先日、国立がん研究センターが、がん患者の「5年相対生存率」を発表しました。

「5年相対生存率」とは、がんと診断された場合に、治療によってどのくらい生命を救えるかを示すものです。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合と比べてどれくらい低いかで表します。

この指標が一般向けに発表されたのは、患者情報の登録を始めて以来初のことだそうですが、実はこの「5年相対生存率」には地域によってかなりの差があるのです。ここではその調査結果について、医師・高山哲朗先生のコメントと併せて見てみましょう。

目次

全国177の病院、16万8000人を対象とした調査

今回の調査は2007年に実施されたもので、全国にある177のがん診療連携拠点病院で治療を受けた16万8000人のがん患者のデータがもとになっています。

がん診療連携拠点病院とは、全国どこでも高水準のがん医療を提供できるよう整備された病院で、国によって指定されています。また、今回の調査で指標とされた「5年」という期間は、がんの治癒の目安となる期間です。さらに、5年間相対生存率ではがん以外の病気による死亡は除外されているため、この数値はがん患者の治療の効果を表すうえで非常に重要な指標だといえます。

5年相対生存率が高ければ高いほど治療によって生命が助かるがん低ければ低いほど治療を行っても生命を救うことが難しいがんであることを表します。

肝臓がんは39.4%、乳がんは92.2%。部位によってばらつきが

では実際に、国立がん研究センターが発表した「がん診療連携拠点病院 院内がん登録 2007年生存率集計(PDF)」のデータを見ていきましょう。

まず、今回の集計での全てのがんの5年相対生存率は64.3%でした。主要な5つの部位のがんでは、以下のような結果となりました。

がんの5年相対生存率-主要な5つの部位のがん比較-図解

出典:国立がん研究センター プレスリリース

胃がん・大腸がん・乳がんの相対生存率がかなり高くなっています。中でも、乳がんの相対生存率は92.2%と突出しています。これらのがんでは、早期発見・早期治療が重要となります。

一方で、肺がんや肝臓がんの生存率は40%を切っています。これらの部位のがんは、がんにかからないための予防がより重要といえます。

専門家に聞く!どうして相対生存率にはばらつきがあるの?

それでは、どうして乳がん・胃がん・大腸がんの相対生存率は高く、肺がん・肝臓がんの相対生存率は低いのでしょうか?

高山先生によると、乳がん・胃がん・大腸がんについては検診などにより早期での発見が比較的多いこと、早期で発見する方法があること、早期で治療すれば転移の可能性などが低いことに起因するといいます。

いずれも進行がんの状態での治療は困難ですが、早期がんの状態では手術により取り切ることなどで根治が望めるためと考えられます。

一方、肺がんについては検診でも早期で発見するのは困難な印象があるとのことです胸部レントゲンのみで早期の状態を発見するのは難しいでしょう。またCTによる早期発見が試みられてもいますが、十分な効果が得られるかは難しいようです。

また、肝臓がんについてはその多くが肝硬変から発生します。肝臓がん自体はある程度治療方法がありますが、多くは肝硬変の状態から発生してきており、おおもとの肝硬変自体が治らないことによるでしょう。肝臓がん自体は治療できたが、肝機能が低下しているために早期に死亡してしまうという可能性が考えられるということです。

都道府県別でも結果にばらつきが

次に、都道府県別のデータを見てみましょう。以下は、各部位のがんで5年相対生存率が最も高い都県と最も低い県の一覧です。

各都県のがんで5年P相対生存率が最も高い都県と低い都県比較-図解

出典:がん診療連携拠点病院院内がん登録 2007年生存率報告書 55-83ページ
今回調査が行われた5つの部位のがん全体で最も5年相対生存率が高いのは東京都、最も低いのは沖縄県という結果になりました。沖縄といえば長寿、というイメージからしてみると少し意外な結果ですね。

この結果には、がんの進行度が影響していると考えられます。

がんの進行度は、0期~IV期のステージで表します(0期に近いほどがんが小さく留まっている状態、IV期に近いほどがんが広がり進行した状態です)。

例えば東京都では、I期のうちに治療を開始する人が37.8%、IV期になってから治療を開始する人は16.7%と、早期にがんだと診断されて治療を開始する人が多くなっています。一方の沖縄県では、I期で治療を開始する人は29.0%、IV期になってから治療を開始する人が21.7%と、東京都に比べて受診の遅れる人が多くなっています(p.52)。

さらに、患者のうち70代以上の人の割合を見てみると、東京都は32.5%なのに対して沖縄県では47.3%に上りました(p.51)。つまり、沖縄県の5年相対生存率が低いのは患者に高齢者が多く、さらにがんが進行した状態で受診する患者が多いからだと考えられます。

専門家に聞く!どうして沖縄ではがんの早期発見ができないのか

okinawa-photo
こちらも、高山先生にご意見をいただきました。

沖縄では早期発見できないのではなく、見つかったときに既にステージが進んでいるためではないかということです。年代によるばらつきを地域によってみると、東京では沖縄と比べ若年層でのがんが見られています。しかし、このデータから地域によって癌が早く発生すると捉えるのは危険です。最も考えやすいのは、東京の方は比較的若いうちから検診を受け早期がんが発見され、根治が得られるということだといいます。

一方で平成22年の平均寿命を調べてみると、女性では沖縄は3位、東京は22位、男性では沖縄は30位、東京は14位です。これらのデータからすれば早期発見すれば長生きというわけでもありませんし、早期発見しなくても大丈夫ということにもなりません。平均した際の寿命との関係には、より多くの因子が関わってくるものと考えられます。

東京の都心では特に大学病院も非常に多く、クリニックもたくさんあります。医療へのアクセスのしやすさ、検診への取り組みの程度といった情報などが加わると各地域での解決すべき点が見つかるかもしれません。

まとめ

今回の調査対象となったのは限られた病院です。そのため、この検査結果がそのまま各都道府県のがん医療のレベルを表すというわけではありません。しかし、どの部位のがんでも、がんを早期発見できた患者の割合が高い県で相対生存率が高くなっていることは間違いないようです。つまり、健康診断やがん検診をきちんと受けることが、あなたの命を救うことに繋がるのです。