胃がん、胃潰瘍を治療するときに胃を切除する場合がありますが、切った後に起きる症状をまとめて「胃切除後症候群」といいます。取り除いた場所が胃の入り口か、出口か、全部なのかで現れる症状は変わります。胃切除後症候群として考えられる症状6つについて、原因と対処法を説明していきます。

目次

広告を読み込み中

ダンピング症候群

十二指腸につながる胃の下部を幽門部と呼び、胃の中で消化が起きているときに閉じることで食べ物が十二指腸や小腸へ一気に進ませない機能を持ちます。
幽門部を切除した場合、食べた物を貯めておく機能を失うことで小腸に一度に流れ込み、ダンピング症候群と呼ばれる症状が現れやすくなります。

食後30分前後で起こる早期ダンピング症候群と2~3時間後に起こる後期(晩期)ダンピング症候群に分けられます。

早期ダンピング症候群

塩分や糖度の高い(味付けの濃い)食べ物が急に小腸に流れ、浸透圧の関係で体の水分が腸に集まってしまい小腸以外の血液が一時的に不足します。
発汗、冷や汗、めまい、しびれ、だるさなどの全身症状の他、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐などの消化器症状があらわれます。炭水化物を少な目にし、タンパク質や脂質を多めに摂ることで、発症を予防することができます。

後期(晩期)ダンピング症候群

一時的に急な高血糖状態になり、血糖値を下げようとインスリンが過剰に分泌されて低血糖を引き起こします。頭痛や倦怠感、頻脈、発汗、めまいといった症状が現れます。

ダンピング症候群の対処法として食事を一度に沢山とらず、食事回数を多めにして食べるようにします。
また沢山噛むことで唾液と食べ物をよく混ぜ、それから飲み込むようにします。後期ダンピングの症状が出そうになった場合は早めにアメなどを舐めて血糖値を上げておきます。

食事を改善しても治らなければ医師に相談し、薬を処方してもらいましょう。

広告を読み込み中

胃切除後逆流性食道炎

胃の入り口にあたる噴門部は食べ物が入って消化している間、消化液が食道に逆流しないようしっかり閉じておく役割があります。
噴門部を切除すると食べ物や胃酸が食道に逆流しやすくなるため、食道が炎症をおこします。

胃を全部摘出した場合は胃酸ではなく、胆汁と膵液(すいえき)が逆流します。
食後の胸やけ、むかつき、みぞおちの痛みといった症状として現れます。食後すぐ横にならないこと、夕食は就寝の3時間前までに済ませることが対処法になります。症状が強い場合は薬での治療が必要なので医師に相談しましょう。

広告を読み込み中

胃切除後貧血

ビタミンB12を吸収するためには、胃の分泌液(壁細胞から分泌される内因子)が必要になります。
胃の切除、特に胃を全て摘出した人はビタミンB12の吸収が阻害されるため、貧血(巨赤芽球性貧血)になりやすくなります。
また鉄は胃酸によってイオン化された後に吸収されますが、それも阻害されます(鉄欠乏性貧血)

胃切除患者のうち30%、胃全摘の人のうち70%と高確率に起こり、動悸や息切れ、めまい、倦怠感の症状がみられます(日本臨床外科学会より)。鉄剤の服用やビタミンB12の注射で予防できます。

広告を読み込み中

乳糖不耐症

胃を切ると乳糖を分解したり吸収したりする能力が低下します。
さらに腸内細菌のバランスが崩れるため牛乳など乳製品を摂るとお腹がゴロゴロしたり、腹痛、下痢がみられたりします。

牛乳の摂取を控えたり(チーズやヨーグルトは乳糖が少ないので食べてもかまいません)、乳糖を分解する乳酸菌製剤を飲んだりすることで改善します。

胃切除後骨障害

骨は溶かして壊される骨吸収と、新しく作られる骨形成を繰り返しています。
骨形成のときにカルシウムが沈着することで骨密度が上がって骨は強くなりますが、カルシウムの沈着にはビタミンDが必要となります。

しかし胃酸の減少、腸内細菌の変化でカルシウム、ビタミンDが吸収されにくくなり、徐々に骨塩量が低下して骨粗しょう症になりやすくなります。牛乳のカルシウムは吸収されやすいのですが、乳糖不耐症になる人もいるため下痢に注意が必要です。

食事療法、運動療法で改善しない場合はカルシウム製剤、ビタミンD製剤で対処する場合があります。
さらに最近では、骨吸収を抑制するビスホスフォネート製剤が用いられるようになりました。
また、納豆に多く含まれるビタミンKも骨量を増加させるので、納豆を多く食べるといいでしょう。

特に女性は閉経後、急に骨密度が低下するので定期的に骨密度を測定し、医師の診断を仰ぎましょう。

胃切除後胆石

胃を切除するときに幽門周囲のリンパ節を切除すると、胆嚢の神経(迷走神経)を損傷します。
すると胆嚢の収縮が鈍くなって胆汁がうっ滞し、胆石が生じやすくなります。胃切除患者の20%ぐらいにみられます(慈恵医大より)。

治療として胆嚢を摘出することがありますが、病院によっては胃を切るときに予防として胆嚢を取り除く場合があります。

まとめ

人によってあらわれる症状は違いますが、基本的には少しずつ食べる、食べる回数を増やす、咀嚼回数を増やす、食べてすぐに横にならないことで症状が和らぎます。
また意識して水分を多く取るようにしましょう。