赤ちゃんの頭が大きくなる病気として、水頭症というものを耳にしたことがあると思います。この水頭症とはなぜ起こるのでしょうか?また、赤ちゃんが水頭症になった場合、後遺症や発達への影響はあるのでしょうか?赤ちゃん(乳児)の水頭症について詳しく解説します。

目次

水頭症とは?

人間の脳には、左右に一対ある側脳室、正中にある第3脳室と第4脳室の計4つの脳室があります。脳脊髄液(髄液)はこの脳室で作られ、脳全体を保護する役割や脳圧のコントロール、脳の老廃物の排泄、栄養やホルモンの運搬などの役割があります。髄液の吸収の過程には明らかになっていない部分もありますが、脳の表面を循環した髄液は、脳の毛細血管や、頭頂部にあるくも膜顆粒という組織により吸収され静脈(静脈洞)に入るとされています。

脳髄液の流-図解

水頭症とはこの髄液の産生、循環、吸収の中で起こるなんらかの異常によって、脳室が正常以上に大きくなった状態を指します。髄液の産生、循環、吸収の異常を引き起こす病気は多くあり、先天性の異常腫瘍感染症外傷などさまざまです。原因が不明のものもあり、乳児だけでなくどの年代にも起こりうる症状です。

水頭症の原因と分類

4つの脳室はそれぞれの間が繋がっており、脳の表面のくも膜下腔(くも膜と脳の間)とも繋がっています。この脳室の経路のどこかで髄液の流れがブロックされている場合を非交通性水頭症(または閉塞性水頭症)、流れは問題ないがくも膜顆粒での髄液の吸収障害など、産生・吸収のバランスが崩れている場合を交通性水頭症といい、大きく分類されています。

乳児に多い水頭症

乳児の水頭症には非交通性水頭症が多く、中でも最も頻度の高いものは中脳水道狭窄症です。中脳水道狭窄症とは、第3脳室と第4脳室をつなぐ中脳水道という細い通路が、先天性に狭窄もしくは閉塞している状態のことです。

どの年代にも起こる水頭症

炎症出血により、脳表のくも膜下腔が癒着して閉塞したり、くも膜顆粒の機能が障害されて髄液の吸収ができなくなることでも水頭症は起こります。髄膜炎くも膜下出血を起こした後に起こる水頭症は乳児だけでなく、どの年代にも起こります。

水頭症の症状とは?

水頭症、特に閉塞性水頭症は、脳圧(脳脊髄圧または頭蓋内圧とも言います)が高くなったことによって起こる頭痛嘔吐がおもな症状です。しかし、乳児の場合、自分で症状を伝えることはできず、さらに脳を覆う頭蓋骨が成長過程にあることによる特有の症状が見られます。

頭囲が大きくなる

頭蓋骨はいくつかの骨が組み合わさってできており、生まれてしばらくの間は骨同士の結合も弱く、骨と骨の間に泉門(せんもん)と呼ばれる空間もあります。この時期に水頭症になると、脳圧が高くなることによって頭蓋骨が外側に押されて頭が大きくなります。泉門は、通常は柔らかく押すとへこみますが、これが硬く膨らんでくることがあります。乳幼児期以降は頭蓋骨の結合がしっかりしてくるため、頭が大きくなることはありません。

頭皮の静脈が膨らむ

脳圧が高くなると頭皮の静脈が怒張し、膨らんで見えます。

黒目が下方に動く

眼球が下方に不随意に動き、黒目の下半分が下まぶたにかかり、白目が目立つ落陽現象と呼ばれる症状がおこることがあります。

周囲の刺激に対して敏感になり、すぐ泣く、イライラする/意識がボーっとしている、反応が鈍くなる

乳児は頭痛や嘔気などの症状をはっきりと自覚して伝えることができません。このため、いつもとは違う泣き方や表情、様子などに注意しておくことが必要です。

水頭症の診断

特徴的な症状が見られる場合は、頭部のCTやMRIなどの検査が行われます。これらの検査で多くの場合は原因となった病気が分かりますが、先天性の脳の形態異常(奇形)に合併した水頭症では、原因を明らかにできないことも少なくありません。

では、出産前に水頭症を診断することはできるのでしょうか?最近では経腟超音波検査や胎児MRI検査で脳内の詳細な診断がつく場合が増え、先天性の水頭症の約55%は胎内診断されています(日本産婦人科医会)。

脳室の拡大が認められる場合には、脳室拡大だけが起こっているものか、他の異常(頭蓋骨や脳の奇形、心臓など他臓器、染色体異常を疑わせる所見)を伴うものかによって予後も異なります。しかし、胎児の神経予後についてはまだまだ未知な部分も多く、形態の異常の程度がそのまま予後につながるわけでもありません。生まれた後にどのような治療が可能かを含めて、産婦人科医に充分に相談しておきましょう。

水頭症の治療

水頭症の治療では、過剰に溜まってしまう髄液を減らすなど、調整するための手術が行われます。

シャント手術

シャントとは短絡近道という意味で、シャント手術は脳で過剰になった髄液を身体の別の場所で吸収させるよう、管をつなぐ手術です。もっとも一般的に行われているシャント手術は、脳室とお腹を結ぶ術式で、脳室腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt)略してVPシャントと呼ばれています。

しかし、シャントは一度作ってしまえば生涯使えるかといえば、そうではありません。なんらかの理由でシャントが詰まってしまい髄液の排出が悪くなるシャント閉塞や、髄液の流れがうまく調節できず流れ過ぎてしまうことによって起こるスリット状脳室などの合併症が高頻度に起こります。こうした合併症が起こると、再び水頭症の症状がみられるようになり、再手術を含め何らかの対処が必要になります。

内視鏡的第三脳室底開窓術

シャント手術は水頭症の治療に大きな効果をもたらしてきましたが、「いつ詰まってしまうかわからない」という大きな問題があります。近年急速に広まってきた内視鏡的脳室底開窓術は、頭蓋骨に小さな穴を開け、そこから内視鏡で覗きながら第三脳室の底に穴をあけ、脳室内に貯まった髄液を脳表に流れるようにする手術です。バイパスを通過した髄液は正常な経路に入り吸収されていき、シャントチューブを留置する必要はありません。しかし、この手術で効果があるのは非交通性水頭症に限られており、医療機関によって異なりますが、手術可能な年齢の条件もあります。

水頭症の予後と発達への影響

指をくわえた赤ちゃん-写真
脳の器質的な異常(奇形)や脳障害などの合併がない場合は、早期にシャント手術などの治療が行われることによって、後遺症もなく正常な発達を遂げることが期待されます。しかし、こうした合併がある場合の予後はさまざまで、髄膜炎や頭蓋内出血、高度の脳奇形に合併する水頭症では、知能の遅れや身体の麻痺などの後遺症を残すことがあります。

まとめ

水頭症はさまざまな脳の疾患によって起こる症状で、乳児の場合は先天的な異常のほか、髄膜炎や脳出血などによって起こるものもあります。水頭症の原因によって治療法は異なりますが、乳児の水頭症は早期に発見し、治療を行うことで後遺症を残さずに経過するケースもあります。気になる症状がある場合は、小児科医や脳神経外科医に早めに相談しましょう

また、水頭症は乳児だけの症状ではありません。くも膜下出血や脳出血に伴うもののほかにも、高齢者に発症しやすい水頭症もあります