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筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬開発と疾患啓発を目指して2017年5月にスタートしたチャリティプロジェクト「せりか基金」。漫画「宇宙兄弟」(小山宙哉さん作)にALSが登場していたことをきっかけに始まった企画は多くの注目と関心を集め、賛同者の思いがこもった寄付金は開始後約3ヶ月で800万円を超えました。そして、同年12月にはせりか基金賞の第1回目が開催され、ALSの原因究明に関する2研究に対して、寄付金を基にした助成金(300万円と250万円)が渡されました。

順風満帆に進んでいるように思えるプロジェクトですが、これまでどんな困難を乗り越えてきたのか。また、活動2年目となる今年は、どのような展開を見せるのか―。プロジェクト責任者の黒川久里子さん(株式会社コルク)に、これまでの手応えと課題、そして今後の展望についてお伺いしました。

※せりか基金に関する詳しい記事は「ALSの治療薬開発と啓発へ~漫画「宇宙兄弟」から始まった「せりか基金」の思い」をご覧ください。

活動を通してチャリティへの気持ちを知ることができた

せりか基金賞を受賞者及び審査員の方々

せりか基金賞受賞式の様子

――寄付金の第1回集計分(5月21日のプロジェクト開始から8月31日まで)は856万7954円とのことですが、どういった方々から集まったのでしょうか。また、寄付した方々の反応で印象に残っていることはありましたか。

寄付してくださったのはほぼ個人の方たちです。グッズ購入を通して一人あたり500円~1万円の寄付金が積み重なった、気持ちの総量を表した金額で本当にすごいことだと思っています。また、アクションを起こしてくれた人たちが多くいたことでもあります。

ツイッターでのつぶやきや、チャリティグッズの公式ストアで商品を購入するときに書き込める備考欄には、「できることはほとんどありませんが、(支援を)少ししてみようと思いました」という内容のものが多かったです。「やらないよりはやってみよう」という、チャリティに対する一般の方の気持ちを知ることができました。

――そうして集まった寄付金が、ALSの原因究明に取り組む2人の研究者(※藤澤貴央先生、浅川和秀先生)に贈られました。先日の「せりか基金賞」授賞式にはプロジェクトに携わる人々、支援者、そしてALSの患者さんら関係者約80名の方々が出席されていて、みんなでこの企画を盛り上げようとする“熱”を感じました。

※藤澤先生は東京大学大学院 薬学系研究科 細胞情報学教室所属、浅川先生は国立遺伝学研究所に所属。

研究費助成には10件以上の応募があり、その中から基金の選考委員会の方々に審査してもらい、2件選ばせていただきました。助成したくても、研究者の方がいらっしゃらなければできません。また治療薬開発につながる研究に絞ったため、応募資格を持っている人は限られています。そういった条件の中で多数の応募をしてもらえて非常にありがたかったです。

継続した活動、そしてALSの啓発を

せりか基金グッズ

せりか基金のチャリティグッズの一部

――せりか基金については、選考委員会で審査員長を務められた井上治久先生(京都大学iPS細胞研究所 教授)もいしゃまちの取材に「患者さんや賛同される方々の思いが込められた基金ということで、選ばれた先生だけでなく審査員一同良い意味で重く、改めて身の引き締まる取り組みだと感じる」とお話されていました。専門家の方からも評価される取り組みですが、一段落終えた今、どのような感想をお持ちですか。

井上先生のお言葉、とても嬉しく思います。井上先生をはじめとした第一線でご活躍されている先生方にお力添えをいただけたことで、せりか基金の活動を進めることができました。

授賞式を皆様のご協力のもと、無事に開催できた達成感がありますが、一方で活動の社会的なインパクトを増していくために「次はどうしようか」という気持ちも高まってきています。

5月に始まったので、まだ1周もしていない状況です。助成先が決まったら、次は研究の報告も考えないといけません。

また、1年目はもちろん大変ですが、2年目以降もアクション(寄付)を続けてもらう必要があります。安定した寄付金を集める仕組みを整えないと、本来の目的である研究への助成もできません。今後も多くの方に活動を応援していただき、継続的に寄付金が集まるための取り組みを行っていきたいと思います。

――継続した寄付については、前回の取材でも言及されていました。チャリティグッズにタオル・ワッペンTシャツを追加し、また寄付だけ希望される方にも対応していて少しでも変化を加えようとされている印象です。今後はどのように寄付活動を盛り上げようと考えていますか。

「宇宙兄弟」は知っているけど、「せりか基金」のことは知らないという方は、まだまだいらっしゃると思います。読者の方たちへの呼びかけや、医療関係者の方々へのお声がけなど、せりか基金の活動を広めていくためにできる余地はあるはずです。

また、現在「ウチも寄付活動に貢献したい」と私たちの活動に賛同してくださる企業の方々も増えています。そういった方々と何かコラボができないかと思案中です。あわせて今後法人から寄付を受け取りやすくするため、せりか基金を一般社団法人化します。

そして、寄付金を集めるのと同時にALSという疾患をしっかり認知してもらうことが大切なことは忘れてはいけません

――「せりか基金通信」を拝見していると、プロジェクトに携わる方々が熱心にALSを理解しようと努め、また啓発活動に取り組んでおられます。これからの展望についてお聞かせください。

ALSを巡る状況は常に変わっているので、学ぶことができます。また、様々な説明会に参加することで知り合う方も増えてきました。現在のせりか基金は治療薬開発に関係する研究への助成のみ対象としていますが、ゆくゆくは患者さんの日常を支援する器具や、日本だけでなく海外の研究者の方も支援できれば良いと思っています。夢はいっぱいあるんですけどね(笑)。

取材後記

せりか基金賞の授賞式の様子や、今回の取材を通して感じるのはALSと向き合う方々の熱意です。疾患と寄り添いながら、いかに継続した貢献が果たせるか―。そういった真剣な思いによって、この活動は支持され、また続けていけるのだと思います。いつの日かALSを治る病気にするよう、私も引き続き取り上げていきます。

せりか基金の寄付について詳しくは「『せりか基金-宇宙兄弟ALSプロジェクト』公式サイト」をご覧ください。