「障がい者の性の健康」の第四回は、「身体障がい者の性への対応」です。身体障がい者の中には、自身でマスターベーションを行うことが難しい方もいます。最近では、こうした方のための補助用具の開発も進んでいるようです。

また本稿では、「性介護」「マスターベーション介助」というテーマにも、スポットが当てられています。(いしゃまち編集部)

目次

清潔を保つために

身体障がいの中には、自らの手を使って自らのおちんちんの清潔を保てない方々がます。彼らへのサポートが、実は、その方々のマスターベーションをどう考え、どう対応するかといったことにもつながってきます。

「むいて、洗って、また戻す」という清潔操作を、生まれたときから一生続けられる環境をどう確保するかということを、まずは障害にむき合った最初の段階で考えてください。歯を磨く、ひげを剃るといったことと同じレベルの「むいて、洗って、また戻す」というおちんちんの清潔操作の必要性が、実は周知徹底されていません。

マスターベーションを自分で行うために

身体的障がいがなければ、男も女も、他人に見られない環境で自らマスターベーションを行えばいいのですが、特に手に障害がある場合、男は自分のペニスに刺激を与えることができず、マスターベーションができないことになります。そのため「マスターベーションの介助」というと、介助者が自らの手で被介助者のマスターベーションを介助することと考え、抵抗感を覚える人がいます。しかし、マスターベーションの方法は、手を使って行うものだけではありません。

ここでは、身体の清潔の確保の延長線上として、男性のマスターベーションを介助する際に理解しておきたい手順を以下に紹介します。

ペニスの清潔操作を行う

包茎の場合は、包皮をむいて包皮内の亀頭部の清潔を保つ必要があります。包茎ではない場合も亀頭部の清潔を保つ介助が必要です。

射精された精液を回収するためのコンドーム装着

本人も介助者も、射精された精液の処理を考えておく必要があります。ペニスにコンドームを装着し、そのコンドームに入った精液を処理することで、精液の処理に関する抵抗感に配慮できるだけではなく、この後紹介するマスターベーション介助用品の再利用にもつながります。

なお、コンドームを正しく装着しなければ、コンドームのずれ等で違和感が生じる可能性があります。コンドームの正しい着け方については、以下のページを参照してください。

マスターベーション補助用具(TENGA)

従来、マスターベーション時に使用する器具といえば、いわゆるアダルトグッズ店で売られているものだけでした。しかし、TENGAというブランド名で様々なマスターベーショングッズが発売され、特に身体障がい者のマスターベーション環境は各段に改善されたと考えています。

もっとも基本的なグッズは「CUP(カップ)シリーズ」といわれるものです。このシリーズは、滑り感を良くした膣に見立てた「穴」に挿入している感覚が得られることで、自然な感覚での射精が可能となるというコンセプトでつくられた器具です。

使用時にはこのカップ自体を固定しなければならないため、TENGA用カフというカップを固定する自助具も開発されています。コンドームを装着したペニスにカップを装着し、TENGA用カフでカップが固定されていれば、自分自身である程度腰を動かせる人であれば、カップ内でペニスを上下させ、射精に至ることが可能だと考えられます。

もちろん腰を動かすことが難しい人もいます。その方の場合には、「FLIP 0(ZERO) ELECTRONIC VIBRATION(フリップゼロ エレクトロニック バイブレーション)」という器具が有効です。この器具は、装着して介助者にスイッチをONにしてもらうだけで、ペニス(亀頭部)に対する刺激が得られ、射精につなげることが可能です。また、それ以外の方法として「Vacuum Controller(バキュームコントローラー:カップに装着することで吸引を電動で行ってくれる器具)」を使うこともできます。

このように、健常者の間でも広まっているマスターベーショングッズを利用することで、身体障がい者のマスターベーション環境が改善されてきていることは大変喜ばしいことと考えています。

マスターベーション介助に対する考え方

マスターベーション補助具の詳細を紹介したものの、「誰が介助するのか」「他の生活介助のように他者に頼んではいけないのか」という議論が常に繰り返されます。これは本当に難しい問題ですが、皆さんは次のようなケースについてどう思いますか。

  • 一人暮らしの身体障がいの男性。
  • 個人的な性的関係にあるパートナーはなし。
  • 日常生活は何とかいろんなサポートもあり、問題なくやれている。

この方がマスターベーションで困っているときに、ネットを調べていたらホワイトハンズのHPにたどり着き、射精介助サービスを希望されたとしたら、この方法を積極的に支援しますか。もちろんこのHPに記載されているように「利用対象者」に該当する場合です。

おそらく様々な意見、思いが交錯し、「これが正しい」という結論に到達することは難しいと思います。これが「性」が抱える根源的な難しさだと思います。しかし、このことは決して「障がい者」だけの問題ではなく、「健常者」にとってもきちんと考えなければならないことです。

障がい者の性を題材にした映画は、障がいが性や恋愛の障壁にならないことを伝えてくれています。一方で、障がい者の性の権利とセックスワークを取りあげたドキュメンタリー映画「スカーレットロード」が作られたこと自体が、この問題の難しさを表しているといえます。様々な価値観が渦巻くのが「性」であり、決して「健常」や「障がい」ということで分けて考えられる問題ではありません。

編集後記

「性介護」に関してはさまざまな意見があります。岩室先生も述べているとおり結論に到達することは難しいテーマです。今後もなお、議論が重ねられていくべきテーマでしょう。

建設的な議論を重ねるためにも、自分の知っている範囲のことだけで結論を出すのではなく、どんな立場の人がいてどんなことを考えているのかを積極的に知ろうとする姿勢が一人ひとりに求められています。

『性の生きづらさ、性のトラブル、性暴力への対処の考え方』では、性のトラブルへの向き合い方について、岩室先生よりメッセージです。