ニュースなどで、「マリファナ(大麻)」をはじめとする薬物について耳にしたことがあると思います。日本の法律では、マリファナは違法薬物として使用が禁止され、薬物依存症を起こすことが指摘されています。薬物依存症になるとどんな症状が出るのでしょうか。治療法はあるのでしょうか。

目次

薬物乱用と薬物依存

薬物依存症と聞いて一般の方が思い浮かべるのは、大麻や覚醒剤を始めとする違法薬物の乱用によるものではないでしょうか。薬物乱用と薬物依存症は似たようなものだと考える方もいるかもしれませんが、この2つの言葉の持つ意味合いは異なります。

薬物乱用

薬物乱用は、ルールに反する目的や方法で、薬物を自ら使用してしまうことです。医薬品を医療以外の目的で使用することや、法律で禁じられた薬物を使用することは、たった1回であっても「乱用」となります。1回1錠と定められた薬を何錠も一気に服用したり、未成年が法で禁じられた喫煙・飲酒をしたりすることも乱用に含まれます。

薬物依存症

薬物乱用を繰り返し、その薬をやめることができなくなってしまった「状態」薬物依存症といいます。依存性のある薬物を使い続けているうちに「薬を使いたい」という気持ちが強くなり、自分でコントロールできなくなってしまうのです。

薬物依存症は、好みや習慣などの単純な問題ではなく、国際的に認められた精神障害の一つです。その薬物に対する心と身体の強い執着・依存が起こり、生活全般に影響します。

依存を引き起こす薬物は、違法なものだけではありません。向精神薬や安定剤・睡眠薬など、医師によって合法的に処方されるものも含まれます。医療用の薬であっても、乱用を続けることで薬物依存になる可能性があります。

一度の薬物使用でその薬物に依存することは、基本的にはありません。ただし、何度か薬物を使い続けることで依存症に陥ることがあります。

たとえ「一回だけなら大丈夫」「いつでも辞められる」と思ったとしても、薬物の依存性は強烈であり、抜けられなくなってしまう人が大半です。薬物乱用は薬物依存症を招く危険な行為であり、決して行ってはいけないことなのです。

薬物依存症では、その薬物が無いと生きていけなくなる

薬物依存症には精神的な依存と身体的な依存の2種類がありますが、身体的依存よりも「精神的依存」が問題視されることが多いです。

精神的依存とは?

精神依存とは脳が薬物に依存してしまう状態です。脳が一定の薬物に対する強い渇望を示し、自分の意志ではその欲求をコントロールできない状態になります。

薬物依存症が起きるメカニズムには、脳のA10 神経系(中脳皮質ドーパミン作動性神経系)が関わっているといわれています。A10 神経系が薬物により刺激され活性化すると、ドーパミンという神経伝達物質が放出され、快感を生み出します。この快感を繰り返していると、ある薬物に対し条件反射が起きるようになり依存状態を引き起こします。

身体的依存とは?

身体依存は身体が薬物を常に必要としている状態です。ある薬物が体の中に欠乏すると、身体に異常や不快を示す症状が現れます。これを離脱症状(禁断症状)といいます。

薬物の離脱症状には、頭痛・抑うつ的・不安・不眠・異常な汗・手の震え・幻覚・妄想・意識がもうろうとする・痙攣・嘔気・嘔吐・下痢などの症状が含まれ、患者は非常に苦しい思いをします。

薬物依存症の主な症状

薬を持った男性-写真
薬物依存の症状はその薬物を完全に断つまで続きます。また、一度回復しても何かのきっかけで薬物を使用すると症状が再発します。

薬物依存症に共通する主な症状は、以下の通りです。

  • 感情の起伏が激しく、まるで別人のようになる
  • 薬物に対する強い欲求が湧いてくる
  • 薬物を手に入れようと必死になる
  • 薬物を手に入れるためなら手段を選ばなくなる
  • 薬物の使用量や頻度をコントロールできない
  • 使用する薬物の量がだんだん増えていく
  • 薬物を止めると離脱症状が出る
  • 薬物に関することが生活の中心になり、仕事・家庭・娯楽などに支障をきたす。

薬物中毒の症状がみられることも

「薬物中毒」も、薬物乱用・薬物依存と並んでよく聞く言葉だと思います。薬物中毒には、急性中毒慢性中毒の2種類があります。

  • 急性中毒:依存の有無とは関係なく、薬物を乱用した結果みられる症状です。急性アルコール中毒などがこれに当たります。
  • 慢性中毒:薬物依存症の方がさらに乱用を繰り返した結果、慢性的に生じる症状です。幻覚や妄想のほか、無動機症候群(無気力、集中力・注意力の低下、疲れやすいなど)の症状がみられます。

薬物依存の治療

薬物依存症は慢性疾患と同じ

「精神的依存」の項で説明した通り、薬物依存症が起きるメカニズムには、脳のA10 神経系の関連が考えられています。このA10 神経系は、一度このような異常な状態を引き起こすと元に戻ることはありません。ですから、一度薬物依存症を引き起こした方は、慢性疾患と同様、生涯を通して病気と向き合い続ける必要があります。

薬物を断ち生活を改善することが治療の目標

薬物依存の治療の目標は、薬物を断つことだけでなく、その状態を継続し意義のある生活を送ることです。薬物依存の患者の約半数にうつ病や不安障害などの精神疾患の合併が見られ、薬を断ち回復に向かっている途中に自殺をしてしまうケースが多くあることが指摘されています(日本アルコール・薬物医学会より)。ですから、薬物依存を引き起こす原因となった生活習慣や人間関係・環境・感情や精神的な要因などを改善し、根底にある問題を一つひとつ解決し、生活全体をサポートしていくことが治療の鍵となります。

だれかの助けが必要

薬物を断つための特効薬は存在しません。主な治療方法は物事に対する見方や考えを修正し少しずつ行動の改善を促す認知行動療法です。この療法は、精神科の病院や地域の精神保健福祉センターで受けることができます。また患者同士が集まって話し合う自助グループやリハビリ施設を利用することもできます。治療には、専門家の助けを借り、同じ病気を抱える人同士で支え合うことが大切です。

まとめ

薬物依存症は、きちんと治療すれば回復し、再び有意義な生活を送ることが可能な病気ではあります。しかし、その治療には非常な困難が伴いますし、薬をやめる際に生じる離脱症状もとても辛いものです。

ですから、薬物依存症に繋がる恐れのある薬物乱用は絶対にしないでください。そして万が一、身近な人が薬物依存症かもしれないと思ったら、ためわらずに医療機関や精神保健福祉センター、保健所などに相談してください。