精神科医が教える認知症~進行する前に気づきたい、その症状とは」では、認知症にみられる様々な症状について説明しました。こちらの記事では、受診したらどのような診察・治療が行われるのかを解説します。

目次

診察

まずは問診にてどのような症状がいつ頃からあったのかなどを尋ねます。この時、記憶障害が強ければ本人からの聴取には限界がありますし、記憶障害が軽度であったとしても上記の通り患者さんが取り繕ってうまく話を合わせる人もいます。そのため現在の状況を把握されている家族の方が必ず診察に付き添ってください。本人と家族、両者からの情報をもとにして診断の判断材料とします。

症状のほかに以下のような情報も聞かれると思います。

  • 学歴、職歴、結婚歴、家族歴、家族構成、同居人の有無
  • 既往歴、現在治療している病気、今飲んでいる薬
  • 飲酒、喫煙などの生活習慣
  • 日常生活動作能力 歩行能力、活動圏、着替え、摂食、排せつはどの程度できるか
  • 精神状態 家事はどれくらいやるか、関心はあるか、会話はどの程度できるか

これらの情報は、受診される前に一度ご家族でまとめてみることをお勧めします。診察がスムーズに行くことに加えて、診察室で急に聞かれても答えられなかったり、終わってから「あ、言うのを忘れていた」みたいなことが良くありますので、言い忘れを減らす意味でも受診前に症状をまとめてみてください。

そして、医者は話をしているだけではなく次のようなことを観察しています。

表情はどうか、会話のテンポはどうか

表情の動きや、会話がゆっくりとなる、などの特徴がみられることがあります。

診察室に入ってきた時の歩き方はどうか

歩行障害をきたすタイプの認知症があるためチェックします。

化粧をしているか、白髪染めにむらはないか

失行、無関心などを確認します。

家族が話をしているとき遮ったりしないか

取り繕い、興奮などの有無を確認します。

普段の生活の時と診察中の今との間に違いはあるか

取り繕いの有無などを確認します。

本人並びに家族からの情報、診察中の本人の様子などをもとに認知症かどうか、認知症であるならばどのタイプの認知症かをイメージします。そして診断をより正確にするために次のような検査を行います。

知能検査

記憶や計算などの検査を行い、どの程度の認知機能か、どの能力が落ちているか、を判断します。一般的には改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-Rミニメンタルステート検査(MMSEなどで評価します。

いずれの検査も数分で行える簡単な検査で、30点満点で20点未満では認知症が疑われるとされています。比較的有名な検査であり、簡単にできるため、たまに自宅で練習してくる家族がいますが、それはやめてください。検査そのものを学習してしまうと、正確な判定ができなくなります。

画像検査

CTMRIで脳の形を見ます。全体的に萎縮しているか、他の部位と比べて萎縮が目立つ部位はないか、脳梗塞、脳腫瘍などないか、正常圧水頭症ではないかといったことを確認します。

他にSPECT検査といって放射性同位元素を用いて脳の血流を確認する検査もあります。

CTに関しては比較的多くの施設で行うことができます。MRI、SPECTに関しては診断をより正確にする、というメリットがある一方で、検査を行える施設が限られる、検査費用も安くないというデメリットもあります。

血液検査>

ビタミン欠乏症、甲状腺機能低下症などでも認知症は起こります。一般的な項目で肝臓や腎臓、血糖、脂質など身体の状態を大まかに確認することに加えて、ビタミン欠乏、甲状腺機能などを確認します。

心電図>

認知症に良く用いられる薬の副作用で、脈に異常をきたすことがあります。薬を使用する前に心臓の状態を確認します。

これらの検査は行えるところばかりではありませんし、必ず行わなければいけない検査ではありません。ですが、これらの検査結果があるほうが、より正確に認知症のタイプを診断できます。

治療

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認知症というのは進行していく病気であり、元の状態に戻すことはできません(一部治療可能な認知症もあります)。そのため、治療の目的としては患者本人が自分らしく安らかに過ごすこと介護者の負担を減らすことです。治療は大きく分ければ薬物療法非薬物療法の二つです。

薬物療法

認知症に対して効果があるとされる抗認知症薬ですが、アルツハイマー型認知症以外の認知症性疾患に対して有効性は確認されておらず(アリセプトのみレビー小体型認知症に対しての適応が通っています)、使用することができません。また、症状の進行を遅らせる効果は確認されていますが、認知症を治し回復させるものではありません。

「全く変わらないです、早く治してください」と家族から言われることが多いですが、医療者からしてみれば「全く変わらない」というのは進行を遅らせることができている、と解釈し、経過は悪くないと判断することが多いです。

また、認知症の行動・心理症状である幻覚や興奮、不安、不眠などに対して薬物治療を行わざるを得ないこともあります。行わざるを得ないと書いたのは、これらの症状に対して薬物療法を行うことは相応のリスクがあるからです。幻覚や興奮に対して抗精神病薬と言われる薬が一般的に用いられます。しかし抗精神病薬を使用すると死亡率がおよそ1.7倍に増加すると言われています。また、不安や不眠に対して安定剤や睡眠薬を用いられますが、これらの薬の副作用としてふらつきがあります。高齢であり、ただでさえ足元がおぼつかないのに加え、薬の副作用でふらつきが強まりますと、転んで足の骨を折ってしまいそのまま寝たきりになるケースや、打ち所が悪ければ死んでしまうこともあります。やむを得ない時には様々なリスクを承知したうえで薬を使うことがありますが、薬以上に安心を与えられるような環境調整が大事です。そこで重要となってくるのが非薬物療法です。

非薬物療法

認知症患者さんは日常生活の至る所で不安にさいなまれます。初期の物忘れでは「なんかおかしい」という自覚があり、不安が高まります。また、自宅にいるにも関わらず、見当識障害から自宅であると認識できない場合、本人にしてみれば「良く知らない場所」で過ごしていることになり、やはり不安が高まります。幻覚や妄想があればなおさら不安になります。そのため本人が安心して暮らせるような環境調整が重要です。一番重要なのは家族全員のサポートでしょう。何度も同じことを聞かれると、どうしても面倒くさくなります。時には無視をしたり、怒ったりということもあるかもしれません。「ここは私の家ではない」「通帳が盗られた」などと繰り返し言われたら頭ごなしに否定してしまうこともあるでしょう。しかし、そのような対応をしてしまえば、本人の不安は更に強まってしまいます。本人の言い分をよく聞き、否定することなく寄り添ってあげ、安心感が得られるよう接していきましょう

また、今ある能力を維持するということも大事です。日中自宅で何をするでもなくボーっと過ごされる方が多くいらっしゃいますが、何もしないでいると、できることができなくなり、どんどん自宅にこもりがちとなります。大半の時間をうとうととしてしまい、夜眠れなくなります。そして次の日また日中にうとうととしてしまい、更に夜眠れなくなります。

このような悪循環に陥らないためにも日中の過ごし方が重要です。洗濯物を畳む、米を炊く、などのできる家事があれば役割を与えてあげましょう。自宅でやることもなく過ごしているようであれば、介護サービスの利用をお勧めします。デイサービスなどでは様々な活動を通して頭に刺激を与えます。

また、四六時中自宅にいると介護者は疲弊してしまいます。介護者のゆとりがなくなってしまえば、良い介護もできなくなります。独りで抱え込まないという意味でも、早期から介護サービスを利用しましょう。主治医、もしくは市町村の窓口で相談してください。

介護度などが認定されると、ケアマネージャーがつきます。使える介護サービスなどケアプランを作成してくれるので、今どのような状態なのか、どのサービスを利用したいかなどケアマネージャーと相談しましょう。なかにはデイサービスなどに行きたがらない方もいらっしゃいます。本人が行きたがらなくても、デイサービスのスタッフの方は上手に誘導してくれます。何度か行くうちに慣れてくるでしょう。

いずれにせよ、慣れるのに時間はかかります。症状が重くなってからでは家族のみならず介護スタッフの負担も増えてしまいます。早めに相談することをお勧めします。

認知症の予防

青魚や亜麻仁油などに含まれているDHA(ドコサヘキサエン)、EPA(エイコサペンタエン酸)などのオメガ3脂肪酸も認知症予防が期待できるという研究報告がいくつか出ています。しかし現在のところ、科学的根拠に基づいた予防法というのは確立されていません。結局のところ規則正しい生活、適切な食事、定期的な運動というところが一番予防効果を期待できるのかもしれません。脳血管性認知症に関していえば、脳梗塞や脳出血が原因で起こる認知症であり、これらの原因となりうる高血圧や糖尿病などの生活習慣病にならないというのが一番の予防法でしょう。

まだ先の話ではありますが、アルツハイマー型認知症の発症を予防するワクチンの開発が進んでいます。無事に研究が進むことを祈りたいですね。