前編の記事では、家でよく遭遇するであろう症状・状況を例に挙げ、どういったことに注目して緊急に病院に連れて行くべきかどうかを概説しました。「お子さんのこんな症状、こんな時。病院に連れて行く?家で様子を見る?」の後編に当たる本記事では、よくありうる状況を例に取り、家で様子を見ることができる場面について説明します。

目次

状況1.「40℃の発熱。脳に後遺症が!?」

ぬいぐるみを抱きかかえた男の子-写真

1歳3ヶ月の男の子。お風呂から出てやたらぐずぐずすると思ったら、40℃の発熱!それ以外の症状はなくて顔色もさほど悪くはないけれども、脳に後遺症が出ないかが心配。

A.発熱について

小児科を受診する主訴の大多数を発熱が占めています。具体的な原因疾患については関連記事を参照いただきたいのですが、小児においては「体温の程度そのものは必ずしも病気の重症度を反映しない」ことをここでは強調したいと思います。事実、緊急疾患の一つである「敗血症」では高熱になるとは限らず、平熱から逆に体温が低めになることも知られています(敗血症診療ガイドライン)。

発熱を見た時には体温の高さそのものが受診を決定する因子であることは少なく、例えば以下の点に該当するものがないかを検討することが重要です。

  • ぐったり感、活気のなさ、顔色不良(別記事参照)
  • 年齢:生後3ヶ月未満
  • 3日以上持続する発熱:通常の風邪であれば普通は3日程度で解熱します
  • 発熱以外の随伴症状:けいれん、息苦しそうな呼吸様式、下血、持続する腹痛など

B.対応方法

上記に当てはまるものがなければ、解熱剤の使用、脇や鼠径部を氷で冷やすなどの対症療法を行うことで問題ありません。高熱の場合はぐったりすることもありますが、解熱した時におもちゃで遊んだり食事もしっかりとるようであれば、心配いらないことが多いです。

本例では、熱は確かに高いですがそれ以外の随伴症状もなく発熱したばかりです。顔色不良もないようですし、熱そのもので脳にダメージが生じることもないため、自宅で様子を見ても問題ないでしょう。

状況2.「耳が痛い!!」

5歳の女の子。数日前から咳・鼻水が出ていて、かかりつけの先生から風邪薬を処方されていた。本日夜中に突然、「耳が痛い」といって泣いて起きてきた。

A.中耳炎について

小児科の夜間外来には、耳の痛みを主訴に来院される子も多いです。その多くは鼻風邪をきっかけにした中耳炎です(中耳炎関連記事)。症状も突発的ですし痛みで泣き叫ぶ子も多く、親御さんにとってはどうしてあげたらいいのか悩むことも多いようです。

B.対応方法

小児急性中耳炎は、多くの場合抗生物質が必要という訳ではなく、特に軽症例においては鎮痛薬の投与のみで数日間経過を見ることが推奨されています小児急性中耳炎ガイドライン)。夜間の痛みがあった場合においても、救急外来という性格上、抗生物質を数日分処方するということも難しい場合もあります。そのため、夜間突発的な耳の痛みに対しては手持ちの解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)を使用し、翌日かかりつけを受診することで充分対応可能なことがほとんどです。

本例は、鼻風邪を契機にした中耳炎が最も考えられる状況です。確定診断は専門医の診断が必要ですが、本人の症状を緩和することを第一目的として鎮痛剤で様子を見ても問題ないでしょう。

状況3.「ベットから落ちて頭をぶつけたかも!?」

生後5ヶ月の男の子。いつも通りベットに寝かしていたところ、突然寝室から泣き声が。部屋に行ってみると床に落ちて泣いていた。頭をぶつけたかも。あやしたら泣き止んで、いつもと変わった様子はない。

A.頭部外傷

頭をぶつけた(ぶつけたかも)ということで夜間救急を受診するお子さんも非常に多いです。頭部外傷において重要なチェックポイントとしては以下のものが挙げられます(Lancet)。

  • 強い衝撃であった:落下の程度が1m以内なら問題ないことが多い
  • 頭をぶつけた時に泣かず、その後も意識がはっきりしない
  • けいれん、複数回の嘔吐を認める
  • 事故後、いつもと様子が異なる

病院毎によって多少方針は異なりますが、これら項目に該当する場合を除き、基本的には検査をすることなく経過を見ることが多いです。ただ、事故後24時間以内は頭部外傷による影響が生じる可能性は否定できないため、3つ目に挙げた症状が出現しないかの経過観察は必要不可欠です。

B.対応方法

特に生後半年程度のお子さんは、昨日できなかったことが突然今日できるようになるほど成長著しい時期です。そのため、親御さんが安心しきってしまい、本例のような状況もよく遭遇します。事故後泣いたということですし、泣き止んだ後も普段と違った様子はないとのことです。向こう24時間は意識低下、けいれん、嘔吐が出現しないかを注意深く経過観察しつつ、普段通りの生活を送ることで充分だと考えられます。

まとめ

お子さんの病気は突発的なものも多く、病院を受診するかどうかに困惑することも多いです。子供の本業は「遊ぶこと」、「食べること」、「寝ること」の三つにあります。これが満たされていれば基本は大丈夫なことが多いです。またどんな状況でも最も大切なのは、「普段と違わないか」という視点です。お子さんの一番の主治医は親御さんであるため、ぜひこの観点からお子さんの病状を判定してあげてください。