ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)は、「組織球症」と呼ばれる病気の一つです。

患者さんの数も少なく、めずらしい病気ですが、組織球症はLCH以外にもたくさんの種類があります。その中には、LCHと似た症状が生じるものや、LCHとは異なり大人に多くみられる病気などもあります。

今回は、国立成育医療研究センター 小児がんセンターの坂本 謙一先生に、「LCHの仲間の病気」についてご執筆いただきました。(いしゃまち編集部)

目次

前回までは、ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)について解説を行ってきました。今回は、LCHの仲間の病気である若年性黄色肉芽腫症(JXG)、ローザイ・ドルフマン病(Rosai-Dorfman disease, RDD)、エルドハイム・チェスター病(Erdheim-Chester disease, ECD)について紹介したいと思います。

LCHも含めてこれらは全て「組織球症」(Histiocytosis)という疾患で、血液の中でも組織球と呼ばれる、マクロファージ樹状細胞単球由来の細胞が、体じゅうの様々な臓器で増えてしまう病気です。

組織球症とは

昔は「LCH」「LCH以外」とに分けられていましたが、時代は進み、血液検査や画像評価、病理検査などによる診断技術の発展に加え、遺伝子解析研究の進歩によって、今や100もの仲間があることがわかっています。大きくは5つのグループに分けられるのですが、LCHと今回解説するECD、RDD、そして全身性のJXGには、なんと(!)全てMAPK経路の遺伝子変異(森本哲先生の「『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)の正体は何?」を見てね)が関わっていることがわかってきました。

どれもとてもまれな病気で、わからないことがまだまだたくさんありますが、最近の話題を紹介したいと思います。

1.若年性黄色肉芽腫症(Juvenile Xanthogranuloma; JXG)

若年性黄色肉芽腫(JXG)の皮疹

「若年性」−「黄色」−「肉芽腫症」(JXG)は名前の通り、「子どもに多い」、「黄色の肉芽腫(できもの)」が皮膚や体の中にできる病気です。

JXGのこどもたちの大半は、黄色から褐色の結節(ぷくっと飛び出た発疹)が赤ちゃんのころにでてきて、1-2歳までは数が増えたり一つひとつが大きくなったりします。結節は1個のこともあれば、50個以上のこともあります。ときには一つが2㎝を超えて大きくなり、中央がじくじくしたりすることもあります。

たいていは、何もしなくても次第にしぼんで平坦になっていき、色も淡くなって、5歳頃までにはどれもきれいに消えていきます(大きくてとても困るものは、切除することもあります)。皮膚以外に症状がなくて、自然に消えていくタイプのJXGは、薬による治療を必要とするものではないので心配はありません。

その一方で、皮膚だけでなく体のあちこちの臓器に結節(肉芽腫)ができることが稀にあります(このようなタイプを全身性黄色肉芽腫症と呼びます)。全身性黄色肉芽腫症は初めてのお誕生日を迎える前のこども(1歳未満)に多く、新生児にも起こることがあります。生まれたての新生児では、紫色の少し盛り上がった丘疹(まるでブルーベリーマフィン!)が皮膚にたくさんできることがあります。

ときには皮膚には何も症状がなく、脳や内臓にだけ、という例もあります。肝臓の中に結節ができると肝臓が腫れたり、肺にできると呼吸がしんどかったり、目にできると片目だけが赤くなって視力に影響を及ぼしたり、頭の中にできると痙攣したり、といろいろな症状を起こします。皮膚のみのJXGと違って、全身性黄色肉芽腫症に対してはステロイドや抗がん剤を使った治療(LCHに行う治療と似た治療)を行う必要があります。

JXGは皮膚の発疹が診断のきっかけになることが多いので、あせもや水いぼかな?と、まずは皮膚科に行くことが多いと思います。皮膚科の先生に「黄色肉芽腫かも」と言われたら、小児科の先生の診察も受けていただくと安心です。

2.ローザイ・ドルフマン病(Rosai-Dorfman disease; RDD)

RDDは、1969年にJuan RosaiさんとRonald Dorfmanさんが発見した病気です(珍しい病気の名前は、はじめに見つけた人の名前がつくことが多いですね)。20歳前後の大人に起こることが多い病気で、「首のリンパ節が腫れた=首にゴリゴリしたできものを触れる」といって受診されることが多くみられます。それだけでなく、皮膚の発疹や、骨、肝臓、脾臓、心臓、肺、腎臓、頭の中など体のさまざまな場所にできものを作ることがあります。

また、RDDに特徴的な所見として、自己免疫性疾患と呼ばれる自分の体を敵と思って攻撃して壊してしまう病気やほかのがんが一緒に出てくることがあります。

このように、RDDの症状は症例ごとにだいぶ異なり、治療法も多岐にわたります。自然に治ってしまうものから、ステロイド、更には抗がん剤や分子標的薬などを用いた治療、手術や放射線照射が必要となるものまでさまざまで、現時点では定まったものはありません。成人の場合は血液内科、こどもであれば小児血液腫瘍の専門医と、症例毎に適した治療を検討していきます。

3.エルドハイム・チェスター病(Erdheim-Chester disease; ECD)

ECDは、1930年にJacob ErdheimさんとWilliam Chesterさんが発見した病気です(やっぱり珍しい病気の名前は、はじめに見つけた人の名前がつくことが多いですね)。

50-70才前後の大人に多い病気で、小児の報告はとても稀です。LCHの病変部位と似ており、骨に病気が起こることが多くみられます。ただし、あちこちの骨が溶けるLCHとは様子が大きく異なり、左右対称に手足の骨が異常に硬くなってしまう所見(骨硬化)を認めるのがECDの特徴です。

骨の痛みのほか、脳の中や臓器に病変をきたして、さまざまな症状を呈します。また、胸部や後腹膜という位置に存在する大血管や腎臓などが、まるで卵の殻のように広く固く取り囲まれてしまい、臓器の障害へと進行します。また、ECDでは、LCHの一部の症例でみられる尿崩症(おしっこがいっぱいでてしまう病気)が約20%の患者さんに起こるとされています。

治療としては、化学療法をはじめ、組織球の活動やサイトカインを抑えるさまざまな薬剤が試されてきました。ECDはLCHと同様に、半数以上の症例においてBRAF遺伝子変異が認められることから、最近ではBRAF/MEK阻害剤という分子標的薬の効果が期待されており、海外で治験が行われています。しかし、薬を中止すると多くの症例はすぐに再発してしまうことがわかり、適切な治療法の登場にはまだ時間がかかりそうです。

ECDでは骨の症状(足、腕、腰などの痛みやしびれ)が多く、まずは整形外科にかかることが多いかもしれません。また全身に病気ができるので、さまざまな診療科を受診されると思います。でも、ECDと診断された場合には、大人の場合は血液内科、こどもの場合は小児血液腫瘍専門医による診療が必要です。

4.悪性組織球症

とても稀な病態で、がん化した組織球による悪性度の高い肉腫がんが含まれます。組織球肉腫は、悪性リンパ腫などの別の血液がんに関連して生ずることがあります。

5.血球貪食症候群

活発になったマクロファージが異常に増えて、正常な血液細胞を細胞内に活発に取り込みながら炎症性サイトカインを出し続ける現象です。マクロファージが正常な血液細胞をパクパク食べてしまうので、白血球・赤血球・血小板が少なくなります。また、高熱が続き、臓器障害をきたすことがあります。

先天性・遺伝性のこともありますが、ウイルス感染症やリンパ腫などの他の病気が原因となるものが多く、日本では感染症に伴うもの、特にEBウイルスに伴う血球貪食症候群が多いのが特徴です。

治療はステロイドに加えて、免疫抑制剤であるシクロスポリンや、抗がん剤の一つであるエトポシドを使うことがあります。

おわりに

LCHの仲間の病気

今回主にとりあげた、全身性のJXG、RDD、ECDの3つはどれも稀な疾患ですが、組織球(Histiocyte)の病気であるという点で、LCHと似ている所見がたくさんみられます。

病気の原因や治療方法についての研究は日々すすんでおり、今後、新しい話題がたくさん出てくると思われます。年齢に応じて、血液腫瘍専門の小児科、または血液内科の主治医の先生とよく相談しながら治療をすすめていっていただけたらと思います。