地震・火山噴火・台風など、災害の危険は私たちにとって身近なものです。ここ数年の異常気象などをきっかけに、万が一の災害で普段どおりの生活ができなくなることを一度ならず考えたことがあるのではないでしょうか。

そうした非常事態には日頃からきちんと備えておくことが有効ですが、病気治療中の患者さんは、通常の備えに加えて服用中の薬などに気を配る必要があります。糖尿病治療中の患者さんも然りです。

そこでこの記事では、糖尿病治療のために内服薬やインスリンを服用されている方が、災害時のためにどのように備えておくべきか、災害時にどのように対応すべきかについて解説しています。

目次

災害に備えて普段からやっておくべき4つのこと

いざ災害に遭ったときに、その場で必要なものを揃えるのは大変です。冷静に行動できないこともあるでしょう。そのため、平常時にできることをしておくことが大切です。

1.薬の情報がすぐにわかるようにしておく

災害時は怪我などにより救急対応を受ける可能性があります。そのため、薬の情報は「自分が覚えていればいい」と思っていると危険です。自分がわかっているのは当然のこととして、誰が見てもすぐにわかる状態にしておく必要があるでしょう。

薬の情報を整理するポイントは、次の3つです。

①お薬手帳の整理をする

「お薬手帳」は薬の情報を管理するために便利なツールですが、案外煩雑に薬の情報が書かれています。そこで、「現在自分に必要な薬」がわかるように、お薬手帳を整理しておきましょう。

糖尿病で飲んでいるお薬以外でも飲んでいる薬がある、数箇所の病院から薬をもらっている、時々しか使わない薬があるなど、いろいろなパターンがあると思います。

  • 最新のシールに目印をつける
  • 数ヶ月ごとに「現在の使用薬」を書き出しておく
  • いっしょに薬の使用方法についてもまとめておく

など、他の人が見てもわかるように工夫しましょう。

②糖尿病連携手帳を準備しておく

糖尿病患者さんの場合、お薬手帳とは別に「糖尿病連携手帳」というものがあります。

これは、患者さん自身の基本情報(住所や名前、診断、薬剤、合併症の有無など)のほか、かかりつけ医やケアマネージャーなどの情報、糖尿病に関する検査データ、合併症に関する検査データなどをまとめられるもので、薬以外の患者さんの情報がわかるようになっている手帳です。

患者さんは日々の血糖値コントロールや食事の管理をはじめ、薬以外の患者さんの身体の状態に関する情報もとても重要です。

手帳は医療機関で配布していることが多いですが、ない場合には日本糖尿病協会から取り寄せることも可能です。まだ持っていない方は、準備しておくとよいでしょう。

③必要な薬をまとめておく

救援物資が届き、医療設備が整うまでに時間がかかる場合があります。そこで、使用している薬を一週間分は災害用の持ち出し袋に準備しておきましょう。

薬は使用期限がありますし内容や飲み方が変わることもあるので、新しく処方された薬と定期的に交換するようにします。災害用品といっしょに、数ヶ月ごとにチェックをするとなおよいでしょう。

2.自分の体調と血糖値の関連を把握しておく

血糖値の測定は日常的に行っているかと思いますが、「このくらいの血糖値ならこのくらいの体調」という数値と体調の関連を自分で把握しておきましょう。

災害時には血糖測定がいつものようにできない可能性もあります。そのようなときは自分の体調をたよりにインスリンの量などを調整する必要も出てきます。普段の受診時に、災害時や体調にあわせた使用方法をかかりつけ医に確認しておきましょう。

3.水と食料の備蓄をしておく

薬も大切ですが、まずはエネルギーを確保すること、食事を摂って生きのびなければなりません。ただし、災害用の食事にもカロリーがありますので、自分で準備する食料は、1食ごとのカロリーを添付して小分けに用意したり、一品ごとのカロリーを表にして入れておくなどの工夫をするとよいでしょう。水と食料は最低3日分を備蓄として備えておきましょう。また、低血糖に備えて、ブドウ糖も準備しておきましょう

4.避難所・避難場所の確認

災害時の避難所、避難場所の確認をしておきましょう。自宅の近辺はもちろんですが、よく出かける外出先の近辺も把握しておきたいところです。避難所、避難場所には種類があるので、それぞれがわかるように自宅のわかりやすい場所にメモを貼っておくなどするとよいでしょう。

*避難所:救援物資があり、寝泊りできるところ

*避難場所:一時的に身を守るための場所(さらに広域避難場所(火災時)と緊急避難場所(水害時)があります)

災害時の薬剤使用について

薬

内服薬もインスリンも、災害時は日常とは薬剤の使用条件が違ってきます。使用している薬剤や、個人の状況により使用方法は異なるので、いろいろな条件での薬剤の使用方法を、かかりつけ医に確認してまとめておきましょう。以下は個人差を別にした、基本的な対応です。

1.災害時の経口薬の服用

食事の量が少ないとき・・・食事の量に応じて服薬量を調整する。
食事がとれないとき・・・薬はのまないでおく。

2.災害時のインスリンの使用

基本として、1型糖尿病の患者さんは食事をしないときでも、基礎分泌量のインスリンは絶対に必要ですので、インスリン注射は打たなくてはいけません。しかし、インスリンを持ち出せなかったり、持ち出しても使えなくなってしまったり、さまざまなケースが考えられます。避難先では自分が糖尿病であることを、まず救護班に伝えること、また周囲にも知ってもらうようにしましょう。インスリンが手に入った場合、持ち出せた場合の使用目安は次のとおりです(数値は日本糖尿病協会「災害時ハンドブック」より)。

基礎インスリンしかない場合

1型糖尿病の方…1日の総量の50%のインスリンを使用する。
2型糖尿病の方…1日の総量の30%のインスリンを使用する。

追加インスリン(即効型・超即効型)しかない場合

1型糖尿病の方…1日の総量の6分の1の量を4~6時間おきに使用する。
2型糖尿病の方…食事のたびに4~6単位を使用する。

使っているインスリンの種類も量もわからないとき

基礎インスリンだけある場合…(0.1~0.2単位)×(自分の体重(kg))の量を使用する。
追加インスリンもある場合…基礎インスリン(上記参照)+食前に追加インスリンを4単位ずつ使用する。

3.注射針について・保管方法について

注射針は自分自身に使う場合のみ、繰り返して使用することは可能です。ただし、注射針が詰まってしまうこともあるので、使用前に空打ちするのを忘れないようにしましょう。普段から使用前に空打ちする癖をつけておきましょう(空打ちは本来、基本動作です)。

保管は普段は冷蔵庫で行っている方が多いかと思います。災害時は季節によっては「冷暗所」が難しくなります。その場合は直射日光だけはとにかく避けて保管しましょう。製品によりますが、4週間程度は使用可能です。インスリンは高温で変質するので、色が変わったり、沈殿物がないかを使用前に必ず確認し、そのような変化のあるものは使用しないようにしましょう。

まとめ

「準備」と一口に言っても、やっておくこと、確認すること、覚えておくこと、がたくさんありますね。まったく用意のない方は、自分の身を守るためにも、少しずつ実行していきましょう

最近ではアプリなどで管理している方もいるかと思いますが、災害時では通信が不安定になることも想定して、必要な情報は紙面・アナログでも準備しておくことをお勧めします。