肝臓の炎症である肝炎には、いくつもの種類があります。その中でも多いのが、様々なウイルスへの感染によるウイルス性肝炎です。B型肝炎やC型肝炎、A型肝炎などは非常に広く知られた肝炎なのではないでしょうか。多様なウイルス性肝炎の中でも、最近になり特に注意が必要とされているものとして、E型肝炎があります。本記事では、E型肝炎の感染経路とその症状についてご紹介します。

目次

E型肝炎とは

E型肝炎は、かつては経口伝播型非A非B型肝炎と呼ばれていた肝炎で、その実態はE型肝炎ウイルスに感染することで起こる感染症です。感染すると、肝臓の一過性の炎症が起こることが知られています。東南アジア地域でよく見られる病気の一つです。中央アジア地域でもA型肝炎と同様に流行をみせています。下水道の管理が行き届いていない地域で、非常に幅広い流行がみられます。

一方で、日本では従来、あまり発生する頻度が高い感染症ではありませんでした。しかし近年、野生の鳥獣を食べる「ジビエ料理」の流行に伴い、患者数が急増しています。また、保険で抗体検査ができるようになったため、今後は診断される確率が上がるのではないかと考えられています。

国立感染症研究所のデータによると、2012年から2016年4月までに、日本国内で701件の感染例が報告されました。感染源が報告されている290例の内訳は、以下の通りです。

ブタ肉 121例
イノシシ肉 34例
シカ肉 32例
その他
(動物種不明の肉、貝、水など)
112例

出典:国立感染症研究所

ブタ肉を食べて感染した人のうち、約半数はレバーを食べた人です。次いで、生のブタ肉を食べた人が多くなっています。

ブタは、高確率でE型肝炎ウイルスに感染しているようです。その多くはブタの免疫力で抑えられているようですが、中にはそうではないものも含まれています。よく加熱してあれば問題ないので、ブタ肉はしっかりと加熱してから食べるようにしてください。

E型肝炎の感染経路は経口感染だった

E型肝炎は水や食べ物を介した経口感染によって感染が拡大する感染症です。動物の糞や肉、感染者の便が混入した水などを口から摂取してしまうことで感染していきます。本来であれば日本では上下水道の管理が行き届いているので、下水混入による感染は滅多に起こらないのですが、旅行している最中にインド・中央アジア・北アフリカ地域などで感染してしまう例が昔からあとを絶たない疾患でした。

北アフリカ地域などに出向く際、通常は感染症に対するワクチンの接種などが行われます。しかしE型肝炎は未だにワクチンが存在せず、感染に対する防御方法は自分で食べ物と飲み物を管理する以外にないのです。

E型肝炎の症状と検査

横腹をおさえる男性-写真

E型肝炎の主な症状

E型肝炎の主な症状は、肝臓の急性炎症です。ウイルスに感染した後、平均6週間程度の潜伏期間を経たあとに、以下のような症状がみられます。

  • 急激な全身のだるさ
  • 食欲不振
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 黄疸

重症の場合には回復までに非常に時間がかかり、特に妊婦さんでは劇症肝炎という重症状態になってしまうことがあります。劇症肝炎では、昏睡脈拍の異常むくみなどの症状が現れてきます。

妊婦さんは特に注意が必要!

上記のような妊婦さんに現れた場合、胎児への感染(垂直感染)が起こる場合もあります。また、妊婦さんが感染した場合は重篤になり、致命率が高いことが知られています。妊娠を計画している方は特に、感染を避ける必要があるでしょう。

E型肝炎を疑ったらどんな検査をする?

E型肝炎は、ほかのウイルス性肝炎と症状から区別することはできません。したがって、通常は血液の検査を行って診断します。

血液検査では、ウイルスに抵抗して体が作る抗体というタンパク質の分量を調べることができます。E型肝炎に特徴的な抗体の分量を調べます。また、血液や便の中のウイルス本体を探す検査も追加で行う場合があります。これらの検査によって、E型肝炎に感染した可能性を調べていきます。

治療法と予防法:ジビエ料理には要注意!

生の鹿肉-写真

E型肝炎などの急性肝炎には、根本的な治療法はありません

ウイルスとなる病気は、細菌感染で起こる病気と違って抗生物質などによる治療ができません。このため、体が持つ免疫力を手助けすることで肝臓の機能を回復させるしかないのです。

肝臓は、体内での解毒や血漿たんぱく質の合成など、様々な重要な働きを担っています。特に体の中の化学反応の大半を担っている臓器なので肝臓のダメージは時として命に関わるような症状になることもあります。このため、治療に頼るのではなく、予防をしっかり行うことが重要なのです。

海外では、食べ物や水に要注意

E型肝炎は主に、動物の肉や汚染された水から感染します。このため海外へ旅行した時には食べ物に十分に注意する必要があります。

途上国では生水を飲むことは避け、ミネラルウォーターあるいは一度沸騰させた水を飲んでください。また、カットフルーツなどを食べる場合、洗った水が汚染されていることもあるので、極力自分で皮をむいて食べることをおすすめします。

国内では、ジビエ料理に要注意

ジビエ料理というのは野生動物の肉を調理した料理のことです。シカ肉やイノシシ肉などを食べたことがある人も多いと思います。

野生動物の肉は独特の風味や歯ごたえがあるため、近年人気が出ています。しかし、これらの野生動物の肉にE型肝炎ウイルスが付着していることが度々報告されています。

野生動物がどのような食性をしていたのか、清潔な状況で解体されて肉を取り出されてきたのか等を把握することは難しいです。そのためジビエ料理を食べる場合、入念に検査されたものや十分に加熱されたものだけを食べるなどの注意が必要です。

まとめ

E型肝炎は、一度感染してしまうと他の人に移してしまう可能性もあり、治療法も乏しいため、そもそも感染しないように気をつけなければなりません。旅行をする前には自分の旅行先が汚染地域になっていないか予め調べておき、感染地区に出入りすることになる場合にはしっかりと事前の知識の準備と対策を欠かさないようにしましょう。

また、国内でもシカ肉やイノシシ肉などのジビエ料理を食べる時には注意が必要です。水分の摂取や食べ物の調理に気を配るだけで、感染の可能性を大幅に下げることができるのです。