40~50代にかけての働き盛りと言われる年代が、うつ病の好発年代です。なぜなら、家庭や仕事面での責任や負担が重くなる時期であることが多いからです。

この記事では、うつ病の発症に至るまでにどのように予防するか、発症してしまった場合には、仕事をどのように続けるか、うつ病のために休職となった場合には、どのように養生することが望ましいかということについてお伝えいたします。

目次

うつ病の発症に至るまでの初期症状

最初に、うつ病が発症する直前の時期についてお伝えします。

ほとんどの場合うつ病発症直前の時期には、残業などで仕事の負担が急に増えたり、パワハラに代表される対人関係での心理的ストレスによって、仕事への意欲が低下し、疲労感が強まっているものです。
もし疲労感がいつもとは異なっており、日々疲れを持ち越し、徐々にさらにそれが増していく感覚がある場合には注意が必要です。

さらに、

  • 余暇に仕事以外のことを考える・何かをする余裕がない
  • 対人関係の誘いを断り、ぼーっと休んでいる・横になっていることが多い
  • 生活にあまり楽しみを見出せなくなっている

ようであれば、うつ病の前駆段階、あるいは軽いうつ状態といえるかもしれません。
また、この状態では疲労感のほかに抑うつ気分が目立ち、自分に価値がないように感じ、自分を責めたり、わけもなく悲しくなったりすることがあります。

このほか、仕事への不安が、自律神経を介して体にも表れ、仕事に行く直前や仕事中にあって、下痢腹痛吐き気動悸息苦しさ頭痛肩こりといった身体症状が見られることがあります。食欲も減退し、体重が減ってくることもあります。

うつ病予防のために

この段階にあるときは、職場の労務責任者である上司や産業医に相談し、仕事の量や職場環境を心身の負担が少ないように調整してもらうことが望ましいでしょう
例えば、長時間の残業によって帰宅が遅くなり過ぎて、睡眠不足が続いている場合には、睡眠時間が確保出来るように仕事量を減らしてもらうことが大切です。
さらに上司や同僚からの度を過ぎた日常的な罵倒などのパワハラがある場合には、パワハラを行う人と職場で距離が置けるように配慮してもらった方がいいでしょう。

それらの職場での負担軽減が不可能なまま仕事を続けざるを得ない場合には、上記した症状がさらに強まり、仕事に行こうとしても身体が思うように動かないように感じ、仕事を急に休まざるを得ないことにもなりかねません。

うつ病かもと思ったら…診断書をもらう際のポイント

残念なことに、職場での負担軽減もままならず、仕事を欠勤するまでに至ってしまった場合には、うつ病やストレスによるうつ状態である適応障害を発症している可能性が高いと思われます。

その場合には、職場に状態を十分にお伝えした上で、精神科や心療内科のクリニックや精神病院を受診した方がいいでしょう。
その上で勤務の軽減か、休養のための診断書を記載してもらいましょう。その場合のポイントは、このくらいで十分、と自分で感じるよりやや余裕を持って勤務軽減の範囲や休養期間を設定してもらうことです。
私の診立てでは、具体的な期間として、1か月から3か月程度の方が多いようです。期間をすぐに決めかねる場合には、1~2か月というように期間に幅をもたせてもらってもいいでしょう。

仕事がきっかけとなってうつ状態になる方には完全主義の方が多く、心身の状態を崩されても、ぎりぎりまで自分の義務を果たそうとする傾向があります。
その傾向がかえって余分な負担を強め、うつ状態の療養の上では遠回りになることがあるのです。
また、そのような方々は迷惑をかけたくないと思うばかりに、職場に対してストレスを軽減するために考えられるご自分なりの希望を正直にお伝えすることに遠慮がちになるものです。
そのため、ご希望があれば、診断書に「心理的負担を軽減するために勤務環境の調整が望ましい。」と一筆書き加えてもらってもいいでしょう。

うつ状態になられた方には、職場復帰のためにも、気分的に楽になる必要があるのです。ですので無理はせず、発症したうつ状態に影響していたと考えられる職場環境のストレスを軽減するためのご希望を、控えめに伝え過ぎないように心がけて頂ければと思います。

休養期間について

休養期間

休養期間をどのように過ごすかですが、うつ状態のために疲弊の極にあり、しばらく臥床がちに過ごすしかないこともあるでしょう。しかし、職場から離れ、休んでいると徐々に疲労は和らいでくるものです。

なお、多くの場合はスムーズな回復のために、主治医からうつ病に対しての薬物療法を勧められるでしょう。
薬物療法についてですが、睡眠薬と抗不安薬の効き目はすぐに現れます。患者さんに薬が合えば、速やかに十分な睡眠は確保され、不安も和らぐでしょう。
しかし意欲を高める効果を持つ抗うつ薬が十分に効いてくるまでに1~2週間以上はかかります。行動面では焦りすぎず、段階的に休みながら取り組みましょう

休養当初は横になって休まざるを得ないことが多いかもしれませんが、少しずつ起きる時間を延ばし、規則正しいリズムの生活を心がけましょう
また、ただ休めと促されてもかえって落ち着かないことがあります。自分が今までにリラックスして楽に感じられていた行動に取り組むといいでしょう。リラックスできる音楽を聴いたり、ヨガや瞑想をしたり、自然と日光の中を散歩したりすることもお勧めです。
ただ、休養中にある患者さんは、休むことに罪悪感を抱きがちなことがあり、療養のためにも望ましい外出を控えたりすることがあります。その場合には、職場のために無理に頑張ってきて心身の調子を崩したのだから、復帰準備のためにリラックスして休むことも仕事の一つと考えるようにするといいでしょう。

また、状態が改善し職場復帰の時期が近付いてきた際には、出勤していた時と近い生活を心がけることがリハビリになります。可能であれば、会社で降りる駅まで行き、喫茶店や図書館でしばらく過ごして戻ってくることを日課にしてみてもいいでしょう。
なお、精神病院やクリニックに付設されたデイケアでリワークという復職支援のための訓練されたスタッフによるプログラムを行っているところもあり、そちらに通所することも一法です。

睡眠や食欲が確保された日常生活が普通に送れ、継続的な通勤の負担に耐えられる見通しがつけば、復帰も可能と考えられます。
しかし、病状が改善していないのに、最初に決めた休養期間が過ぎるからと無理に戻ろうとすべきではありません。その場合には、正直にお具合を主治医に伝え、再度診断書を書いてもらい、休養期間を延長するようにした方がいいでしょう。産業医の先生がいらっしゃる職場では、職場環境を把握した上で、産業医の先生が復職時の状態のチェックをしてくれるので、十分にご相談しましょう。無理に戻ってまた休職となるより、十分に回復してから復職した方がいいのです。

復職について

職場への復帰にあたっては、うつ状態発症のきっかけとなった職場での過大な仕事量や、再び起こりえる心理的負担を可能な限り軽減してもらっておくことが必要です。場合によっては職場の異動も考えてみてもらってもいいでしょう。
もしご本人の勤務にとって、過酷な心理的負担を伴う職場の状況が休養前と何ら変わっていなければ、復職しても同じことになりかねないからです。

また、正式の復職の前に「試し出勤」の制度がある会社もあります。職場と協力して復職のためのリハビリテーションを一定期間行うものです。復職当初の負担を和らげるうえで有意義な制度と言えるでしょう。

なお、当初の勤務における負担の軽減を目的として、仕事内容をご本人にとって簡単なものにしてもらったり、出勤時間を減らしてもらったりすることも重要です。
具体的な例としては、勤務を午前中だけにしたり、残業や出張を控えさせてもらったり、ご自分が十分にできると感じられる範囲にとどめてもらいましょう。
主治医や上司、定期的に面接をしてくれる職場の産業医と相談しながら、無理がないよう徐々に時間をかけて勤務の負担を元のように戻していけばいいのです。

勤務の再開に当たっては、仕事を完璧にやるよりまずは始めること、そして続けることが大切だとお考えになってください。労務責任者の上司と緊密かつ継続的にコミュニケーションを取り合える復職後の体制も重要です。