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2012年で認知症患者数は、認知症予備軍とされる軽度認知障害(MCI)を含めると800万人以上と推計されました。65歳以上の4人に1が認知症、もしくは軽度認知障害ということになります。超高齢化社会の進行に歯止めがかけられない状態にある日本で、認知症は誰もが避けては通れないものであります。認知症は早期に治療を開始することで症状を和らげたり、進行を緩やかにしたりすることはできます。しかし、ただの老化と区別が難しく、症状が進行するまで気付かれないことも多いです。今回は認知症を疑うためのポイントを挙げてみたいと思います。

認知症、その症状は

認知症とは、元来できていたことができなくなり、社会生活に支障をきたすような状態をいいます。また、認知症の原因となる疾患は様々あり、代表的なところで言えばアルツハイマー型認知症レビー小体型認知症脳血管型認知症などが挙げられます。

認知症の症状というと物忘れはイメージしやすいかもしれません。しかし、認知症の症状は物忘れだけではありません。記憶障害(物忘れ)、見当識障害(日時、場所が分からなくなる)、遂行機能障害(できていたことができなくなる)といった脳の異常によって直接引き起こされる中核症状と、幻覚妄想抑うつ無関心興奮不安など中核症状に本人の性格や環境、周囲との関係性などが複雑に絡んで生じる行動・心理症状があります。中核症状と行動・心理症状を合わせて認知症症状といいます。具体的には以下のような状態であれば認知症を疑います。

記憶障害

 

同じことを何度も繰り返して言う

古いことは覚えているけど新しいことが覚えられないという特徴があります。今言ったという事実を覚えていないため、何度も何度も同じことを繰り返し言います。

教えても思い出せない

出来事の詳細を忘れるのではなく、出来事そのものを忘れてしまいます。昨日の晩御飯に何食べました?と聞かれて答えに窮することは誰にでもあります。でも食べたことは忘れていないでしょう。しかし認知症では食べた内容どころか、食べたという事実すら忘れてしまいます。

取り繕う

初期の段階であればいくらか物忘れの自覚があることもあります。その場合周囲に物忘れを悟られないようにしようと取り繕いが見られます。上記のように教えても思い出せないので話を合わせようと取り繕いますが、見当違いなことを言ったり、ただ笑って誤魔化したりといったことをします。ご近所との交流程度であれば全く問題なく行え、認知症とは微塵も疑われないような人もいます。

薬の管理ができなくなる

飲むことを忘れていたり、逆に飲んだことを忘れて1日何回も飲んでしまったりと薬の管理ができなくなります。

見当識障害

 

季節に合わない格好をする

日付が分からない程度であれば誰でも経験はあると思いますが、認知症では日付どころか季節が分からなくなることがあります

落ち着かず歩き回る

本来落ち着くべき場所である自宅にいるにも関わらず、自宅という認識ができなくなってしまい、落ち着かず歩き回る、「自分の家に帰る」と言い自宅から出ていこうとするといった言動がみられることがあります。

遂行機能障害

 

料理の段取りが悪くなる

野菜を切る、煮物を煮る、炒めものを作るなど一個一個の行動はできるものの、順序立てて一連の流れで行うことができなくなります。一つ一つ作ったりするため、コース料理のように一品ずつ出てきて、すべての料理が出てくるのに時間がかかったり、また、調味料を入れる順番もおかしくなり、味が変わることもあります。後片付けや掃除など段取りが悪くなることが生活の中で目立つようになります。

幻視

 

いないはずの人と話をしている

誰もいないのに「お客が来ているから」と言いお茶を出したり、会話をしたりといった言動が見られます。レビー小体型認知症によく見られる症状の一つとして幻視があります。死んだはずの配偶者や、遠くに住んでいる孫などがぼんやりとではなくはっきりと見えるようです。

頭を抱える初老男性

妄想

 

(大事なものが)盗られたと言う

通帳や財布、印鑑など大事なものをしまうのですが、どこにしまったかはもちろんのこと、しまった事実すら忘れてしまい、盗まれたという解釈をしてしまうことがよくみられます。配偶者やお嫁さんなど身近な人が泥棒のターゲットになりやすいです。その他配偶者が浮気をしていると確信してしまう、といった妄想もよくみられます。

抑うつ

 

ボーっとしてふさぎがちになることが多くなる

何をするわけでもなくただボーっとするようになります。認知症の初期症状として抑うつが見られる人がいます。

 

無関心

 

身なりを気にしなくなる

あらゆることに関心を示さなくなり、近所付き合い、化粧を施す、風呂に入るといったことをしなくなります。

この症状があるためうつ病と誤解されることも多いです。うつ病の意欲低下の場合ですと意欲が出ないことに本人が苦しみます。しかし認知症の無関心ではこの症状に本人は苦しまないことが多いです。

興奮

 

怒りやすくなった

脳の機能低下から感情を抑えることができなくなります。しかし、理由もなく興奮するわけではありません。周囲には理解してもらえない、など本人なりに理由があっての興奮です。

このような症状がみられたときには認知症の可能性が疑われます。かかりつけの医師地域包括支援センターに相談してみてください。適切な専門機関を紹介してもらえるでしょう。しかし「ボケてきたから病院に行きましょう」と言われて素直に受診される方ばかりではありません。

でも、決して無理強いはしないでください。病人扱いされたことでプライドが傷つけられてしまい、本人の受診意欲を余計に削いでしまいます。物忘れのことは一切触れずに「専門の先生にいろいろ診てもらいましょうか」などと言って連れていく、かかりつけの医者や地域包括支援センターの相談員に勧めてもらうなどしてみてください。

頑として受診を拒むような場合であれば、まず家族のみで相談されるというやりかたを取っているところもあります。

今回は、認知症の様々な症状について解説しました。

精神科医が教える認知症~病院で行う診察と治療とは」では、実際に病院を受診してからの診察・治療の流れについて説明します。