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我々内科医は医師の中でも特に人の死に多く立ち会います。
終末期を診ている為に予防できるものは知ってほしいと願っています。

「薬は飲みたくない」
と外来で言われた。多くの内科医が経験しています。
内科の大先輩は更に「検査もしたくない」と言われ
「じゃあ、僕に何をしろって言うんだ!」
と怒鳴り、その声が待合室にまで響き渡りました。

「薬は飲みたくない」と考えている方は多いです。
高血圧や脂質異常、糖尿病は体質の要素も大きく、なかなか本人の努力だけでは改善できない事が多いです。このため長期間内服が必要となります。

何故こうした疾患は治療の必要があるのでしょう。
御存知の通り、それは心筋梗塞や脳卒中など命に危険を及ぼすまたは寝たきりとなりうる致命的な合併症を予防するためです。

今回、内科医の立場からお伝えしたいのは
メタボリックシンドローム
です。

「なんだ、メタボか」と思われた方も多いでしょう。「やせろ」と言うんだろうと思われたかもしれません。
おそらくそう思われた方々は
「メタボ」=「肥満」
と思われた事でしょう。

再認識してほしいのです。
「メタボ」は単なる「肥満」ではありません。
「死」に近い病態です。

心筋梗塞のリスクが激増。知られざる「メタボ」の恐怖

メタボとなると健常人と比べ心筋梗塞は実に35.8倍に跳ね上がるとされています(労働省作業関連疾患総合対策研究班調査)。

日本人の死亡率第2位は心疾患です(厚生労働省 死亡 第8表)。
その危険性が35.8倍に上がるのです。

死亡率

メタボリックシンドロームは1988年、スタンフォード大学のGerald Reavenによって提唱されました。

メタボリックシンドロームが「メタボ」と略され始めた頃、糖尿病を専門にしている先輩や同僚は「危険性が伝わらない」と危機感を語ってくれました。

「メタボ」という言葉が一人歩きし、「肥満」の代名詞となっています。腹囲を測るとき腹を引っこめたなど面白おかしく語られるようになっています。

心筋梗塞となると、1/3は病院にたどり着けずに死亡します。治療方法が開発され高い効果が得られるようになった今もそれは変わっていません。(第2回日本心臓財団メディアワークショップ 高山守正先生)

再生医療により、いずれは機能が完全に回復するようになるでしょう。でもそれも生き残った場合です。1/3は病院にたどり着けないのですから、予防の重要性は依然非常に高いのです。

メタボは薬を飲まずに治せる疾患

体重

心筋梗塞の患者さんが入院します。

研修医が指導医に聞かれる事の一つが、
「リスクは?」
心筋梗塞を発症する危険因子をたずねられます。

主に「高血圧」「脂質代謝異常症」「糖尿病」「喫煙歴」「家族歴」
の有無が問われています。

殆どの場合どれか必ずあります。裏を返すと
「リスク」が存在しない人は殆ど心筋梗塞にならないということです。

メタボの条件は内蔵脂肪型肥満、高血糖、高血圧、脂質異常です。
この内、「肥満」に対する薬はありません。ですが、これは裏を返せば
「薬を飲まなくても治る」疾患だということです。

そうはいっても理想体重までの減量はなかなか難しいものです。

しかし人によってメタボにならない体重は実は異なります。マツコデラックスさんは肥満ですが人間ドックの結果は全て正常だそうです。テレビ番組での話で確認したわけではありませんから真偽のほどは分かりませんが、確かに肥満があっても血圧や脂質、血糖値が全て正常という方がいます。背が高い低いと同じように体質も異なって当然です。

理想体重までの減量は大変でも、人により異なる「適正な体重にする」ことによりメタボという疾患は回避できます(もちろん理想体重でないと回避できない方もいますし、やせ形でないと発症してしまうという方もいます)。

メタボになるとかかる費用

費用

メタボで医療機関にかかった場合の費用について概算をしてみましょう。

年間費用概算(薬代は1日分の比較的よく使われるもので計算しました)

1日の薬代(高血圧100円+糖尿病230円+脂質異常80円)、 ×365日
+検査料(年4回17760円)
+診察料一か月分(再診料730円+外来管理料520円) ×12回
=182,410

個人の支払い分(3割)  54,723円
健保組合の支払い分(7割)  127,687円

メタボの場合にかかる金額です。適正体重になることによりどれか一つでも内服が止められれば費用が抑えられます。

現在多くの健康保険組合では医療費の高騰が大きな問題となっています。健診でのデータを活用し、医療費削減に向けてより効果的な方法を策定する事が義務付けられました。それがデータヘルス計画です。企業にとっても脳梗塞や心筋梗塞となれば重要な戦力を失います。個人の健康を守るのは本人とってはもちろん、企業にも非常に有益です。

 最後に

私達の研究によれば個人の体質を反映し「メタボリックシンドロームになるか否か」予測可能です(Hirose H, Takayama T et al, CBM 2011)。また、シミュレーションによりメタボを発症しない為の適正体重の提示も可能となっています。

メタボを一度見直してみませんか。
メタボの治療は死因第2位の心疾患と寝たきりの原因第1位の脳卒中(平成22年国民生活基礎調査)の予防になっているのです。

我々のものに限らず今は様々な健康管理ツールが開発されています。御自身、各企業にあった方法で適正体重を目指し、死因第2位の心疾患と寝たきりの原因第1位の脳卒中を予防してみてはいかがでしょうか。