多くの飲み薬は、水または白湯で服用することを前提として作られています。しかし、飲まなければいけない薬が多かったり、透析患者さんなど水分の摂取量を制限されている方にとっては、たくさんの薬を水で飲むのは大変なことですよね。

近年、この問題を解決するための薬の開発が進められてきました。本記事では、服用しやすい工夫がされている「口腔内崩壊錠」「チュアブル錠」「舌下錠」「バッカル錠」という4種類の剤形と、それぞれのメリット・デメリットとをご紹介します。

目次

口腔内崩壊錠(OD錠)

口腔内崩壊錠は、文字通り口の中でさっと崩れ、水がなくても飲める錠剤のことです。「Orally Disintegrating Tablet(口の中で崩壊する錠剤)」の頭文字を取り、OD錠と呼ばれます。唾液程度の水分でも溶けるため、水を口に含むことができない方も服用することができます。最近は市販薬でも、急な症状の時に水なしで飲める下痢止めなどが販売されています。

注意していただきたいのは、口の中で溶けるからといって、成分が口の中の粘膜から吸収されるわけではないという点です。吸収はあくまで消化管で行われるため、錠が崩壊した後は、唾液または水で飲み込むようにしてください。

メリット

上記の通り、唾液や少量の水で溶けるため、小さなお子さんや高齢者など、飲み込む力が弱い患者さんでも飲みやすいのが最大の特長です(ただし、寝たままの状態だと水なしでの服用はできないものもあるので注意してください)。加えて、透析患者さんや心臓・肺の病気で水分を制限している方寝る前に水を飲むのを控えたい方、認知症などで固形の薬を異物と感じて吐き出してしまいやすい方など、様々な方の負担を減らすことができます。手元に水がないときでも手軽に服用することができ、飲みやすいように味付けされているものが多いのも特徴的です。

口腔内崩壊錠であっても、通常の錠剤と同じ商品名の薬であれば同じ効果が得られます。

デメリット

口腔内崩壊錠は、口の中で溶けやすいように作られているという性質上、普通の錠剤と比べて壊れやすいという欠点があります。また、湿気を含んでしまうので、管理には注意が必要です。

あわせて、口の中が渇いていた場合などに薬の成分が口の中に留まってしまい、それが原因で口内炎が生じることがあります。

※市販薬ではフィルムタイプのものも

OD錠のうち、市販薬の多くはフィルムタイプという剤形です。フィルムシート状になった薬を、唾液で溶かして服用します。水なしでの服用が可能ですが、飲み方を誤ると食道に貼り付いてしまう場合があります。お子さんや高齢者が服用する際には、十分に気をつけてください。

チュアブル錠(咀嚼錠)

噛み砕き、唾液で溶かして服用できる錠剤です。口腔内崩壊錠とは違い、一度噛み砕いてから唾液で溶かします(そのままでは溶けにくいものが多いです)。

メリット

口腔内崩壊錠と同じように、唾液や少量の水だけでの服用が可能であるため、飲み込みに不安のある方水分の制限が必要な方に適しています。また、成分量が多いために大きくなっている錠剤でも、噛み砕くことで飲みやすくなります。

デメリット

こちらも口腔内崩壊錠と同様、壊れやすい、湿気を含みやすいといった欠点があります。加えて、チュアブル錠の中には一部、噛まずに服用すると効果を得られないものがあり、その場合は他の薬と同時に服用することができなくなります。

舌下錠(ぜっかじょう)

舌の下に薬を置き、そのまま有効成分を「舌の下」の粘膜から吸収させるタイプの剤形です。飲み込んだり、噛み砕いたりする必要はなく、唾液だけでも2分以内に崩壊します。

狭心症発作など、急速な効果が必要とされる症状に用いることが多いです。

メリット

速やかに吸収されるため、効果の発現も非常に速いのが特長です。また、口腔粘膜から血液中に入るため、内服薬が受ける肝臓での分解を受けないですみます。

デメリット

口腔粘膜に問題がある場合、吸収がうまくいかないことがあります。また、噛み砕いたり飲み込んでしまったりすると、効果が現れるのが遅くなるだけでなく、効果自体が得られなくなってしまう場合もあります。服用の際は、正しい方法をきちんと理解しておくことが必要です。

バッカル錠

口の中の粘膜から有効成分をゆっくりと吸収させる錠剤です。舌下錠と似ていますが、大きな違いは効き方がゆっくりである点です。錠剤を歯茎と頬の粘膜の間(バッカル部位)に挟み、飲み込んだり噛み砕いたりせずに唾液で溶かしていきます。炎症を止める酵素や、ステロイドホルモン剤などがあります。

メリット

舌下錠と同様に、口腔粘膜から血液中に入るため、内服薬が受ける肝臓での分解を受けないですみます。

デメリット

舌下錠よりも間違って飲み込みやすいといわれます。飲み込んでしまうと効果が期待できない場合もあるので、正しい服用法を理解しておく必要があるでしょう。

まとめ

薬を飲みやすくするための工夫は、様々に研究されています。今回紹介した4つの薬はどれも、水をうまく飲むことができない患者さんでも服用できるという点が特徴的です。剤形ごとの特性を正しく理解して、用法・用量を守りつつ、薬と付き合っていきましょう。