妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)は誰でもかかる可能性のある妊産婦さん特有の病気です。
もし診断された場合はどのようなことに気をつけていけばいいのでしょうか?この記事では治療方法と、重大な合併症、産後はどうなるのかについてお話ししたいと思います。
妊娠高血圧症候群の治療法
妊娠高血圧症候群は「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧がみられる場合、または、高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものでないもの」と定義されています。
胎盤が作られる際の血管の異常が原因ではと言われていますが、まだはっきりとした原因はわからない病気です。
妊娠週数や赤ちゃんの状態、高血圧の程度などにより、治療方針が異なってきます。
軽症の場合には、外来通院での食事のカロリー制限や塩分制限で様子を見ますが、悪化するようであれば入院して安静を促しつつ、血圧を下げる薬や子癇を抑える点滴注射を行うこともあります。
重症の時や重篤な合併症の兆候がみられた場合は、妊娠10か月に至らない早い週数でも帝王切開で出産が必要な場合があります。
また、妊娠高血圧は出産することでお母さんの状態が良くなるケースが多いことも特徴です。
妊娠高血圧症候群で注意すべき症状
妊娠高血圧症候群は自覚症状が少なく、健診で異常が出るまでは気づかない方も多くいらっしゃいます。しかし、どうして治療しなくてはいけないかと言うと、重篤な合併症を防ぐ必要があるからです。
具体的には、下記のような合併症に発展すると緊急で帝王切開しなくては母子共に危険な状態になってしまうことがあります。
それぞれ前兆となる症状が現れることがあるので、症状が現れた場合やいつもとなにか違うと思うことがあればすぐに医師や看護師に伝えてください。
子癇発作(しかんほっさ)
子癇発作は、突然痙攣を起こし、意識を失うこともある症状です。急激におこった高血圧によって脳の中の血液が増え、脳の中にむくみが起きて、けいれんを起こすと考えられています。
子癇発作が起こる前兆として、高血圧のほかには頭痛、視覚障害といった症状があります。
前兆が見られた場合、室内を暗くして光や音などの刺激が少ない環境にしましょう。少しの刺激が引き金となり、子癇発作へと繋がってしまうのです。
HELLP症候群(ヘルプしょうこうぐん)
HELLP症候群は、妊娠の後半からお産の後に発症しやすい病気です。
原因不明ですが、赤血球が過剰に壊され、肝臓の機能が悪くなり、血小板(出血を止める働きがある血液成分)が減ってしまいます。症状が進行すると、全身の臓器がダメージを受け、血液の凝固異常によって母子共に命の危険があります。
HELLP症候群の前兆として、胃痛、みぞおちあたりの痛みや不快感、吐き気や嘔吐があります。血液検査では、肝臓機能の低下、溶血、血小板の減少が見られるため、これらの症状が出た場合は早く赤ちゃんをお腹の外に出さなくてはなりません。そのため、緊急で帝王切開などの方法がとられます。
常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)
胎盤は通常、赤ちゃんが産まれた後に子宮内から剥がれて出てきますが、常位胎盤早期剥離は、子宮の正常な位置に付いている胎盤が赤ちゃんが生まれる前にはがれてしまう病気です。胎盤が剥がれることにより、そこから出血を起こし、赤ちゃんへの酸素の供給が低下します。
常位胎盤早期剥離は症状として下腹部痛、不正出血、胎動の消失があります。
症状は人によって出方や感じ方が違うため、当てはまらない場合もあります。下腹部が少しチクチクする感じがするという症状で来られた患者さんが、常位胎盤早期剥離で緊急帝王切開になった症例もあるため、いつもと違う症状が出たらすぐに医師や看護師に伝えることが非常に大切です。
産後はどうなるの?
上記のような合併症がなく血圧の上昇もそこまでひどくなかった場合は、出産して胎盤がお母さんの体から出ることで、多くのお母さんの状態はよくなります。
ですが重症の場合は、出産後もしばらく血圧が高い状態や尿にタンパクが出続けることがあり、出産後も血圧を下げたりけいれんを予防する薬を使わなければならないことがあります。
また、出産後84日以上、血圧が高い状態や尿にタンパクが出続ける場合は、ほかの病気がないかどうか詳しく調べることが勧められています。
そのほか、妊娠高血圧症候群にかかった人は正常経過の妊娠であった人と比べて、中高年になってから高血圧、脳血管障害、虚血性心疾患、糖尿病、脂質異常症などのメタボリックシンドローム(代謝異常症候群)や腎疾患などが発症する頻度が高いことが報告されています。
そのため、出産後も食事、生活習慣などの健康管理には十分注意が必要です。
まとめ
妊娠高血圧症候群は突然重篤な合併症を発症する可能性があるため、その前兆となる症状が見られた場合は医師や看護師に伝えてください。
合併症が発症すれば後は時間との勝負になるため、早めの対応でお母さんと赤ちゃんとが共に無事に出産を迎えられる可能性が高くなります。合併症の前兆を知っておけば、もしその時が来た時にすぐ対応ができるのでぜひ知っておいてください。