「最近物忘れが激しくてね、年取るってイヤだね」高齢化が進むにつれ、こんな言葉を耳にすることが増えた気がしませんか。実はこれは、認知症の落とし穴のひとつです。年のせい、年のせい、と思っている間に認知症が進んでしまう可能性もあります。「年のせい」と思っている段階で判断されるものに「軽度認知障害」という状態があります。

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その物忘れ、年のせい?

まず知っていただきたいのは、認知症は老化現象ではなく病気なので治療が必要だということです。また、高齢者だけではなく、40代で発症することもあります。「認知症といわれるのがいやだから、受診したくない。」「なんだかおかしいけど、年も年だし…」そう感じたら、ひとまず専門家に相談してみませんか?

認知症の前段階として「軽度認知障害(MCI)」という状態があることが知られるようになりました。軽度認知障害(MCI)は、認知症との診断はつかないものの正常ともいえない、正常と認知症の中間といえる状態です。軽度認知障害と診断された方のうち、1年以内に10~15%が認知症に進行するといわれています(厚生労働省 e―ヘルスネットより)。

一方で、この段階で見つけることで、認知症に進むのを遅らせたり、認知症になるのを防いだりすることができる可能性も示唆されています。

どの状態が軽度認知障害?

物忘れが主な症状です。物忘れの自覚があるものの、記憶力の低下以外に明らかな認知機能の障害がみられません。日常生活への影響は無いか、あっても支障をきたすほどのものではない軽度のもの、というような状態です。

以下のような診断基準があります。

  • 本人、または家族による物忘れの訴えがある
  • 年齢や教育レベルの影響だけでは説明できない記憶障害が存在する。(今いる場所が分からなくなる、日付が分からなくなる、など)
  • 日常生活動作は自立している。(家事が問題なくできる、交通機関を使って問題なく外出できる、など)
  • 全般的な認知機能は正常範囲である。(日付が分かる、時計が読める、ものの名前を正確に言える、など)
  • 認知症ではない

認知症の診断の手掛かりとして、心理検査をすることがあります。また、認知症の自己チェック用にと都道府県や市町村でチェックシートも作っています。軽度認知障害は「認知症の前段階」なので、こういったチェックシートが役に立ちます。例えば「〇点以上は認知症の疑いがあります」と書いてあった場合、〇点以上でなくてもあてはまるものがあれば、専門家への相談を考えてもよいでしょう。

かんたんチェックリスト

チェックしている女の子-写真

自分でするリスト、家族や周りの人用のリストは以下のような項目があります。これは一例ですので、何個当てはまったら、というより、ひとつでも気になるものがあれば、相談のきっかけにしてください。

自分でチェック!

  • しまい忘れや置き忘れが増えた
  • 料理・片付け・計算・運転などのミスが多くなった
  • テレビ番組の内容が理解できなくなった
  • 些細なことで怒りっぽくなった
  • 「このごろ様子がおかしい」と人から言われた
  • 一人になると怖くなったり、寂しくなったりする

周りがチェック!

  • 同じことを何度もしたり、言ったりする
  • 財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う
  • 話のつじつまが合わない
  • 周りへの気づかいがなくなり、頑固になった
  • 塞ぎ込んで何をするのも億劫がる
  • 趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった
  • 下着を替えずに身だしなみを構わなくなった

あれ?と思ったら、「いや、そんなはずはない、年も年だし」とか「最近○○があったからね」と理由を探すのではなく、「受診して、何もないとわかればそれでいいじゃない」というくらいの気持ちで、まずは相談していただきたいです。

こんな検査があります

血液検査

認知症の割合として一番多いのはアルツハイマー型認知症です。アルツハイマーはアミロイドβというタンパク質が脳に沈着することが原因で脳の萎縮を引き起こします。このアミロイドβが溜まりやすい状態になっているかどうかを、血液検査で調べることができます(MCIスクリーニング検査)。

CTMRI

脳の萎縮がないか、また物忘れの原因になっている脳腫瘍、血腫、水頭症などがないかを確認します。脳腫瘍や血腫、水頭症などが原因であれば、手術などで原因を取り除くことで症状が改善する場合があります。また認知機能低下に関していえばCTに比べてMRIの方が得られる情報は多いといえます。

心理検査

上記チェックリストのような検査や、記憶力を確認するような項目を中心とした検査などがあります。

まとめ

繰り返しになりますが、認知症は早期発見、早期治療が可能な病気です。軽度認知障害は年10%程度、5年で約半数が認知症の状態に進みます。大切な人が「もしかして」と思うとそれが分かるのも怖い、と思ってしまうのも無理はないと思いますが、軽度認知障害の状態で発見できれば、治療をすることで、その先をよりよく過ごすこともできるということを忘れずにいたいですね。