赤ちゃんが母親の胎内にいる段階で生じる先天的な異常の一つに、口唇裂(こうしんれつ)・口蓋裂(こうがいれつ)があります。見た目の問題だけでなく、顔の成長や咬み合わせに支障をきたしたり、言葉の明瞭度に影響が出たりすることもあります。その一方で、外科的手段によって適切に治療し、その後の矯正歯科的治療や言葉の評価・訓練などによって改善が見込めるものでもあります。今回は口唇裂・口蓋裂について紹介していきます。

目次

口唇裂・口蓋裂とは

そもそも口唇とは唇(くちびる)、口蓋は口の中の天井にあたる部分のことを指します。口蓋は口の中にあるため、外からは見えません。

この2つの箇所はお母さんのお腹の中において、赤ちゃんの体がかたち作られていく段階で、複数の組織のもとが互いに癒合する(くっついていく)ことによって形成されていきます。その過程で何らかの異常が生じることにより、唇や口蓋の癒合がうまく行われず裂(割れ目)が残ったままになってしまうことがあります。

唇に裂がある状態のことを「口唇裂」と呼び、口蓋に裂がある状態のことを「口蓋裂」と呼びます。なお、口唇裂に伴って歯茎にも裂が存在することがありますが、この歯茎の裂のことは「顎裂」と呼びます。一般的には全ての状態をひとまとめに「口唇口蓋裂」と呼ぶこともありますが、厳密には口蓋裂だけが存在する状態(単独口蓋裂)と、口唇裂・顎裂・口蓋裂が同時に存在する状態(唇顎口蓋裂は別の病態であると考えられています。

口唇口蓋裂裂を持って生まれる赤ちゃんは500人に1人くらいの割合とされています(日本形成外科学会より)。

口唇裂・口蓋裂の原因は?

口唇裂・口蓋裂は多くのものが原因不明であるとされています(日本口腔外科学会 口唇口蓋裂などの先天異常)。現在原因の可能性として考えられているものには、遺伝的素因、妊娠中のアルコールやたばこ、特定の薬物の摂取などをはじめとして多くの因子が挙げられます。

通常はこれらの多くの因子の組み合わせによって、ある一定の基準を超えたときに初めて裂として現れると考えられており、その点では偶然による要素が強いと考えられています。

口唇裂・口蓋裂の分類

選別している人

口唇裂・口蓋裂は先天的に見られる口唇や口蓋の形態異常です。裂け目が見られる場所や状態によって以下のように分類されます。

口唇裂の分類

  • 完全口唇裂…裂け目が鼻まで達しているもの。
  • 不完全口唇裂…裂け目が鼻までは達していないもの。
  • 片側唇裂…片方のみ裂け目があるもの。
  • 両側唇裂…裂け目が左右両側にあるもの。
  • 痕跡唇裂…唇の皮膚に場所によって軽い陥凹(かんおう:へこみ、くぼみのこと)やズレが見られるもの。

口蓋裂の分類

  • 軟硬口蓋裂…硬口蓋(口蓋の前方の骨がある硬い部分)、軟口蓋(後方の骨のない柔らかい部分)ともに裂け目があるもの。
  • 軟口蓋裂…軟口蓋に裂け目があるもの。
  • 口蓋垂裂…口蓋垂(のどちんこ)に裂け目があるもの。
  • 粘膜下口蓋裂…口蓋の粘膜の下の筋肉に裂け目があるもの。

以上のように様々な状態を示し、口唇裂と口蓋裂が同時に起こることもあります。

口唇裂・口蓋裂の症状は?

見た目の問題以外にも、ミルクが吸いにくかったり、食べ物を飲み込みにくかったりする摂食・嚥下障害が起きます。また言葉を発する際に空気が鼻から漏れやすくなるため、構音障害(発音の異常)も起きる可能性があります。

また咬みあわせの状態や上顎の発育に支障を来たしたり、口蓋裂がある場合には滲出性中耳炎を合併する可能性が高いことが知られています。

口唇裂・口蓋裂の治療法

口唇裂・口蓋裂の治療にあたっては、裂の部分に存在すべき筋肉を生理的に再建し、皮膚や粘膜の欠損を塞ぐような外科手術が行われます

口唇裂はおおよそ2~3ヶ月ころから治療が行われることが多いです。また裂の程度によっては複数回の外科的治療が必要になることもあります。裂のタイプによっては、手術までの期間に、上顎の形を整えたり哺乳を行いやすくしたりするための入れ歯のようなプレート(口蓋床)を口蓋に装着しておく場合もあります。

口蓋裂の場合は言葉を話し出す前、特に2語文を話し出す前には手術を行い、言葉の発音に悪い癖(構音障害)がつかないようにする必要があります。

その一方で、早期に口蓋裂の手術を行ってしまうと上顎の発達に影響を及ぼす可能性があります。そのため軟口蓋部分を先に閉じ、就学前ごろに硬口蓋を閉じるという二段階手術を行っている施設も存在します。

また、顔の成長具合を見ながら、状況に応じて修正手術が行われる場合があります。

手術後の取り組み

手術後は言葉を正しく発話・発音できるよう言語聴覚士による経過観察や構音の指導を受けます。構音の状態が思わしくない場合には、より積極的な構音訓練を行ったり、追加の手術を行ったりする場合もあります。

また手術して裂を閉じても、成長に伴って歯並びが悪くなったり、受け口になったりするなどの問題が生じる可能性があります。虫歯にならないように注意し、矯正歯科的な経過観察と治療を受けることが重要です。

まとめ

口唇裂・口蓋裂は先天的な異常ではありますが、多くの場合、見た目だけでなく咬みあわせや発語などの機能もチーム医療によって改善が見込めます。顔面骨の成長は十代後半まで続くため、口唇裂・口蓋裂のチーム医療はそのとき限りではなく長期的に取り組む必要があります。より良い結果が得られるよう、医師とよく相談しながら進めていきましょう。