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女性特有の疾患子宮頸がんを知っていますか? 20~30代の女性に多く見られる病気で、自覚症状が出るころには既に進行していることが多いといわれています。進行すると、子宮・卵巣の摘出を余儀なくされるケースもあり、最悪の場合は命の危険もあります。毎年1万人の女性が発症し、3000人の方が命を落としています。(MSDより)

この子宮頸がん、検診によって早い段階で発見できる病気でもあります。政府も検診の無料クーポンを配布するなどして受診率の向上を図っています。

そんな中、検診を呼び掛ける一人の女性アーティストがいます。笛田サオリさんは、たまたま受けた検診で子宮頸がんが発覚し、軽度の状態で治療を始めることができました。早期発見の重要性について身をもって知る笛田さんに、20代前半の女性記者がインタビューを行いました。まず、前編ではがん発見のきっかけ、公表への思いを伺いました。

笛田サオリ
音楽家・文筆家・作詞家・アクセサリー作家。2009年から音楽プロジェクト「さめざめ」として活動し、女性が普段言えない気持ちを赤裸々に表現し、注目を集める。2013年1月に子宮頸がんが発覚し、手術を経て同年5月に子宮頸がんを公表。そのあとも精力的に活動する傍ら、子宮頸がん検診の重要性を呼び掛けている。

「念のため」で受けた検査でがんを発見


――まず、どういった経緯で子宮頸がんが発覚したのですか?

2013年の1月、メジャーデビューから1か月が経った頃に今まで経験したことのない不正出血が起き、それが一週間続きました。当時は新しい環境にいたことに加えてライブや撮影、レコーディングなどとても多忙な生活を送っていました。その中でのできごとだったのでストレスによるものだろう」と考えていました。ただ私自身、事務所に所属していて「自分一人だけの体ではない」と思い、婦人科のクリニックに行きました。

そこで不正出血の原因はホルモンバランスの乱れだと分かったんですけど、先生(医師)に「念のため、子宮頸がんの検査をしておきましょうか」と言われました。その時の先生の口調がとても軽いものだったので、「心配させないためなのかな」と思いました。

その後がんの疑いがあることが分かり、近くのがんセンターを紹介してもらって検査したのですが、診断までに10日かかると言われて。その10日間はドキドキでしたね。診断が出るまでの間に子宮頸がんについて調べてみると、それまで知らなかったことが色々分かりました。ウイルスでうつることや子宮を取らなくてはいけないケースもあること…。デビューした直後で「これから」という時期だったので、とても不安になったのを覚えています。

でも、しっかりと病名が出るまでは周囲を心配させてはいけないと思い、家族以外には打ち明けませんでした。

――子宮頸がんについて調べたとき、がんについての情報を集める上で何が一番参考になりましたか?

周りに子宮頸がんを経験した人がいなかったというのもありネットで情報を探しました。ただどこの誰が書いたか分からないページの内容を鵜呑みにしてしまうのは、恐ろしいなと思いました。そのため同じネット上で探すにしても、医師の方が発言している部分も参考にしました。ただやはり一番は先生に直接聞くことでしたね。

――実際の診断結果は?

子宮頸がんの0期(上皮内がん)、がんのステージ(病期)のなかでも一番早期の段階です。がん細胞が皮膚にくっついているような状態ですね。そこの部分だけレーザーで切り取る「円錐切除手術」を提案されました。子宮も温存でき手術するなら今がベストなタイミングだと先生は言っていました。2泊3日で退院できると聞いて、拍子抜けしたのを覚えています。

聞いてみたら、通常0期で症状が出ることってまず無いらしいんですよ。私はたまたま不正出血があったから病院に行けましたが、出血が起きていなかったらがんに気づけず、手遅れの段階まで進んでしまっていた可能性があります。そう考えるとすごく幸運でした。

――デビュー直後ということでしたが、お仕事と治療の折り合いはどのようにつけましたか?

4月にフェスに出る予定だったので、大事をとって3月中のライブなどは中止にしました。当時の事務所から子宮頸がんについて公表することは控えるように言われたので、理由はただ単に“体調不良”だけに留めておきました。だけどそういった理由でファンの方に心配をかけてしまうのは辛かったですね。

 伝えたからこそ周囲からもらえた「悩み」

左からの笛田さん
――術後、復帰して音楽情報誌でのインタビューで子宮頸がんであることを公表したのはなぜですか?

まず、私の作品は女性の言えない気持ちを代弁する音楽なので、自分の病気も隠したくなかったんです。芸能のお仕事をされている方の中で子宮頸がんを公表される方ってすごく少ないんですよ。それは、世の中に「子宮頸がん=性病という偏見があって、公表後の活動に影響が及ぶのを避けるためなんだと思います。

でも私のようなスタイルで音楽をやっている以上、男性経験が多いと思われることは覚悟していました。むしろそんな私ががんについて伝える場があれば、それを見たり聞いたりした一般の方に勇気を与えることができるのかなと思いました。

――公表を思い立ったとき、周りの反応はどうでしたか?

所属事務所はいい顔はしなかったです。やっぱり子宮頸がんという病気の特性上、イメージに影響が出ることは避けたかったんでしょうね。そんなとき事務所と親交が深かった音楽情報誌の方が、私の病気についてぜひ誌面で取り上げたいと仰って下さったんです。私は子宮頸がんについて伝えたいと思っていたので、そこから雑誌のインタビュー内で公表することになりました。家族や友人、当時付き合っていた人からは公表に関して特に反対されませんでした。

――実際に公表した後の反応はどのようなものでしたか?

音楽関係者の方からは「(公表するのは)さめざめっぽいね」と言われました。一部の友人は、婦人科系の病気の悩みや子宮頸がんを患っていた過去などを打ち明けてくれるようになりました。ファンの方からもSNSやファンレターを通じて同様のことを打ち明けてもらう機会も増えました。「子宮頸がん検診受けてきたんですけど」「いま検査結果待ち中です」といった、今までにない声をいただくようになりました。

そこで感じたのは、やっぱりみんな自分の体について心配はしつつも病気によってはなかなか言えないまま過ごしているということですね。他ではあまり言えないことだから、私に伝えてくれたんだと思います。そういうことを話し合える環境は必要だなと感じました。

――子宮頸がんを経験したことで、なにか生活面に変化はありましたか?

もとからそんなに健康に気を使っている方ではなくて、今でも睡眠不足なときもあるし野菜も多くとれているほうではないですね。ただ、体に少しでも不調を覚えたら直ぐにお医者さんに診てもらう癖はつきました。違和感を覚えたまま放置した後、実は何かが起きていたという事態はやはり恐いと考えるようになりましたね。

この前、何となく歯が気になって歯医者に行ったら、大きな虫歯が見つかって。でもこの場合は行かなきゃなと思いつつ放っておいた結果なので、「まだ油断してしまっているな」と感じますね。例えばただの風邪っぽい症状だとしても、専門家に診てもらって安心できる状態でいたいですね。

後編に向けて

婦人科系疾患はだれにとっても話題にしにくく、病気の理解もなかなか進みづらいのが現状です。この記事を読むまで、子宮頸がんについて詳しく知らなかった女性も多いのではないでしょうか。笛田さんの経験談を読んで、自分にも起こり得る病気として子宮頸がんのことを知っていただければ幸いです。後編では、笛田さんが感じた検診の重要性と子宮頸がんを取り巻く偏見について伺います。