スポーツは健康増進に有用ですが、常に怪我の危険性が伴います。

肩関節脱臼は、スポーツが原因で受傷する怪我の一つです。肩は全身の関節で一番脱臼しやすい関節で、一度受傷するとくせになってしまう場合があります。今回は肩関節脱臼の原因や応急処置、再発をしないための予防方法について紹介します。

目次

肩関節脱臼の症状と起こる理由

症状

脱臼を起こしている際には激しい痛みが出ます。痛みは上肢を動かそうとすると激痛が走ります。痛みのため上肢を動かすことが困難となります。

また、くせになっている場合は肩が外れそうな不安感が生じます。

原因

腕の付け根にある肩関節は上腕骨の骨頭(こっとう)という丸い出っ張りと肩甲骨の関節窩(かんせつか)という丸い窪みからなっています。

例えるならけん玉の小さいお皿に玉が乗っているイメージです。

人類は二足歩行になり手を自由に使うことで物を作り出し、大きな進化を遂げました。進化の過程において肩関節は上下、内外転、回旋(ひねる動き)など可動範囲が広がり、人の関節の中で最もよく動くものとなりました。ただ、肩関節はその自由度を得た代わりに、他の関節と比べて窪みが浅いため、外から強い力が加わると脱臼が起こりやすい関節となってしまいました。

関節は骨と骨がブロックのようにはまっているだけでなく、軟部組織と呼ばれる成分でつながれています。肩関節においては軟部組織である関節包、靱帯、関節唇、腱板(インナーマッスル)で支えられているため普段の生活で簡単に脱臼することは滅多にありません。

例えば転んだときに手の着き方が悪かったり、自転車や人と激しくぶつかったりしたときに脱臼することはあります。

スポーツの受傷では格闘技、アメリカンフットボールやラグビーなどコンタクトスポーツで接触プレーで起こる場合と野球のヘッドスライディング、バレーボールのジャンピングレシーブ、スノーボードでの転倒など単独で起こる場合とがあります。

再発しやすい肩関節脱臼

一度脱臼してしまうと、関節包、関節唇(軟骨の一部)、靱帯、腱板と言った軟部組織が傷んでしまいます。それらの治りがうまくいっていないと、再び肩に同じような力が加わったときに支えきれなくなり容易に脱臼してしまいます。

また、初回脱臼時の損傷が激しかったり、脱臼を繰り返したりすると関節窩の一部が欠損してしまいさらに脱臼が再発しやすくなります。

複数回起きてくせになっている脱臼を反復性肩関節脱臼といいます。

脱臼したときの年齢が若いほど、その後に再脱臼を起こしやすくなります。

肩関節脱臼の応急処置

楽しいスポーツにも、怪我など不測の事態はつきものです。自分やチームのメンバーが肩関節脱臼を起こしてしまったら慌ててしまいます。

医療従事者や経験したことがある方がいた場合には脱臼だと推測できることもありますが、一般の方では判断は困難です。

脱臼は放置すると元に戻しにくくなったり、骨頭が壊死したりする危険性があります。そのため、紹介してきた症状が出た場合にはすぐに整形外科等の医療機関を受診してください。

受診までは少しでも動かすと痛いので応急処置で対応しましょう。

支える

肩関節脱臼が疑われるときは、腕を動かすと激痛が走ります。問題ない方の手で、痛みがある方の前腕を下から支えましょう。支えておくことで、必要以上の動きをしなくなるため移動しやすくなります。

固定する

三角巾で腕をつって固定すると安定感が増し、痛みが出にくくできます。三角巾がない場合には大きめのバンダナ、風呂敷、テープ、帯などを代わりにして行いましょう。

やってはいけないこと

脱臼には骨折を伴うことがあります。無理に戻そうとすると痛みが強くなってしまうことがあります。そのため自分たちで脱臼を元に戻す整復はやってはいけません。

肩関節脱臼の治療

レントゲン検査で脱臼を確認したら外れた関節を元の位置に戻す整復を行います。

痛みが強く筋肉に力が入り過ぎている場合や、骨と骨がはまり込んでいる場合には整復が困難なことがあります。その場合には神経ブロック麻酔や全身麻酔で整復を行うこともあります。徒手的に整復が困難な場合には手術で整復することもあります。

保存療法

整復後はひとまず激しい痛みは治まりますが、軟部組織の損傷があるためすぐに動かすことができません。反復性肩関節脱臼にならないためには初回脱臼時の適切な治療が必要です。

三角巾や固定用の装具を用いて少なくとも3週間はしっかりと固定することが重要です。固定期間が終了したら元の機能に戻すようにリハビリを行います。医師の指示に従って無理をせず反復性への移行を阻止しましょう。

手術療法

何度も脱臼をする場合は、関節唇が剥がれてしまい関節包と靱帯が緩んでしまっています。脱臼の不安感が大きい場合や、脱臼しやすく痛みがでてパフォーマンスが下がってしまう場合には手術によって根本的な治療をします。

最近では関節鏡(関節用の内視鏡)による、小さな傷でダメージの少ない手術方法が主流になっています。

骨の損傷が大きい場合には、関節窩に骨を植え付ける手術が必要な場合もありますので肩専門医の受診をお勧めします。

手術後は数週間固定をした後にリハビリによる訓練を開始していきます。

スポーツ復帰はおよそ手術後半年を目指します。

再発予防は何をすればいいの?

再発は初回脱臼時の構造的な破綻が残ることにより引き起こされるため根本的な予防は手術療法になります。

手術をしない場合の予防は脱臼しやすい位置、角度、動作を頭にいれて、そこに腕を持っていかないことになります。

動作に気を付ける

脱臼前は何でもなかった日常生活の動作でも容易に脱臼してしまったり、痛みを感じたりすることがあります。不安感を覚えることもあります。

多くの脱臼は腕を後ろに引き、外側にひねる動作でも起こりやすくなります。後ろの物を取ろうとするときや、寝返りなどでも注意が必要です。

スポーツでの対処

手術は長期の休養を要するためにすぐにできないという状況や、手術はしたくないという考えもあります。

肩周囲の筋肉を強くして、すばやく反応できるようにトレーニングをすることが重要となります。スポーツによってはその動作に脱臼しやすい状況になることがあります。その予防にフォームの修正やスキルアップも大事になってきます。

まとめ

肩関節脱臼はそれ自体がとても痛い怪我でありますが、一度起きてしまうと、その後のスポーツだけでなく日常生活でも容易に起こってしまいます。

反復性になってしまった場合の根本治療は手術治療になります。肩が外れやすい時には専門医の受診をお勧めします。