あなたは「性」に関して、取り立てて深刻な悩みはなく、ある程度は満足していますか?性に関する悩みを身近に相談できる相手がいるでしょうか?
性には、「欲求」「快楽」といった一種の贅沢のようなイメージがつきまとい、興味を持つのは恥ずかしいこととしてタブー視されがちです。しかし今、「性の権利(sexual rights)」や「性の健康(sexual health)」、そして「幸福(well-being)の一要素」として、その重要性が見直されつつあります。
そのような中、「性の悩みや問題のない社会へ」というビジョンを掲げ、性の健康を追究する企業があります。それが、株式会社TENGAヘルスケアです。
株式会社TENGAヘルスケアとは
「TENGA」といえば、高い機能性と洗練されたデザインから、多くの人に支持されるアダルトグッズブランドです。開発・製造・販売を行う株式会社TENGA(以下「TENGA社」)は、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンのもと、2005年の設立から10年以上にわたり「性の快楽」を追究してきました。
株式会社TENGAヘルスケア(以下「TENGAヘルスケア」)は、TENGA社の社内ベンチャーから始まり、2016年11月に別会社として設立されました。「性の快楽」をメインに事業展開をしてきたTENGA社とは異なり、「性の健康」や「医療・福祉・教育」をより意識した活動が特徴です。
今回お話を伺ったのは、取締役の佐藤雅信さん、PR担当(TENGA社と兼務)の西野芙美さんです。「性の健康」について、TENGAヘルスケアがどんな課題を見出し、これに対しどんなアプローチをとっているのでしょうか。
タブー視される「性」
「自分の性器にコンプレックスがある」「今までに性行為をしたことがない」「自分は早漏(PE)なんじゃないか」こうした悩みを打ち明けることができる相手が、あなたの身近にはいるでしょうか。
TENGAヘルスケア取締役の佐藤さんは、「マスターベータソン(※)」における記録保持者という経歴を持つなど、TENGA社・TENGAヘルスケアへの入社以前から性に対してオープンな姿勢を貫いてきました。大学時代は障がい者の自立支援活動に携わってきたという佐藤さん、「特に印象に残っているのは、60代ぐらいの女性の方です。(その女性が)今までに(性行為の)経験はないが、欲求はすごくある、という話を聞いて衝撃をうけたんです。」と話します。
これまで「性の健康」は、公の場ではAIDS、梅毒などの性感染症予防や、避妊、堕胎といった文脈の中で語られてきました。これらの話題の中で性が取り上げられるとき、それは「避けるもの」としての意味合いを少なからず帯びています。「有害図書」や「18禁」といった言葉からも読み取れるように、性をタブー視する風潮さえあります。いかに健全で快適な「性」を追究するかという、積極的に「求めるもの」ではありませんでした。
「おもしろおかしく、友達同士でふざけて性の話題を出すことはあっても、真面目なトーンでとなるとまた違うようです。(性に関する悩みは)病院に行くわけにも、友達にはなすわけにもいかず、うちに隠してしまう方も多いのではないでしょうか。きちんとした教育、情報が必要とされています」(佐藤さん)
性は、食事や睡眠に並ぶ人間の基本的欲求のひとつです。性に関する経験は、個人の充足感や幸福との関わりはもちろん、子孫繁栄やパートナーとのコミュニケーションといったあらゆる意義を持っています。本来であれば「性の健康」「性の権利」は、私たちの生活で中心的な役割を果たすもののひとつとして、誰にとっても等しく尊重されるべきなのです。
※マスターベータソン:サンフランシスコのNPO団体The Center For Sex & Cultureが主催するチャリティーイベント。マスターベーションの啓発などを目的とする。
性の悩み、「高齢なのに」と思わず受け入れて
TENGAヘルスケアが実施した「全国男性自慰行為調査2017(オナニー国勢調査)」によれば、60代男性の52.5%が月1回以上の頻度でマスターベーションを行っているそうです。こうした状況を受けてTENGAヘルスケアでは、介護サービス事業を行う株式会社いきいきらいふが運営する高齢者向け介護施設内でTENGAの販売を開始しました。
いきいきらいふでは、直営店一部店舗にてキャバクラツアーを催行しており、男性のお客さまから好評を得ているそうです。
「いきいきらいふの取締役・福住尚将さんから、高齢者といえどもまだまだ心も身体も元気な方はたくさんいる、最近の俳優に詳しい方もいれば、お茶ではなくコーラやカルピスなどのジュースが好きな方もいるんだというお話を聞いて、確かにそうだよなと思ったんです。」と話すのは、PR担当の西野さん。
確かに、美空ひばりが好きで、飲み物には熱い緑茶…といったステレオタイプな高齢者像が全ての方にあてはまるわけではありません。性に関しても同様で、年を重ねても性欲や性に対する興味があることは決して特別なことではなく、マスターベーションやセックスは若者だけのものではないのです。
「始まったばかりの試みですが、そもそもこういった問題があって、問題に目を向けることの必要性を示せたことが、まずは大きな成果」だと、西野さん。「性欲のセルフコントロールができると、自信にもQOL(生活の質)向上にも繋がるということでスタートした取り組みです。マスターベーションは高齢者であっても身近な行為です。そういうものを汚らわしいとか高齢者なのにとか思わずに、受け入れてくれたらと思います。」
誰もが当たり前に持つ性の悩み、性への興味や欲求。それは周囲に発信しづらいだけではなく、自分のものとしても受け入れにくいようです。まずは、自分の性を受け入れることが、性に寛容な社会への第一歩なのかもしれません。
機能もデザインも、妥協しないものづくり
※写真:MEN’S TRANING CUP(メンズトレーニングカップ)シリーズ
こうした現状に対しTENGAヘルスケアでは、正しい情報発信を目的とした講習会や、研究活動、そしてセクシャルウェルネスをサポートする製品開発を行っています。
TENGA製品の特徴といえば、単なるジョークグッズにとどまらない、すぐれた機能とデザインです。TENGAヘルスケアからすでに発売されている製品としては、メンズトレーニングカップがあります。元々、獨協医科大学埼玉医療センター 泌尿器科医師の小堀善友先生によって、TENGAのCUPシリーズを用いた射精障害のリハビリテーションというものが行われていました。それをトレーニングに特化させ、内部構造やゲルの硬度、パッケージ等を見直したのがこの製品です。
メンズトレーニングカップは、清潔なグリーンを基調とした「医療」を連想させるデザインです。「インテリアとして置いても恥ずかしくないものを」というこだわりのもと、まずはかたちや見た目から、ユーザーが受け入れやすい配慮がなされています。
もちろん機能においても、5段階の刺激の強弱が設けられるなど「治療」を意識したつくりになっています。刺激の強いタイプから利用し、少しずつ刺激の段階を落としていくことで、安全で適切なマスターベーションへと促します。
「ただただデザインがいい、あるいは機能はいいけれどダサいといったことはではだめで、両方が兼ね備えたものを目指しています。」(佐藤さん)機能でもデザインでも満足度の高い製品が、ユーザーの性を前向きなものへと導いてくれます。
また、製品化にむけて開発中のものとしては、身体障がい者向けのCUP用カフ(自助具)があります。CUPシリーズの製品に装着することで、握力の弱い方、手を使うことができない方でも、手首にCUPを固定して自力でマスターベーションを行うことが可能です。
CUP用カフは、NPO法人ノアールの熊篠さんや理学療法士の方の協力を得ながらデザインされたそうです。現在はまだ非売品ですが、製品化に向けてモニターを募集しているとのことです(2018年7月9日現在)。(使用を希望する方にはモニターとして製品を渡しているそうです。ご興味のある方はぜひ、こちらのページよりモニターにご応募ください。)
セクシャルウェルネス分野のリーダーに
「医療・福祉」分野の開拓ということで、専門家とのコラボレーションも積極的に行っていきたいというTENGAヘルスケア。TENGA社で10年以上にわたり培ってきたブランド力や発信力、ものづくりのノウハウが、TENGAヘルスケアの強みです。
TENGAヘルスケアの今後の展望について、お二人に伺いました。
佐藤さん「現在のメインである男性の性機能、妊活サポートを基盤に、高齢者や障がい者の方にも、輪を広げていきたいです。セックスレスや高齢者の性、障がい者の性といった、社会が抱える性に関する課題解決への取り組みを発信していくことで、セクシャルウェルネスの分野をリードしていく存在になれたらと思います。」
西野さん「自分の性を何らかのかたちで満たそうとするのは、人間として当然にもっている動機です。そういうものに目を背けるのではなく、健康的に満たしていこうというのが、私たちTENGAグループの立場です。誰もが悩みを打ち明けやすい社会づくりに貢献していきたいです。」
現在は成人男性を中心に多くのファンをもつTENGA。今後はさらに多くの人を巻き込みながら、一人ひとりの「性」が受け入れられる社会、性の悩みや問題のない社会が実現されていくことが期待されます。
編集後記
確かに「性」は人前で話題にすることは憚られる嫌いがあります。性を話題にすることはどこか「恥ずかしいもの」であり、人に対しては隠さなければならないものという印象を、私たちは強く持っています。
しかし、性に対する興味や欲求は誰もが持っているものであり、見て見ぬふりをし続けることで解決する問題ではありません。
私たちの「性」をより良いものへと変えていくために、まずは自分自身の「性」を受け入れ、性への興味や欲求を認めることが、性に寛容な社会への第一歩なのかもしれません。