「え、子供でもうつ病になるの?」と思われる方もいることでしょう。
しかし、大人と同様に、子供でもうつ病になることがあります。実際、子供の2~3%にうつ病が見られ、12歳以降の思春期にあってはその頻度は大人と変わらないという報告があるのです。

ただ、子供の場合では大人と異なり、気持ちや症状を言葉で表現することが苦手です。そのため、周囲の大人が子供の内面的な異常に気づいてあげることが重要で、たとえ子どもであっても、うつ病の疑いがあれば精神科のクリニックや病院を受診すべきなのです。

この記事では、子供のうつ病の症状や考えられる原因、周囲の望ましい対応について説明します。

目次

10歳から、死因トップ3に「自殺」がランクイン

子供の死因として、厚生労働省の平成28年の調査によると0歳~9歳までは先天性奇形や悪性新生物(がん)、不慮の事故が多く見られます。しかし、10歳以降は新たな死因として「自殺」がランクインしています。

世界的に見て、自殺大国と言える日本で、自殺は15歳~39歳で死亡原因のトップですが、10歳から14歳までの死因第2にもすでに「自殺」が入っているのです。

子どもの自殺の原因としては、経済・生活面での問題とうつ病を代表とする精神疾患が明らかになっています。経済・生活面の問題がうつ病を引き起こしていることもあり、うつ病は子供の自殺の原因として中心に位置していると言えます

成人のみならず、子どもの死因としても、うつ病は極めて重大であり、十分に注意を払う必要があるのです。

子供のうつ病ではどんな症状が出る?

子どものうつ病と大人のうつ病の症状の違いですが、先ほど述べた通り、大人と異なり、子供は感情を言葉で表現することが得意ではありません、そのため、症状が行動や身体症状として現れることが多いのです。

まず、気分面ですが,自分を責めたり、悲観的なことを訴えたりすることもありますが、自分の落ち込みをはっきりと言葉として訴えられないことも珍しくありません。
その代わりに、情動不安定となり、涙もろくなったり、イライラしやすくなったりすることがあります

また、意欲面では、勉強に集中できず、成績も低下し、学校に行きたがらず、行ったとしても疲れが目立ってきます。親しい友人関係もおっくうになり、家族に対しても口数が減ってくることがあります。

次に身体面の変化ですが、食欲が落ち、体重が減ってくることがあります。さらに、不眠が見られるほか、寝すぎてしまう過眠が見られることがあります。
なお、大人のうつ病でも見られる自律神経を介した身体症状ですが、便秘、下痢、腹痛、頭痛、肩こり、動悸、胃の不快感、吐き気、めまい、口の渇きといった身体症状が大人よりも目立つことが多いのです。

このように、いつもとは明らかに違った様子が2週間程度続き、本人がその理由についてはっきりと話せないようであれば、学校の担任の先生や養護教諭に相談するか、精神科の受診を考えたほうがいいでしょう。
なお、子供が自分の生活面と心理面の両面にわたり、常に拠り所にせざるを得ない両親だからこそ、時に自分の身に起こった判断が難しい事柄について、話すことをためらうことがあります。
そのため、両親より第3者のほうが、時に子供はその抑え込んでいた内面を話しやすい場合があるのです。

うつ病の原因

うつ病には脳内の神経伝達物質が関わっていると考えられています
脳内には様々な神経伝達物質がありますが、そのうち、感情を調整する働きを持つ主にセロトニンやノルアドレナリンという物質の伝達に異常が起こることが誘因となり、気分に悪影響を与えると考えられています。

そのため、本人の頑張りや心構えだけといった心理的な努力だけでうつ病が改善することはまずありません
また、悪化している気分やいつもと異なる振る舞いを改善するような努力を無理に促すことは、本人の疲労感や無力感を強め、かえって病状をこじらせることになるので、控えるべきでしょう。

子供のうつ病の原因

大人と同じく過度のストレス環境の変化がうつ病発症のきっかけとなることがあります。そして一般的には、大人よりもストレスや環境の変化に子供の方が敏感です。子供に精神的な変調が見られる前に起こっていた環境の変化や、その時期に存在したと考えられるストレスについて、子供がどのように感じていたのか、出来る範囲で穏やかに子供に確認をしてみてもいいでしょう。

子供のうつ病のきっかけとなるストレスになり得る出来事をあげてみます。

進学、転校、受験、引っ越し、対人関係の孤立、いじめ、両親の離婚、大きな事故や災害、重大な犯罪に巻き込まれたり、それを目にすることによって生じる心の傷、すなわち心理的外傷体験(トラウマ)、または重大な身体の病気を患う、といったことがあげられます。

子供の場合でも、1つのストレスだけではなく、ストレスが積み重なった場合や、そのストレスを乗り越えるための支援が得られないことがうつ病になる危険を高めることは大人と同様です。

また、お伝えしたように、自分の気持ちを表現することが苦手な子供ですが、さらに親に気を遣って、自分の辛い気持ちを話さないで我慢する、ということは実は珍しいことではありません。親が同居する家族として自分と同じ環境の変化やストレスに耐えていることを、子供はよくわかっていることがあるのです。ですので、明らかに子供の心理的負担が急激に強まっていると思われる状況子供が沈黙を守り続ける場合には、「大丈夫?」と時には声をかけてあげることも大切でしょう

うつ病の子どもへの対応は?

うつ病になってしまった子供、もしくはうつ病が疑われる子供に対する大人の望ましい接し方についてお伝えします。

つらい気持ちを聞いてあげる

まずは子供の本当の気持ちを聞くことが大きな支援になります。
時にいら立ちをぶつけられることもあるかもしれませんが、穏やかに受け止めてあげてください。その時は子供が正直に気持ちを話してくれたことに感謝し、その感情を否定せず、共感することが大切です。
その上で、その気持ちの中にあってすら、何とか日常生活に取り組んできたことを、いたわってあげてください。

大切に思っていることを伝える

うつ病の子供は自己否定感が強いものです。家族にとって、その子が大切な存在であることを改めてはっきりと伝えてあげましょう。

病気についての理解を共有する

診断を受けているのであれば、誰でもかかる病気であり、時間はかかっても、治療をすれば良くなるということ、焦りと無理はかえって調子を崩すという理解を子供と共有しましょう。

診断は受けておらず、うつ病が疑わしい段階であれば、子供さんの疲れの度合いを確かめ、必要であれば学校も休ませるなど、無理をしないように勧めてください。

治療につなげるために

子供のうつ病を疑った場合、学校の担任の先生や養護教諭に相談するか、子供を診てくれる精神科のクリニックや病院などに受診を検討しましょう。
子供が精神科への受診に抵抗を示す場合には、まずは家族だけでも接し方や受診の促し方について精神科に相談にいくことも一法でしょう。

うつ病が重度であり、強い希死念慮(死んでしまいたいと思う気持ち)が見られる場合など、緊急の場合を除いては、受診にあたっても当事者である子供の気持ちを尊重することが大切です。

最後に

子供のうつ病、と聞くと稀なものという印象を抱くかもしれません。しかし、自分から訴えてこないことが多い子供のうつ病は周囲から気づかれないことが少なくないのです。うつ病になった子供たちは、大人と同様に、自殺に至ってしまうことがあり、十分に配慮を要します。

お子さんの様子がいつもと異なり、活気が病的に乏しい、または、わけもなく涙ぐんだり、怒りっぽくなったりする情動不安定な様子がある、あるいは身体の病気がないのに、頭痛や腹痛、極端な食欲不振などの身体症状が見られる場合には注意が必要です。それらの状態や症状が2週間以上も続く時には、うつ病の可能性を考えたほうがいいでしょう。