歯並びというと小児から成人へかけての成長期や婚活期に焦点を当てるきれいな歯並び、という印象が多いことでしょう。実際にこの「いしゃまち」内でも検索いただくと多くの情報が見つかるはずです。
私たち人間は、およそ生後6か月頃より乳歯が生えはじめ、2歳半で乳歯列がそろいます。6歳には第一大臼歯という最も噛み合わせに重要な奥歯が生え、この大臼歯の歯の高さが低いと下顎の成長が劣り、高いと下顎が前方に大きく成長していくことなどもわかってきました。噛み合わせと歯並び(歯列)は常に密接なかかわりがあるのです。
今回は人生90年時代へ突入した現在の中高年者が直面している歯並びについてお伝えしてみたいと思います。小児から青年期、成人の歯科矯正についてはまたの機会に致しますね。
健康な歯で健康寿命を延ばしましょう
そもそも私たちの人生が50年だった頃からかなりのスピードで平均余命が延長し、それに伴い様々な生活習慣病などの問題も昨今浮き彫りになってきました。また、健康寿命が80歳で、平均余命が90歳ということから人生の終末の10年間が必ずしも健康的に過ごせていないということも明らかになってきています。
この10年をさらに短くし、生きることすなわち健康、との実現に近づくために歯科がかかわる部分もかなりあるはずです。この命題について「歯並び」をキーワードにしてお話ししてみたいと思います。
中高年の歯並びの問題
中高年、今の私もこの年齢です。このころに起こる歯並びの変化とは、
- 「歯に隙間ができた」
- 「前は綺麗だった前歯の歯並びが少し重なってきた」
- 「上の前歯が外側に広がり、出っ歯になってきた」
- 「歯のかむ部分から削れて歯の形が平らになってきた」
- 「歯が伸びてきた」
などなど様々な変化が見て取れます。
乳歯から永久歯に生え変わる6歳からおよそ40~50年。歯は相当な回数噛み合わされてきています。お食事の時の咀嚼だけではなく、人生の荒波とともに食いしばり、歯ぎしりし、擦り合わせてきたのです。生活習慣病の一つともされる歯周病にも罹患している確率が高くなります。
中高年期の歯並びの問題点は、長期連用してきた歯が多くの負荷や細菌にさらされてきているという点です。これらも含めて加齢現象といってしまえばそうなのかもしれませんが、人生90年です。まだまだ綺麗な歯並びでいたいですね。またおいしく食事をお口で咀嚼し、きれいな口元で楽しいおしゃべり、笑顔であいさつなどはQOL(生活の質)にとって重要な要素です。
歯並びの加齢変化
しかし、中高年では歯周病の罹患率が高く、生活習慣病などの併発も多くなり、私たちの身体の抵抗力や免疫力が低下してきています。
歯茎が痩せ、歯が動きやすくなってしまうと歯並びは当然乱れます。また、多くの回数や過大な力での噛み合わせにより歯そのものがダメージを受けるだけでなく、歯並びも変化します。歯が削れてくることで噛み合わせが低位になりがちです。
虫歯などで奥歯などを1本でも失えば、歯並びが変わり、噛み合わせが変わり、噛む顎のポジションもやはり低位を呈します。そうなると下の前歯が上の前歯の裏側を突き上げ、上の前歯は広がるように出っ歯になってきます。これはフレイアウトと呼ばれる現象です。親知らずや第二大臼歯が前歯側に押し倒れる傾向が現れ、前歯にしわ寄せがきます。前歯が乱杭歯に変化してきたことを実感されていらっしゃる諸兄諸氏はこれも原因です。
歯周病や噛み合わせで歯並びも変化するのですが、これらすべてを総称して”歯並びの加齢変化“なのです。歯を大切に使っていても私たちの身体にはそれぞれ対応年数があるのでしょう。
歯並びを改善するために
そこで私からの提案なのですが、人生90年である以上、50代や60代のうちにお口の中のことも再考し再構築してみてはいかがでしょうか。
歯列矯正は決して子供たちや若い方に限ったものではありません。中高年であってもさらにきれいな歯並びで高齢でも健康的な生活を迎えるべきです。それにはただ綺麗に歯を並べ替えるだけではなく、機能を考慮したかみ合わせの再構築が最も重要です。咬合・歯列・再構築(Occlusion/Dental arch/reconstruction)です。
歯並びや噛むことに何らかの問題を自覚なさる方は是非早めに歯医者さんにご相談になられることをお勧めいたします。そんな余命の長さになったのです。お口は身体のそして健康の入口です。人生半ばでの身体のケアは最重要課題なのです。
自分自身のアイデンティティーにとっても、終末医療にかかる医療費の抑制に対しても。ひいては日本のため、子供たちのため、人類のためかもしれません。更年期過ぎてからの人生、豊かに行こうではありませんか。