子育てをしている親御さんにとって、お子さんの具合が悪くなった時に直ぐに病院に行くべきか、それともしばらく家庭で様子を見てもいいのか、判断に迷うことは多いのではないでしょうか。かかりつけの病院が開いている時間ならまだしも、夜間の突発的な体調変化であればなおさらでしょう。

そこで、「お子さんのこんな症状、こんな時。病院に連れて行く?家で様子を見る?」と題し、家でよく遭遇するであろう症状・状況を例に挙げ、親御さんが着目すべき点を2回に分けて概説したいと思います。本記事では前編として、病院に連れて行くべき状況に焦点を当ててみていきましょう。なお、家庭で様子が見ることができる状況については後編をご覧ください。

目次

状況1.「胃腸風邪かな?」

こけて倒れた男の子-写真

大きな病気をしたことのない2歳5ヶ月の男の子。でも今日は朝から少しぐずぐずしていてあまりおもちゃでも遊ばない。夕方には2回ほど嘔吐した。お兄ちゃんが通う幼稚園では胃腸風邪が流行っていて、それをもらったのかな?

A.嘔吐に伴う病気について

急性胃腸炎が流行する時期、特にご兄弟がいるご家庭では感染が拡大することはよく経験されることです。確かに胃腸炎は嘔吐を来たす疾患の代表格ですが、敗血症、髄膜炎、心筋炎など緊急に治療を要する病気の初期症状の場合もあるため(Merck Manual Professional Version_vomiting)、時間経過を追って状況を把握する必要があります。

B.胃腸炎らしいエピソード

それまで元気にしていた子が前触れなく突然嘔吐をするなど、急激な症状出現が胃腸炎らしい発症様式です。嘔吐の瞬間は顔色も悪くなりますが、嘔吐症状がない時には比較的顔色は改善します。ぐったり感も強くありませんし、おもちゃで遊ぶ元気もあります。胃腸炎は、嘔吐が出現したその瞬間がピークのことが多く、時間経過と共に下痢が出現してくることも特徴的です(Merck Manual Professional Version_gastroenteritis)。こうした「胃腸炎らしいエピソード」に当てはまらない時には、胃腸炎以外の疾患を想定した対応を検討する必要があります。

C.注目すべき点

今回の例では、嘔吐を認めた夕方までの間、朝からぐずぐずと調子が悪く、胃腸炎らしい急激な発症様式とは相容れない部分があります。おもちゃで遊びたいという欲求もないほど元気がないことも重篤な病態が隠れている可能性を示唆しており、病院に連れて行くことが推奨されます。

状況2.「泣き止まないけど、何で?」

少し単語を話すようになってきた、1歳3ヶ月の活発な女の子。寝るまでは普段と変わらなかったのに、突然泣いて起きてきた。泣き止んで寝たと思っても、直ぐに泣いて起きてくることを繰り返す。熱もないみたいだし、普段は夜泣きもしないのに。

A.「泣く」という行為について

言葉を上手に話せないお子さんにとって、「泣く」という行為は自分の不調を訴えている可能性があります。抱っこして安心させてあげる、ミルクをあげる、オムツを替えるなどで寝ていくのであれば問題はありません。しかし重篤な病気の初期症状であることもあるため、他覚的に察知できる症状がないかを観察する必要があります。

B.緊急な病気を示唆する症状

言葉を発することが出来ないお子さんの場合は特に、顔色不良、手足の冷たさ、脈の速さ(150回/分以上)、泣いたり寝たりを繰り返す、嘔吐(緑色もしくは血液)、下血、などが緊急性を示唆する症状になります。これらの症状が時間を追って出現することもあるため、お子さんをあやしながら検索することが大切であり、疑わしい症状があれば病院への受診を考慮してください。ちなみに、発熱は夜泣きの原因になりますが、それ以外の症状がなければ緊急性を伴うことは少ないです。

C.注目すべき点

いつもと違って夜泣きをすること自体が、まず第一に注目されるべき点です。「いつもと違うといった親御さんの印象は、本状況に関わらず病気の初期診断にとても重要です。また、泣いたり寝たりを繰り返していることも大切な症状であり、小児科領域では「腸重積」と呼ばれる腸の病気を示唆する重要な所見です。時間が経つと嘔吐をしたり下血を認めたりするようになるため、そういった症状を伴うようになった時には緊急に病院を受診する必要があります(日本小児外科学会)。

「あれ?いつもと違う」もっとも大切なのは、親御さんのその違和感

以上、二つの状況を例に挙げ、緊急に病院を受診するべき状況について見てきました。子供を診療する小児科医は、「Not doing well」という概念と共に日々の診療に当たっています。子供が「何となく元気がない」ことを表現した言葉であり、重篤・重症な疾患が隠れていることを疑うサインです。

この概念自体は何も小児科医だけが感じているものではなく、普段お子さんをよく観察する親御さんも(むしろ親御さんだからこそ)判るものだと思います。「おもちゃで遊ばない」、「食事を食べない」、「何となくいつもと違う」。そうした親御さんの第六感を大切にして、病院を緊急に受診するかどうかを判断するようにしてください。