妊娠高血圧症候群(HDP)という病気をご存知でしょうか?以前は妊娠中毒症と呼ばれていた病気で、なんとなく耳にされた方もいらっしゃるかと思います。

妊娠高血圧症候群とは、妊娠中特有の病気です。
妊娠中に高血圧がみられることで、さまざまな合併症のリスクが上がってしまいます。
重症化すれば母子共に命の危険が出てくることもあるため、妊娠高血圧症候群と診断された方は目立つ自覚症状がなくても油断せずに治療に専念する必要があります

ここでは妊娠高血圧症候群とはどんな病気なのか、なりやすい人や予防法などについてお話ししたいと思います。

目次

妊娠高血圧症候群はどんな病気?

妊娠高血圧症候群は「妊娠20週以降、分娩12週までの間に高血圧が反復してみられる場合、またはこのような高血圧に蛋白尿や全身の臓器障害を伴う場合のいずれかで、かつ、これらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によらないもの」と定義されています(日本妊娠高血圧学会より)。
高血圧は、収縮期血圧が140mmHg以上(重症では160 mmHg以上)、もしくは拡張期血圧が90mmHg以上(重症では110 mmHg以上)になった場合を指します(日本産科婦人科学会より)。

症状の出方や時期によって下記の4つに分類されます(日本妊娠高血圧学会 妊娠高血圧症候群定義・臨床分類改定案より)。

1.妊娠高血圧腎症

  1. 妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、蛋白尿を伴うもの(分娩12週までに正常に戻る場合)
  2. 妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、蛋白尿はなくても、基礎疾患のない肝腎機能障害、進行性の腎障害、脳卒中、子癇などの神経学的障害、肺水腫、血小板減少のいずれかを認めるもの(分娩12週までに正常に戻る場合)

2.妊娠高血圧

  1. 妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、分娩12週までに正常に戻るもので、妊娠高血圧腎症の定義に当てはまらないもの

3.加重型妊娠高血圧腎症

  1. 高血圧が妊娠前か妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に蛋白尿や、基礎疾患のない肝腎機能障害、脳卒中、子癇などの神経学的障害、肺水腫、血小板減少のいずれかを伴うもの
  2. 高血圧と蛋白尿が妊娠前か妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降にいずれかまたは両方の症状が悪化するもの
  3. 蛋白尿のみの腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に高血圧を発症するもの

4.高血圧合併妊娠

  1. 高血圧が妊娠前か妊娠20週までに存在し、加重型妊娠高血圧腎症を発症していないもの

どんな人がなりやすい?

妊娠前から高血圧や腎疾患、糖尿病がある方は特に注意が必要です。妊娠中に病気が悪化する可能性が高いため、必ず医師に病気について伝えておきましょう。

また、肥満、高齢での妊娠(40歳以上)、家族に高血圧の人がいる、双子などの多胎妊娠、初産婦さん、以前に妊娠高血圧症候群になった方はリスクが高くなりますので注意が必要です。これらの条件に当てはまらない場合でも、妊娠高血圧症候群になるリスクはどの妊婦さんにもありますので、定期的に妊婦健診を受けることが重要になります。

予防方法は?

妊娠高血圧症候群の予防方法は、さまざまな方法が試みられてきましたが、有効な予防方法はまだ確立されていません。
自己判断での水分の摂取制限や塩分制限などは、還って状態を悪化させるおそれがあるため、必ず医師に相談するようにしましょう。

一番の予防方法は、決められた日に妊婦健診を確実に受けることです。
妊婦健診を受けることで、尿検査や血圧・体重測定、エコー検査、血液検査などを必要なタイミングで受けることができ、異常の早期発見に繋がります。
妊婦健診を受けないと、気づかずに状態が悪化してしまう危険もあります。必ず妊婦健診を定期的に受けるようにしましょう。

まとめ

妊娠高血圧症候群に明確な予防法はありませんが、定期的な妊婦健診によって早期発見できれば、重症化を防ぐことが可能な病気です。
さらに通常、重症になる前に適切な治療を受け出産を迎えれば、出産後は急速に良くなる病気でもあります。

妊娠中も仕事や家事、育児に追われている方も少なくないかと思いますが、妊婦健診は必ず受けるようにしましょう。異常の早期発見によって早期に治療を受けることができますが、悪化するほど治療の選択肢は狭く、緊急性を要するものとなってしまいます。
妊娠高血圧症候群は急激に悪化するものがありますので、必ず決められた間隔で受診しましょう。さらに、自覚症状がいつもと違うように感じる、胎動が少ないなどの症状があれば、早めに受診するようにしましょう。