現代では、出産の時に帝王切開分娩を予定されている方が多くいらっしゃると思います。
胎盤に問題がある場合や、逆子(骨盤位といいます)、赤ちゃんがお母さんの骨盤より大きい場合、前回帝王切開術を受けた方々は、リスクを少なくするために帝王切開分娩を勧められます。またお産が進まない、赤ちゃんが苦しくなった時などに緊急手術として受けることもまた、帝王切開分娩が多くなっている理由になります。

すべてはお母さんと赤ちゃんが元気に出産できるよう選択されるわけですが、手術となるとやっぱり不安になりますよね?
ここではそんな帝王切開術の麻酔について詳しくお話しします。

目次

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麻酔方法の種類

帝王切開術の麻酔方法には大きく分けて2つあります。

局所麻酔

ほとんどの帝王切開術で使われる麻酔方法です。局所麻酔には脊髄くも膜下麻酔(腰椎麻酔)と硬膜外麻酔の2種類があります。

1.脊髄くも膜下麻酔(腰椎麻酔あるいは脊椎麻酔)

一般的に腰椎麻酔と呼ばれる麻酔方法です。腰椎(腰にある背骨)に針を刺し、脊髄神経の束が入っている袋(くも膜下腔といいます)に麻酔薬を注入することで、10分もたたないうちに、お腹から両脚にかけて痺れる、あるいは温かくなる=麻酔がかかった状態(無痛領域)になります。これで一時的に感覚を失くして痛みが伝わらないようにしているのです

※人によっては“触っている”ことを感じられる方もいらっしゃいます。しかし、消毒液の冷たい感覚や手術の痛みは感じません。

2.硬膜外麻酔

先述した脊椎神経の束が入る袋の周囲に「硬膜」という膜があり、そのさらに外側(硬膜外腔といいます)に細いチューブを入れて少しずつ薬液を注入します。そうすることで段々と神経がブロックされて痛みが伝わらなくなります。この細いチューブは入れたままにできるため、手術後の痛み止めとしても使えるという特徴があります(細いチューブは手術2、3日後に抜くことが多く、その後問題なければ退院します)。

多くの場合、脊椎麻酔だけか、脊椎麻酔と硬膜外麻酔を併せて行う方法のどちらかになります。どちらの場合もお母さんの意識ははっきり残っているため、赤ちゃんの泣き声(産声)を聞くことができます

手術後、ごくたまに頭痛が起きる場合がありますが、点滴で補液し安静にしていれば数日で軽快します

全身麻酔

かなり急いでいる帝王切開術の際に使われる麻酔です(局所麻酔が不可能な場合にも行われます)。

全身麻酔とは、麻酔薬が脳に作用して意識をなくし痛みや体の反射機能を起こさないようにするものです。麻酔薬は点滴から注入される静脈麻酔と、マスクから気管や肺を通して麻酔ガスを吸入する方法の2種類があります。意識は完全になくなるため、赤ちゃんの泣き声(産声)を聞くことはできませんが、素早く安全に手術を行うために重要な麻酔方法の一つとなります。

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麻酔の影響

麻酔の影響はいろいろと気になるかと思います。お母さんと赤ちゃん、それぞれへの影響は以下のとおりです。

局所麻酔の場合

局所麻酔後、お母さんに嘔気(吐き気)、嘔吐が起こる場合があります。これは一時的に低血圧症となるために起こります。これに対しては輸液を多くしたり昇圧剤を使ったりします。また局所麻酔で起こりやすいのが手術後の頭痛です。これは脳や脊髄を守る髄液が漏れることで起こります。起き上がると痛みが強くなるため点滴をして安静にしていることが肝要です。ほとんどの場合数日で軽快します。

また局所麻酔ならば、赤ちゃんへの影響はほとんどありませんのでご安心ください。

全身麻酔の場合

麻酔中はお母さんの呼吸が弱くなるため、気管に管を通して呼吸の補助を行います(麻酔薬がなくなることで呼吸は元通りになります)。そして意識が戻った時に気管の管は抜かれます。

また、麻酔中は胃の中が空(から)の状態が望ましいですが、緊急帝王切開分娩の場合はそうもいきません。ごく稀ですが、手術中(麻酔中)に嘔吐したものが気管や肺に入り、その結果誤嚥性肺炎を起こす可能性があります。そのようなことが起こらないよう、医師は経験と技術と細心の注意を払って麻酔をしています。

また全身麻酔での赤ちゃんへの影響は、麻酔薬が胎盤を通って赤ちゃんの体や脳へ入るため、産まれたばかりの赤ちゃんに麻酔の影響が現れることがあります。その際はスリーピングベイビーと呼ばれる眠った状態で赤ちゃんが生まれます。つまり全身麻酔で帝王切開術を受けた場合、赤ちゃんは眠っている状態、あるいは呼吸が弱くなって生まれることになります。その可能性があるときは小児科の先生が手術時に立ち会ったり、生まれて数日間は保育器の中で観察や治療を行ったりします。やがて麻酔薬が少なくなり全身状態が良くなれば、意識や呼吸も次第に戻ってきます。

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まとめ

全身麻酔も局所麻酔も、お母さんと赤ちゃんの状態をみて一番いい方法を、医師が選択してくれています。全身麻酔が必要な場合は、お母さんや赤ちゃんに負担をかけないよう最速で帝王切開分娩を行う必要がある時です。局所麻酔に比べて赤ちゃんへの影響が気になると思いますが、出産を長引かせて赤ちゃんの状態がかえって悪くなれば元も子もありません。一時的な影響ですので、心配しすぎないように心掛けいただきたいと思います。

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