世間でも一時期かなり話題になった低炭水化物ダイエット。この記事では、そんな炭水化物制限に対して2013年に日本糖尿病学会から出されたプレスリリース「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」を一般向けに噛み砕いてご紹介しています。

目次

※この記事は、執筆者が研修医の時に作成した記事です。

前回の記事『「低炭水化物ダイエットに待った」で話題を呼んだ糖尿病学会プレスリリースを読んでみる(1)』では、炭水化物制限が論争を呼ぶきっかけとなった論文を紹介しました。今回はその続きです。

論争の初期の論文では、糖質制限がほんとうに減量に効果があるのか、怪しい部分もあったわけです。しかし、それから時間が経つにつれて、より意義のある研究結果が報告されるようになりました。

炭水化物制限の効果は6年間つづく

その後いくつかの研究を通じて、どうやら炭水化物制限は減量に効果があるらしいということがはっきりしてきました。

たとえばイスラエルのイリス・シャイ先生が提出したこちらの論文は、「脂肪を制限した食事よりも、地中海食や低炭水化物食のほうが減量効果があった」としています。

Weight Loss with a Low-Carbohydrate, Mediterrnean, or Low-Fat Diet(低炭水化物食、地中海食、低脂肪食による減量)

Iris Shai, R.D., Ph.D., Dan Schwarzfuchs, M.D., Yaakov Henkin, M.D., Danit R. Shahar, R.D., Ph.D., Shula Witkow, R.D., M.P.H., Ilana Greenberg, R.D., M.P.H., Rachel Golan, R.D., M.P.H., Drora Fraser, Ph.D., Arkady Bolotin, Ph.D., Hilel Vardi, M.Sc., Osnat Tangi-Rozental, B.A., Rachel Zuk-Ramot, R.N., Benjamin Sarusi, M.Sc., Dov Brickner, M.D., Ziva Schwartz, M.D., Einat Sheiner, M.D., Rachel Marko, M.Sc., Esther Katorza, M.Sc., Joachim Thiery, M.D., Georg Martin Fiedler, M.D., Matthias Blüher, M.D., Michael Stumvoll, M.D., and Meir J. Stampfer, M.D., Dr.P.H. for the Dietary Intervention Randomized Controlled Trial (DIRECT) Group. N Engl J Med 2008; 359:229-241

低炭水化物ダイエットによる体重変化

グラフの赤で示されているのが低脂肪食、紫で示されているのが低炭水化物食。低炭水化物食は低脂肪食に比べ、2年間という長期にわたって高い減量効果を示しています

さらにシャイ先生はその後も実験を継続し、実験終了からさらに4年間にわたって低炭水化物食の減量効果が続くのを確認しています。

こうした研究の結果から、炭水化物制限が減量に効くということ自体は徐々に認められつつあります。

ちなみにグラフの黄色は「地中海食」。オリーブオイルやナッツを多く摂取する地中海型の食事のことです。

グラフ上、長期的には地中海食も低炭水化物食と同じくらい長期にわたる減量効果があるようです。こちらも数年前に流行ったようなのですが、最近はあまり耳にしませんね。結局のところ、健康ブームは「なにがいいか」よりも「声の大きい人がなにを言っているか」に左右されるような気がします(完全に余談ですが)。

炭水化物制限は安全か?

ドクター

どうやら減量には効果的らしい炭水化物制限。しかし、未だに議論されているのがそのデメリットについてです。

中でも注目されているのが、今年に入ってから日本で発表されたこちらの論文。

Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality(低炭水化物食と、あらゆる原因による死亡率について)

Hiroshi Noto, Atsushi Goto, Tetsuro Tsujimoto, Mitsuhiko Noda, January 25, 2013

国立国際医療センター糖尿病研究所の能登先生は、こちらの論文で「低炭水化物食では長期的な効用は認められない。心血管疾患のリスクは低減せず、総死亡率はむしろ著名に増加した」と報告しています。

この研究は過去に行われた研究の結果をまとめて解析したもの。計27万人におよぶ対象を解析した結果、糖質制限をしていた被験者では死亡率が31%増加しており、なかでも心血管疾患(心筋梗塞など)による死亡が10%増加していたということです。

 

この結果を受けて、研究チームは「糖質制限食に対し賛成・反対を言い切ることはできない」 としたうえで、とりわけ薬物治療をしている患者については、長期にわたって効果的な食事療法を継続するため、栄養士や医師による指導を定期的に受けることを勧めています。

減量するための方法を探している方々の多くは「肥満だと健康に悪い」とか「生活習慣病になりたくない」といった理由を持っていると思います。しかしながら、上のような結果をみると安易な炭水化物制限が逆に疾患を生んでしまう危険が見えてきます。