膵臓がんは「治療が難しいがん」として知られていますが、早期に診断して適切な治療を受けることで治癒する可能性があります。

膵臓がんの治療には、手術による切除、化学療法(抗がん剤)、放射線治療がありますが、根治(完全に治癒すること)の可能性があるのは切除だけです。

しかし、膵臓がんの手術は比較的体への負担(侵襲)が大きく、また術後の合併症も多いことで知られています。

今回は膵臓がんの手術に関して、知っておきたいことを解説します。

目次

膵臓がんの手術適応

膵臓がんの患者さんのうち、次の条件を満たす場合に外科切除の適応となります。

  • 遠隔転移(肝臓など遠くの臓器への転移)がない
  • がんが重要な動脈(上腸間膜動脈および腹腔動脈)に浸潤していない
  • 麻酔や手術に耐えられるだけの全身機能が保たれている(心臓や肺の機能が悪い患者さんでは手術ができないことがあります)

膵臓がんの手術

膵臓がんに対する手術の基本は、腫瘍を含む膵臓だけでなく、周囲の組織やリンパ節を含めた広い範囲での切除です。

膵臓は、右側(十二指腸側)から頭部、体部、尾部と3つの部位に分類されますが、がんがどこにあるかによって手術の方法が変わります。

頭部のがんに対しては、膵頭十二指腸切除が行われます。この手術では、膵臓に加え、十二指腸(場合によっては胃の一部)、胆のう、及び胆管の一部を切除します。

一方、体部および尾部のがんに対しては、脾臓(ひぞう)を含めて切除する膵体尾部切除が行われます。

このうち、膵体尾部切除では膵臓を切除するだけで終わりますが、膵頭十二指腸切除では再建(消化管の繋ぎ直し)が必要となりますので複雑になり、より合併症が多くなります。

これ以外にも、膵臓を全部取ってしまう膵全摘術が行われることもあります。

膵臓がんの術後合併症

膵臓がんの術後には、色々な合併症が起こる可能性があります。多くは適切な処置で回復しますが、なかには命に関わるような重大なものもあります。以下、膵臓がんの手術後にみられる代表的な合併症について説明します。

膵液ろう

膵臓を切った端(または残った膵臓の表面)から膵液が漏れるという合併症で、膵頭十二指腸切除術では約10~20%、膵体尾部切除では20~30%に起こると報告されています。

膵液は強力な消化液であるため、お腹の中に漏れた場合には周りの組織や血管を消化してしまいます。このため、溶けた組織に細菌が感染して腹腔内膿瘍という膿(うみ)の溜まりができたり、動脈が破れて大出血が起きたりすることがあります。このように、膵液ろうは時として命を脅かすことさえある大変危険な合併症です。

縫合不全(ほうごうふぜん)

膵頭十二指腸の場合、膵臓と腸(あるいは胃)を繋ぐ以外に、胆管と腸、胃(あるいは十二指腸)と腸を繋ぎます。しかし、様々な原因でうまく繋がらず、これらの繋ぎ目から腸液が漏れることがあり、これを縫合不全といいます。

糖尿病などの合併症のある患者さん、栄養状態の悪い患者さん、あるいはステロイドという薬を長期に内服している患者さんでは組織の治る力が弱く、縫合不全が多いと言われています。

腸閉塞

膵臓の手術に限らず、手術のあとに腸が癒着(ゆちゃく)しますが、この癒着が原因で腸の通過が悪くなることがあります。これを腸閉塞といいます。術後しばらく経ってから起こることもあるため、吐き気や便秘が続く場合には注意が必要です。

糖尿病

膵臓を切除することで、膵臓の内分泌機能(インスリンなどのホルモンを分泌して血糖値をコントロールする機能)が低下することがあります。このため、術後に糖尿病を発症したり、もともと糖尿病があった患者さんでは悪化したりすることがあります。したがって、膵臓がんの術後には定期的に血糖値など糖尿病の検査を行う必要があります。

栄養失調

膵臓がんの術後には、食事の量が減ったり、消化吸収の障害が起こったりすることがあり、栄養失調(低タンパク血症や貧血)となる場合があります。この場合、食事指導や消化酵素の内服によって対応します。

手術症例数と術後合併症

このように、様々な術後の合併症が問題となる膵臓がんの手術ですが、どの病院で受けても結果は同じなのでしょうか?

実は、病院(または医師)の膵臓がん手術の経験が多いか少ないかによって、合併症の発生率に差があることが多くの研究から明らかとなりました

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例えばアメリカの研究では、手術例数の多い施設と少ない施設と比べると、合併症による在院死亡率(入院中に死亡する率)が、膵頭十二指腸切除で4.78倍、膵体尾部切除で3.84倍もの差があったとのことです。

このような研究結果を受け、日本のガイドラインにも、「膵頭十二指腸切除など膵がんに対する外科切除術では、手術症例数が一定以上ある専門医のいる施設では合併症が少ない傾向があり、合併症発生時の管理も優れている」と記載されています。

したがって、膵臓がんの手術を受ける場合には、ある程度の手術経験(明確な基準はありませんが、一般的には膵臓がんの手術が年間20例以上)がある病院のほうが、より安全であると考えられます

ちなみに、病院別の膵臓がんに対する手術例数は、こちらのサイト(病院別 膵臓がんの治療実績)から確認できます。

膵臓がん術後の補助療法

膵臓がんは、たとえ切除ができたとしても再発・転移することが多いため、(半年から1年間、あるいはそれ以上)術後に抗がん剤治療を追加することが一般的です。これを術後補助化学療法といいます。

また、定期的に腫瘍マーカーやCTなどの検査によって再発の有無をチェックする必要があります。

まとめ

  • 遠隔転移がなく、大血管への浸潤のない膵臓がんに対して外科切除が行われます。
  • 膵臓がんの手術には、膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術などがあります。
  • 術後の合併症として、膵液ろう、縫合不全、腸閉塞、糖尿病などがあります。
  • 手術症例数の多い施設(病院)では、合併症が少ない傾向にあります。
  • 術後に抗がん剤による補助療法を行うことが一般的で、定期的に再発のチェックが必要です。