わせがあります。薬同士でも、組み合わせによっては相性の悪いものがあります。そのリスクを知らずに薬を飲んでしまうと、思わぬ健康被害に遭う場合があるのです。きちんと知識を身につけ、防いでいく必要があります。

目次

2000年、サプリメントの薬への影響が問題に

2000年、厚生労働省はセントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)を含有する食品と医薬品の併用について注意を喚起する文章を発表しました。当時リラックスに効果があるのではないかとして普及しつつあったハーブサプリメントですが、免疫抑制剤や強心剤、抗HIV薬などの効果を減らすということが分かったのです。これをきっかけに、「薬」と「食品」だけでなく「健康食品」との飲み合わせについて改めて注意する必要があると改めて認識されました。

国民の6割は健康食品を利用

ここで注目してほしいのが、現在のサプリメント・健康食品事情です。

内閣府が2012年に行った健康食品の利用実態調査では、実に約6割が健康食品を利用しているという結果が出ています。さらに、サプリメントを使用している人のうちおよそ5割は複数種類のサプリメントを併用しているとの調査結果も出ています。健康食品やサプリメントは、それだけ日本人にとって身近なものとなってきているのです。

ここからは、薬の添付文書(説明書)によく出てくる食品や健康食品4つについて紹介します。

グレープフルーツ

グレープフルーツ

薬との食べ合わせで控えた方が良いものとして有名なものの一つがグレープフルーツです。グレープフルーツに含まれる成分が、高血圧や狭心症の治療で使われるカルシウム拮抗薬高脂血症治療薬免疫抑制薬などの薬の効果を増強する(薬が効きすぎてしまう)可能性があることが知られています。

どうして起こるの?

薬は腸から吸収される際、薬物代謝酵素という酵素によって一部が不活性化され、血液中に入る(活性化した)薬物量が減らされています。しかしグレープフルーツの皮や果肉の部分に含まれるフラノクマリン類という成分は、小腸にある薬物代謝酵素の一つであるCYP3A4を阻害します。つまり、腸の中でグレープフルーツのある成分が薬の分解を邪魔するため、血液中に有効成分が多く入っていき、効きすぎの状態にしてしまうのです。

どのくらいの量でどのくらい持続するの?

フラノクマリン類による影響の持続時間は薬によって異なりますが、3~4日間は持続することがあるといわれています(大日本製薬より)。また、少量の摂取であっても影響することがあります。

したがって、薬と同時にグレープフルーツジュースを飲まなければそれでいい、というわけではありません。カルシウム拮抗薬を服用している間は、グレープフルーツジュースを飲むことは控えてください。

ただし、カルシウム拮抗薬の中でも、アムロジピンベシル酸塩やジルチアゼム塩酸塩はグレープフルーツとの相互作用は弱いとされています。

みかんもダメ?

グレープフルーツ以外でも下の表のようにスィーティーぶんたんハッサクなどにもフラノクマリン類は含まれ、グレープフルーツと同様の相互作用が起こる可能性があります。一方、温州みかんやバレンシアオレンジなどは影響がないといわれています。レモンや日向夏の場合、皮にはフラノクマリンが含まれるので、皮ごと摂取した場合は相互作用が起こる可能性があります。

影響をうける薬剤を飲んでいる場合は、下記の柑橘系は避けましょう。

薬の効果に影響を与える柑橘類

影響を与えるもの 影響を与えないもの
グレープフルーツ
ザボン
バンペイユ
ブンタン
スィーティー
ダイダイ
夏みかん
絹皮
金柑
ハッサク
ライム
バレンシアオレンジ
レモン
カボス
温州みかん
マンダリンオレンジ
デコポン
日向夏
※ただし、レモンや日向夏は果皮を食べないほうがいいので、皮も含めた摂取(ジャムなど)は避けましょう。

 アルコールとの組み合わせは、基本的にNG

ワイン

アルコールは様々な作用を持っているため、多くの薬剤の吸収・代謝に影響します。薬剤の血中濃度を大きく変動させる可能性があるため、服薬中の飲酒は原則として控えてください。ここではアルコールと風邪薬、一部の睡眠薬など、特に気をつけたい飲み合わせを紹介します。

アルコールとベンゾジアゼピン系薬(睡眠薬、抗不安薬など)

アルコールには、中枢神経を抑制する作用があります。この作用は摂取量に比例し、薬との同時摂取で作用が増強します(一部の常習飲酒者についてはある種の薬やアルコールの分解酵素が発現しているため、薬が効きにくくなることもあります)。

このとき、作用だけでなく副作用も増強するため、眠気、精神運動機能低下、前向性健忘(寝る前、途中で目覚めた時の記憶がない)などが現れることがあります

薬の持続性はそれぞれ異なりますが、アルコールの同時服用はもちろん、薬を服用している期間はアルコールは控えましょう。薬を飲むのをやめても数日間体内にとどまっていることもあるため、その期間の飲酒は避けるべきです。

アルコールと風邪薬(抗ヒスタミン薬)

抗ヒスタミン薬はベンゾジアゼピン系薬と同じく中枢神経抑制作用があるため、これが増強して、眠気などの副作用を強くする可能性があります。第二世代と呼ばれる新しいタイプの薬は比較的影響が少ないとされていますが、思わぬ能力低下を起こすため、やはりアルコールは控えたほうがいいでしょう。

アルコールと解熱鎮痛薬アセトアミノフェン

アセトアミノフェンは安全な解熱鎮痛薬として知られており、お子さんから高齢者の方まで幅広く使われています。一般的なアセトアミノフェンの服用と飲酒とでは大きな問題が起こることは少ないといいますが、一部の場合で注意が必要となります。

身体に入ったアセトアミノフェンの約5%程度は、CYP2E1という肝臓の代謝酵素により代謝され、非常に強力な肝臓毒性がある物質に変貌します。これは通常は無毒化されますが、アセトアミノフェンを大量に服用していたり、何らかの理由で無毒化に必要な物質が欠乏していたりする時には、毒性のある物質が体内に蓄積することで重篤な肝障害を起こす危険性があります。

このCYP2E1という酵素は、常用飲酒者に多くみられます。そのため、常用飲酒者がアセトアミノフェンを特に高用量(4g/日以下)飲むと、大量に代謝された肝毒性物質の蓄積によって肝障害を起こすことがあり得るのです。

多量の飲酒アセトアミノフェン、あるいは飲酒多量のアセトアミノフェンの同時摂取は決して行わないでください。

一般的量のアセトアミノフェンの服用と、一般的な量の飲酒であれば、大きな問題が生じることはないといいます。しかし、薬を飲む際には飲酒は控える、が大前提だということを忘れないでください。

牛乳:吸収低下以外に吸収大幅アップも

牛乳はアルカリ性で、カルシウムが含まれているため、次のようなタイプの薬に影響があります。

一部の抗生物質、抗菌薬、鉄剤など

カルシウムと薬が結合し、キレートと呼ばれる身体に取り込まれにくいかたまりになってしまう場合があります。これにより、薬の効果が弱められてしまいます。

一部の便秘薬

牛乳はアルカリ性であり、胃酸を中和する働きがあります。そのため、一部の腸溶錠(腸で溶ける薬)が胃で溶けてしまい、その効果が正しく発現しない場合があります。身近な薬では、一部の市販便秘薬がこれに当たります。

角化症治療薬(エトレチナート)など

これらの薬は、牛乳の脂肪分によって吸収が増加します。エトレチナートの場合、血液中の薬物濃度が約260%増加したという報告もあります(岐阜薬剤師会より)。

セントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)

ストレスの多い現代社会では、リラックス目的でサプリメントを使っている人も多いのではないでしょうか?セントジョーンズワートは、古くからヨーロッパを中心に民間療法で使用されてきました。近年はアメリカを中心に、軽度のうつ病や・更年期障害、自律神経失調症、不安神経症に効果があるとして人気を集めています。

影響は?

代謝酵素の誘導

セントジョーンズワートは、薬物代謝酵素のうちCYP3A4、CYP1A2という酵素を誘導します。そのため、この酵素で代謝される多くの医薬品と相互作用を起こし、薬の血中濃度を下げることで薬の効き目を弱めます。

なかでも血中濃度が重要な薬剤(免疫抑制剤、抗HIV薬など)では、血中濃度が低下することで治療効果が下がり、体調に大きな影響を及ぼすことも考えられます。

薬剤ごとの詳細な影響は、厚生労働省のサイトをご覧ください。

抗うつ剤などとの相互作用

一部の抗うつ剤と併用した場合、セロトニンに関連した副作用の発現率が高まる可能性があります。パロキセチンという抗うつ剤と同時に10日間セントジョーンズワートを服用したあと、船酔い症状、昏睡、嘔吐、疲労感などを起こしたという症例が報告されています。

まとめ

薬と食物、薬と健康食品は、思わぬ相互作用を引き起こすことがあります。本来効くべき薬が効かなくなってしまったり、予想外の副作用を引き起こしてしまったりする場合もあるので、薬を服用する際は医師や薬剤師の指示にきちんとしたがってください。市販薬の場合は、添付文書をしっかりと確認しましょう。