暑さのピークは超えましたが、9月になってもまだまだ食中毒の危険はなくなりません。8月から10月は細菌による食中毒の多い時期です。生モノの摂取など、気を付けていたつもりでもかかってしまった場合にはどのように対処したらよいのでしょうか。一言で食中毒と言っても原因によって対処方法は様々です。ここではごく一般的な食中毒の治療方法についてお示しします。

目次

食中毒とは

食中毒の原因は大きく細菌そのものによる場合と細菌の毒素によるものとがあります。そのほかウイルスによるもの、自然毒によるもの、化学物質、寄生虫などがあります。症状は原因によって異なります。

主な症状

嘔吐下痢が主なものです。そのほか腹痛や発熱がみられることもあります。

特殊な症状

出血:腸管出血性大腸菌O-157など

呼吸停止:ふぐ毒、ボツリヌス毒素などの神経毒

どのような処置を行うか

症状が軽い吐き気程度、腹痛が無い、便が少しゆるいなど比較的症状の軽い場合には脱水に注意して経過をみてもよいでしょう。ビオフェルミンやミヤリサンなどの市販の整腸剤を服用してみるのもよいでしょう。下痢止めはかえって悪化させることもあるので、安易な服用は避けましょう。

症状がよくならない、悪化する、以下の「受診すべき時」のような症状がみられたら病院を受診しましょう。

すぐに受診すべき時

診断

嘔吐がひどく水も飲めない

脱水の危険性があります。受診して点滴等の処置を受けましょう。特に幼児や高齢者では容易に脱水状態になるので早めの受診が必要です。

吐血

食中毒自体で吐血することは多くないと考えますが、頻回の嘔吐により食道が裂けるマロリーワイス症候群を引き起こすこともあります。

便に血液が混ざる

出血を伴うような場合には入院治療を要することが多いので直ちに受診しましょう。癌などの重大な疾患が隠れている可能性もあります。

腹痛がある

特に歩くと響く、お腹を押した時よりも放した時に響いて痛いなどの症状は腹膜炎のように強い炎症を起こしている危険性があるので、直ちに受診しましょう。

息が苦しい

ボツリヌス毒素やフグ毒では神経伝達が障害され、呼吸筋が動かなくなり呼吸が停止します。症状が出た時に本人は対処不能な状態の可能性が高いですが、周りの方で気付いたら直ちに救急車を要請しましょう。人工呼吸器を必要とします。

受診した場合の検査と治療の流れ

治療

治療は症状の程度によっても異なります。重要なのは問診です。食中毒の原因を推測するには食事の内容が重要です。

稀ですが、後になって「実は○○を食べていました」と言われる方もいます。後ろめたさがあるのかもしれませんが、治療の決め手となる可能性もあるのでできるだけ早く伝えてほしいと思っています。

問診内容

食事の内容(変わったものを摂っていないか)

特に生もの(刺身や生の肉類)を摂ったかどうかが重要です。

食事の時期

最も症状の発現が早いのは黄色ブドウ球菌の毒素によるものです。肝炎ウイルスなどでは1か月前など潜伏期間の長いものも存在します。鳥わさなど鶏の生肉により感染することの多いカンピロバクターなどでは、潜伏期間が1週間程度となることもあります。

旅行歴、海外渡航歴

特定の地域特に海外に多い菌などが存在します。

飼育しているペット

ペットに付いている菌が食品につくことがあります。

同じ食事をした人たちの状況

原因を推測するのに役立ちます。

調理者の状況

手に傷がある状態で調理をすると、傷の中の黄色ブドウ球菌による食中毒が発生する危険性が高くなります。もし分かるようであれば伝えておくと医師の診断の助けとなり治療方法の決定に有用です。

症状の程度

水分を摂れるのか否か。食事がとれるのか否か。便回数。便の色。出血の有無。腹痛の程度。症状の経過。など

検査

問診などから症状が推測され、程度によって血液検査、腹部のレントゲン検査(立った状態と仰向けに寝た状態の2種類を撮影されることが多いです:これは腸に穴が開いていたり腸閉塞の状態になっていたりしないかの確認の為です)が行われます。強い腹痛があり腹膜炎の症状が疑われるような場合には、より詳細に炎症の程度を把握するために腹部のCT検査が行われることもあります。

便培養の検査や、下痢の程度によっては便中の毒素の検査が行われることもあります。

治療

症状と検査結果の総合判断によって外来で経過をみるか、入院となるかが決定します。

外来治療となった場合には抗生物質、制吐剤、整腸剤が処方されることが多いでしょう。下痢止めはかえって症状を悪化させることがあるので症状などその時の状況によって判断されます。

水分もとれないほどに吐く、吐き気がある場合には点滴により脱水の治療が行われます。

入院の場合には禁食となり、点滴が行われます。抗生物質の投与は症状によって判断されます。細菌の種類によっては抗生物質の投与が状態をさらに悪化させる危険性が懸念されているものもあり、やみくもに抗生物質を投与するのは危険を伴います。ただし、便の培養結果が出るには数週間を要するため、これを待っていては治療が遅れてしまいます。そのため抗生物質投与の判断は経験に基づいて行われることになります。

さいごに

食中毒はいろいろな原因によってなることがあります。多くは適切な治療により治りますが、ひどい場合には致命的となることもあります。多くの菌は加熱によって死滅するので特に生肉は食べないなどの予防が重要です。残念ながらかかってしまった場合には適切に、迅速に対応しましょう。