世界でもっとも多くのCTを保持する国、日本。

OECDの統計によれば、日本のCT保有数は12,943で世界最多。2位がアメリカで12,740台とほぼ横並びですが、3位のブラジルでは3,057台と一気に減ります。人口当たりでみると100万人あたり97.3台で、OECD諸国の平均22.1台の4倍以上となっています。

医療分野に関心のある方なら、誰もがこの話題を耳にしたことがあるかと思います。時節柄、医療者よりもむしろ一般市民のほうが高い関心を持っているかもしれません。

目次

※この記事は、執筆者が研修医の時に作成した記事です。

レントゲンは影絵、CTは断面図

そもそもCTとはどんな機械かご存知でしょうか。

CT とは Computed tomography、すなわち「コンピュータ断層撮影法」の略で、体の周囲360°から放射線をあてて、透過した投影データから体の断層画像を構成する装置のことです。

レントゲン写真というのはいわば影絵のようなもので、人体をまっすぐに透視して、内側にあるものの輪郭を描き出す検査です。これに対して、CTでは人体をそのまま輪切りにして見ることができ、臓器の位置関係や状態など、レントゲンよりもはるかに多くの情報を得ることができます

レントゲン写真は簡便に撮影でき、胸や骨ならそれなりに多くの情報を得ることができますが、腹部などはかなり情報が乏しいです(と言ってしまうと専門の先生には怒られそうですが)。また、脳の状態などはCTでしか評価することができません。

確定診断から治療効果の判定まで、CTはあらゆる場面で今日の高度な医療を支えています。言い方を変えると、CTがこれだけ普及しているという事実自体が、比較的ムラなく高められた日本の医療水準を象徴しているのかもしれません

CTにつきまとう「医療費」と「被曝」の問題

しかしながらCT大国日本には、そのCTの多さゆえの問題があるといわれます。

よく言われるのは「CT検査を行うハードルが下がるため、過剰な検査が行われやすい」ということ。どの病院にもCTが置いてあるせいで、本来は必要のない患者さんに対し「念のため」CT撮影が行われるケースが多いということです。

過剰な検査が行われると、大きくわけて2つの問題が生じるとされています。

1つは、医療費の問題。CTは安価な検査ではありません。一般的な場合、胸のレントゲンを1枚撮るのに2100円かかるのに対し、胸のCTを1回撮ると14700円かかります(場合によって異なります)。こうした高価な検査が過剰に行われることによって、日本の医療費膨張に拍車をかけているという指摘があります。

もう1つは放射線被曝の問題。CTで浴びる放射線の量はレントゲンの約100倍といわれます。それでも1回あたりは大した量ではないのですが、これを繰り返しているとそれなりの被曝量になるという指摘です。古い論文ですが、医療被曝が日本人の発癌に寄与しているという指摘もあります。

いずれの話ももっともらしいですが、聞きかじったイメージや感情で語られることもままあり、統計に基づいた正確な議論が必要です。

統計の話については僕よりもずっと詳しい方がいるでしょうから、ここではあえてしません。これからお話するのは、医者になったばかりの僕が現場で経験した、CT検査の現実です。

医者も患者もCTを撮っておきたい

現場で見ていると、安易にCT検査が行われる現状にはある程度の必然性があります

前述のように、CTはレントゲンに比べてはるかに大きな情報量を与えてくれます。レントゲンだけで事足りることもありますが、診断や治療方針の決定にあたってどうしてもCTが必要になるケースもたくさんあります。

我々は新しい患者さんが来ると、問診や身体診察、あるいは血液検査などで得られた所見から、とりあえずレントゲンだけで十分だろうとか、いやCTまで撮ったほうがいいだろうとか、何も撮らなくても大丈夫だろうという判断をします。レントゲンの結果を見て、異常がありそうだけどよくわからないからやっぱりCT撮ろう、となることもありあます。

つまり、医者はなにも無闇にCTを撮っているわけではなく、ある程度の選別を行っているのです。問題は、このCTを撮るか撮らないかという判断自体がそれなりの知識と経験を要求するということです。