「そろそろ麻薬を使いましょう」と病院の担当医師に言われて、抵抗のある方も多いでしょう。たとえ、がんのひどい痛みがあったとしても、ご本人はもちろん、家族の方たちでもまずためらうものです。それは麻薬というものへの先入観からくるものではないでしょうか。しかし現在、「医療用麻薬」の使用者は急激に増えています。医療用麻薬は、正しく使えば生活の質を落とすことなくがんの痛みや腰痛症などの慢性化した痛みにも対応できる薬です。ここでは、現在の医療用麻薬について詳しく説明していきます。

目次

麻薬とは何?

「麻薬」はもともと法律用語で、「麻薬及び向精神薬取締法」という法律で規制されている物質を指します。

強力な鎮痛・鎮静作用を主作用に、多幸感などをもたらすため、その使用の欲求を自らの意志でコントロールができなくなり(精神依存症)、または使用できない状況になると身体的に異常を生じ(身体依存症)さらに同じ効果を得るための使用量が増えてしまう(薬物耐性)こともあります。

近年、合成や天然物でもアヘンと作用が同様のものすべてを指して「麻薬」と呼ぶようですが、麻薬及び向精神薬取締法によって取り締まりが強化されている「麻薬」と「医療用麻薬」は社会的意味や取扱いが全く違います。

医療用麻薬とは何?

「医療用麻薬」として使われている「麻薬」とは、前述の法律によって取り締まれている「社会的意味」を持つものではなく、厚生労働省医薬食品局がだしているWHO(世界保健機関)方式がん疼痛治療法を活用したガイドラインに沿って適切な量と用法で使われている医薬品です。これらは医師が必要に応じて処方するものであり、国からもその有効性・安全性を確認・承認されています。

医療用麻薬の種類

医療用麻薬にはいくつかの種類があります。医師の指示に従い、効き目や使用量に応じて、これらの薬を使い分けていきます。

ここでは、主なものをいくつかご紹介します。

モルヒネ

錠剤、散剤、内服液、注射、坐剤など、様々な剤形で用いられます。がんの痛みのほか、激しい、心筋梗塞の痛みや手術後の痛みなどがんでない痛みにも用いられます。

主な副作用としては、悪心や嘔吐、便秘、眠気などの症状が出る場合があります。悪心や嘔吐、便秘については、予防のための薬を服用することがあります。眠気の多くは使用を続けるうちに治まってくることがほとんどです。もし、眠気が続く場合は、薬の量を調節したり、薬の種類を変えたりして対応します。

オキシコドン

がんの痛みに対して、錠剤、散剤、注射で用いられます。

モルヒネと同じような副作用がみられます。

フェンタニル

注射、口腔粘膜吸収剤、貼付剤が用いられます。がんの痛みのほか、慢性疼痛に用いられることもあります。悪心や嘔吐、眠気などの副作用はみられますが、モルヒネよりも便秘などの副作用が少ない薬です。

医療用麻薬では、中毒にはならない

痛みがある人が医療用麻薬を使う場合、中毒にはならないと考えられています。ここでは、代表的な医療用麻薬であるモルヒネの働きを例に説明します。

中毒になるかどうかに関係しているのは、ドパミンという脳内の神経伝達物質です。この物質には気分を高ぶらせる効果があり、普段はその放出が抑えられています。痛みのない状態の時にモルヒネを投与すると、このドパミンが大量に放出され、大きな快感が得られます。この状態が長く続くと、中毒になってしまうというわけです。

一方、痛みがある場合は、モルヒネを投与してもドパミンの放出は抑えられたままです。そのため快感は得られず、中毒になってしまうこともありません。痛み止めとしての効果だけが発揮されるのです。

 

医療用麻薬を使っても中毒にならないのは、痛みの症状がある人だけです。したがって、医療用麻薬は必ず医師の指導のもと使うべきであり、他の人に譲ることは許されていません。医師の指示なしでの使用は、法律で禁じられているのです。

医療用麻薬にも「離脱症状」がある

医療用麻薬を長期にわたって服用した後、急に中止すると、下痢や発汗、腹痛、よだれ、あくび、不眠、不安などの離脱症状(退薬症候)がみられることがあります。この症状を防ぐため、医療用麻薬をやめるときには徐々に量を減らしていくことが必要なのです。

医療用麻薬に関する3つの疑問

手を握り合う様子-写真

医療用麻薬に対する誤ったイメージとしてよくきかれるのが、「中毒になる」「寿命が縮む」「末期に使うもの」などといった言葉です。痛みを感じる人が服用した場合は中毒にならないことは上記で解説しましたが、その他の心配についてもみていきましょう。

寿命が縮む?

医療用麻薬を使ったからといって、寿命が縮むことはありません。合わせて、医療用麻薬について「末期に使うもの」と思い込んでいる方もいますが、医療用麻薬を使うのは痛みが生じたからであり、末期だからではありません。

早くから使うと効かなくなるの?

医療用麻薬には、有効限界(効かなくなること)がありません。使っていく中で、「量を増やしましょう」と医師に言われることがあるかもしれませんが、それは薬が効かなくなっているからではなく、痛みの程度に応じて、薬の量を調整しているからなのです。現在は、診断の段階から積極的に使われることが多くなってきています。

副作用があるの?

副作用が全くない薬は存在しません。医療用麻薬も同様で、便秘・悪心や嘔吐・眠気などの副作用が生じることがあります。しかし、医師と相談しつつ、副作用を抑えるための薬を併用することもできるので、それほど心配する必要はないでしょう。

まとめ

医療用麻薬への不安は、麻薬中毒への先入観からきていることがほとんどでしょう。

現在の医療では、痛みのある人が使う場合、ほとんど中毒症状は起きないと考えられています。WHO(世界保健機関)によってガイドラインが作られていますので、それに沿って、国内でも医療用麻薬の使用方法に熟練した医師たちが増えています。安心して治療の選択肢の一つに選ぶことができます。

WHO(世界保健機関)は、「痛みに対応しない医師は倫理的に許されない」とした態度をはっきり示しています。医療用麻薬に対する理解を深め、療養しながらも生き生きとした日常を送っていただきたいと願っています。