「沈黙の臓器」と呼ばれるほど予備能(1/5程切り取られても再生する機能や、生きていくために必要な機能の3~4倍の機能を有していること)が発達している肝臓、もし病気にかかっていても自覚症状が現れず、わからないまま重症化してしまうことがあります。これに対して、肝臓の病気の一つである、肝炎の検査を無料で行っている保健所や医療機関があることはご存知でしょうか?肝炎は早期に発見・治療を行うと、肝硬変や肝がんへの重症化を防ぐことができる病気です。今回は肝炎と肝炎ウイルスの検査についてまとめました。
肝炎(ウイルス)とは
肝炎とは
肝臓の細胞に炎症が起こり、肝細胞が壊される病気のことを肝炎といいます。肝細胞が壊されることにより、肝臓の機能が低下していき、最終的に肝硬変や肝がんとなってしまうことがあります。肝炎の原因としては、ウイルス・アルコール・自己免疫など様々なものが存在します。
急性と慢性の違い
肝炎には、急性肝炎と慢性肝炎という二種類があります。
急性肝炎
一過性のものであるので通常抗ウイルス剤を使用せず、自然に体外へウイルスが排出されるのを待ちます。三段階に重症度が分けられており、通常型・重症肝炎・劇症肝炎となっています。
通常は治癒しますが、症状が悪化し、劇症肝炎というひどい肝炎を発症してしまった方は、肝臓移植治療が必要になる場合や、最悪死亡する例もあります。
急性肝炎は、A型肝炎ウイルスまたはB型肝炎ウイルスの感染によるものが多いです。この他、C、D、E型肝炎ウイルスへの感染によって生じることもあります。
慢性肝炎
一方慢性肝炎は、基本的に肝炎ウイルスを完全に体外排除することができません。抗ウイルス療法などを行うことにより、炎症を抑えながら肝硬変や肝がんへの悪化を防ぎます。
慢性肝炎は、B型肝炎ウイルスまたはC型肝炎ウイルスへの感染、あるいは薬物によるものが多くみられます。
肝炎ウイルスとは
肝炎ウイルスの型には、A,B,C,D,Eの5種類のウイルスが存在します。これら5種類のウイルスが肝臓に感染すると、ウイルス性肝炎を引き起こします。
以下、各ウイルスの特徴について簡単に解説します。
- A型肝炎ウイルス:便による経口感染が多くみられます。感染者の汚物がついたオムツや、未処理の下水に汚染された貝類などが感染源となることがあります。症状が出ない場合も多いですが、急性肝炎の症状がみられることもあります。
- B型肝炎ウイルス:体液を通じて感染します。性交渉や、注射針の共有などが原因となり得ます。
- C型肝炎ウイルス:最も多くみられる感染経路は、注射針の共有によるものです。初めは症状が出ないこともありますが、多くは慢性化し、肝硬変・肝がんへ進行する場合もあります。
- D型肝炎ウイルス:違法薬物を注射するための針の共有による感染が多くみられます。B型肝炎ウイルスと同時に感染した場合にのみ発症します。
- E型肝炎ウイルス:便による経口感染が多くみられます。このほか、シカやイノシシなどのジビエ料理からの感染も知られています。慢性肝炎になることはありませんが、妊娠中の方では特に重い症状が起こります。
このうち、日本ではB型とC型肝炎が多く、肝炎ウイルスに感染している人は40歳以上の人が9割を占めているとされています(肝炎ウイルス検査マップ)。
潜伏期間は通常3週間~8週間、B型・C型は長いと6ヶ月になることもあります。
B型は急性肝炎になることが多く、C型は慢性肝炎になることが多いとされています。
どんな症状?
肝炎の症状としては、主に
などが起こります。しかし無症状のこともあるため、実際は検査してみないと分からないという部分があります。知らないうちに症状が進み、肝硬変や肝がんになっていたということもあるそうです。
急性肝炎であれば数週間で上記の症状は自然と治まるとされています。
ウイルスによる肝細胞の破壊から、肝機能が低下しているのに応じて、肝臓の解毒機能も低下します。解毒機能低下により、昼夜逆転・せん妄(意識・注意・知覚の障害が出てくることで、症状としては会話量の低下や不穏徘徊、運動活動量の増加・低下などがある)・傾眠傾向(完全に眠っているわけではないがうとうとしており、呼びかけると開眼する)・昏睡といった症状が出てくることもあります。
検査を受けた方がいい条件は?
- これまでB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス検査を受けたことがない
- ご家族にB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染している方がいる、または肺がんの方がいる
- 健康診断の血液検査で肝機能検査(AST・ALT)の値の異常を指摘されたが、その後病院などの医療機関を受診していない
- 母子感染予防が行われていなかった1985年(昭和60年)以前に生まれている
- 輸血や大きな手術を受けた
- 入れ墨(タトゥー)を入れた、医療機関以外でピアスの穴を開けたことがある
以上の項目に当てはまることがある方は、是非ウイルス性肝炎の検査を受けてみてはいかがでしょうか。受ける時期としては感染したと思われる時期から3か月以上経過したときであれば正しい検査結果が得られるとされています。
上記に当てはまらない方も、ウイルス性肝炎はどこで感染しているか分からない病気ですので、ウイルス性肝炎の検査を受けることをお勧めします。
検査では何をするの?
肝炎かどうかは、採血検査で判断されます。検査にかかる時間は採血のみなので、短時間で終わります。その結果は、1~数週間後に知らされます。
検査を受けることのできる場所としては、市町村の自治体が委託する医療機関と保健所の検診、ほとんどの病院と保健所が検査に対応しています。検査の日程や手続きなどは自治体ごとに異なるので、お住まいの地域の保健所などにお問い合わせください。
さらに、現在B型・C型肝炎ウイルス検査は、無料で受けることができる医療機関もあります。各自治体が提供している保健所や医療機関については厚生労働省|各自治体の「肝炎ウイルス検査」についての取り組みをご参照ください。
上記のように、国が力を入れて検査を行っている肝炎ウイルスですが、肝炎ウイルス検査の認知度としてはそこまで高くない現状があります。
肝炎ウイルス検査の認知度について6403人に調査したところ、知っているが34.8%、知らないが60.6%となっています(都民の健康と医療に関する実態と意識の結果)。
ウイルス性肝炎の検査が行われているとご存知の方は半分以下となっていました。肝炎という単語は聞き覚えがあっても、検査については聞いたことがないという方もいらっしゃるでしょう。
さらに肝炎ウイルス検査の受診をしたことがある人は回答数の26.3パーセント(都民の健康と医療に関する実態と意識の結果)となっていました。6割程度の方が受けたことがないと出ています。このように認知度の低い結果となっていますが、手軽に受けることのできる重要な内臓についての検査であるので、受けた方がよいでしょう。
ウイルスの感染経路
A・E型は水や食べ物を、B・C・D型は血液・体液を介して感染します。
具体的に、B型は、主に入れ墨(タトゥー)等の針の使い回し・覚せい剤の注射の回し打ち・性的接触などにより感染します。
C型であると、輸血や血液製剤の投与・臓器移植・適切な消毒をしない器具を使用しての医療行為・民間療法・入れ墨(タトゥー)・ピアスの穴あけ・覚せい剤や麻薬の注射器の回し打ち・感染者とのカミソリや歯ブラシの共用で感染する可能性があります。しかしC型の半数の方の感染元は不明となっています。
感染を防ぐためには
B型肝炎ウイルスは、ワクチン接種により予防できますが、C型肝炎ウイルスに対する予防ワクチンは現在ありません。どちらの肝炎も他者の血液や体液からの感染が起こるものなので、歯ブラシ・かみそりといった血液が付着するものを共用しない、もし血液に触れる機会があればゴム手袋を着ける、注射器や注射針の使いまわしをしないといったことが予防に繋がります。
現在、上記で述べたようにC型肝炎に予防ワクチンはありません。しかし特効薬が出てきているので、感染した場合も治療をすれば良くなる可能性が高いです。
まとめ
自覚症状が余り起こらず、感染しているか分かりにくいウイルス性肝炎ですが、放っておくと肝がんや肝硬変といった恐ろしい病気になってしまうこともあります。
ウイルス性肝炎は、早期発見さえできれば治療がしやすくなります。ぜひ、検査を受けてみてください。