一昔前、膵臓がんは比較的稀な病気といわれていました。実際、20年くらい前(私が研修医だった頃)には膵臓がんの患者さんは少なかった印象があります。
しかし、膵臓がんの患者は年々増加傾向にあり、日本における死亡者数は2013年には年間3万人を突破しました。この増加の原因ははっきりしていませんが、食生活の欧米化が一因ではないかといわれています。
膵臓がん患者の5年生存率(治療開始から5年後に生存している人の割合)は10%以下で、消化器がんのなかでも最も予後が悪いがんといわれています。膵臓がんの治療が難しい理由として、症状が出にくいために進行した状態で見つかること、周りの臓器や血管に広がったり、血管を経由して遠くの臓器に転移したりしやすいこと、また一般的に抗がん剤や放射線などの治療効果が低いことが挙げられます。
膵臓がんを治癒させる唯一の治療法は外科切除です。しかし、実際には約8割の患者さんは切除手術ができないほど進行した状態で見つかります。したがって、膵臓がんの危険因子(どのような人がなりやすいか)を知っておき、できるだけ早い段階(できれば症状が出る前)に検査を受けることが必要です。
今回、どんな人が膵臓がんになりやすいかについて解説し、専門機関を受診するタイミングについてお話しします。
膵臓がんの危険因子
多くの研究により、様々な膵臓がんの危険因子が明らかとなってきました。
膵臓がんの危険因子には、家族歴(家族に膵臓がんの人がいること)、合併疾患(糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵のうほう、肥満)、嗜好(喫煙、大量飲酒)があります。
膵臓がんの危険因子
家族歴 | 膵がん |
遺伝性膵がん症候群 | |
合併疾患 | 糖尿病 |
慢性膵炎 | |
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN) | |
膵囊胞(のうほう) | |
肥満 | |
嗜好 | 喫煙 |
大量飲酒 |
科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2013年版より引用
以下、家族歴、合併疾患、嗜好に分けて詳しく説明します。
1.家族歴
多くのがんは遺伝とは関係なく発症しますが、中には親から子へ遺伝するもの(遺伝性がん)もあります。詳しい調査の結果、5~10%の膵臓がんは遺伝によって発症することが明らかとなり、これを「家族性膵がん」といいます。
家族性膵がんの厳密な定義は、「親子または兄弟姉妹に2人以上の膵臓がん患者さんのいる家系の方に発症する膵臓がん」とされています。
アメリカからの報告によると、親子兄弟に膵臓がんの患者さんが2人いる場合にはリスクが6倍、3人いる場合にはなんと30倍以上にもなるとのことです。
親や兄弟姉妹に膵臓がんの人が2人以上いる場合には、ぜひ検査を受けることをおすすめします。なお、日本でも膵臓がんの家族歴の重要性が認識され、日本膵臓学会による家族性膵がん登録制度が開始となっています。
2.合併疾患
糖尿病
糖尿病の患者さんは、膵臓がんを発症するリスクが約2倍になるといわれています。
その理由として、膵臓がんの発症に糖尿病の患者さんでみられる高インスリン血症が関係しているとの報告があります。
また、肥満(体格指数(BMI:ボディマスインデックス)が30kg/m2以上)はそれ自体が膵臓がんの危険因子とされていますが、糖尿病における膵臓がんの発症リスクをさらに増加すると報告されています。
さらに、膵臓がんと診断された患者のうち、25~50%が診断後1~3年以内に糖尿病を発症していることがわかっています。
したがって、今まで糖尿病など言われたことがなかった人が、いきなり糖尿病と診断された場合には特に注意が必要です。
慢性膵炎
慢性膵炎の患者さんの膵臓がん発生率は一般人口に比べて13倍も高いといわれています。
したがって、慢性膵炎と診断された方は、症状が安定していても定期的な膵臓がんのチェックを受けたほうがよいでしょう。
また、比較的まれですが、若い人に発症する遺伝性膵炎も膵臓がんの危険因子として知られています。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵のうほう
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とは、膵臓にできるのうほう性(ふくろ状)の腫瘍の一つで、良性から悪性まで幅広い腫瘍です。CTなどの検査ではぶどうの房のようにみえるのが特徴で、内部にねばねばとした液体(粘液)を含んでいます。
膵管内乳頭粘液性腫瘍および膵のうほうは、膵臓がんの前がん病変として慎重な経過観察が勧められています。
例えば膵管内乳頭粘液性腫瘍の約20~30%では、それ自体がゆっくりとがんに進行することがあり、また5~10%では膵管内乳頭粘液性腫瘍とは別の場所に膵臓がんが合併することがあります。
さらに、膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断されない膵のうほうについても、膵臓がんの高リスク群として慎重な経過観察が必要だといわれています。
検診の超音波(エコー)検査などで膵臓にのうほう(ふくろ状の病変)があると言われた場合、定期的(半年から1年に1回程度)に膵臓がんの検査を受けることをお勧めします。
3.嗜好
喫煙
喫煙は、肺がんをはじめ色々ながんの危険因子として知られていますが、喫煙が膵臓がんのリスクを増加させることも分かっています。
喫煙による膵臓がんの発症リスクの増加は、吸わない人に比べて2~4倍といわれています。
また、禁煙後10年以上経っても膵臓がん発症のリスクは高いため、注意が必要です。
アルコール
1日3ドリンク(純アルコール量30g=焼酎(度数25%)コップ1杯程度)以上摂取するアルコールの多量飲酒者では、膵臓がんのリスクが1.2倍増加したという報告があり、相関はあまり強くはありませんが大量飲酒は膵臓がんの危険因子であると考えられます。
まとめ
膵臓がんになりやすい人をまとめます。
- 家族(親や兄弟姉妹)に膵臓がんの方が2人以上いる人
- 糖尿病の患者さんで、最近(2年以内)発症した人、あるいは体重減少や血糖コントロールの悪化が見られた人
- 慢性膵炎の患者さん(若い方では特に)
- 膵管内乳頭粘液性腫瘍あるいは膵のうほうがあると言われた人
- 喫煙(禁煙した人も含めて)や大量飲酒の習慣のある人
重要なのは、上記の危険因子が複数個(2個以上)ある場合には、特に膵臓がんのリスクが増加するということです。そのため、専門機関(消化器内科あるいは消化器外科)の受診をお勧めします。