肺炎は日本人の死亡原因の3位で、そのうち94%以上が75歳以上の高齢者となっています。また、誤嚥がその原因となる肺炎は、70歳以上では70%にもなります(厚生労働省呼吸器学会より)。

誤嚥性肺炎は、かかっていても気付かずに発見が遅れることがあるので注意が必要です。ここでは、誤嚥性肺炎の症状や治療法などを解説します。

目次

誤嚥性肺炎とはどんな病気?原因は?

誤嚥性肺炎とは、細菌が唾液や胃液と一緒に肺に流れ込んでしまうことで起こる病気です。

誤嚥とは、何かを食べたり飲んだりした時にそれが食道に入らず、気道に入ってしまうことをいいます。元気な人でも、何かの拍子に食べ物や飲み物が気管に入ってしまい、むせてしまうことがありますよね。健康な状態であれば、「ケホケホ」と咳き込むことで気管に入った物を出せます。しかし吐き出す力が弱くなっている場合、気管に入ったものを出すことができません。そのため、細菌が肺に入って繁殖してしまうのです。

食べ物や飲み物による誤嚥のほか、夜寝ている時に口の中で繁殖した細菌を誤嚥してしまったり、吐瀉物をうまく吐き出せずに気管に吸い込んでしまったりした時に起こることもあります。

元気な人でも、夜に自分の唾液などを誤嚥している時があります。しかしその時に誤嚥するのはわずかな量であり、朝になってから痰として吐き出すことができるため、肺炎にはなりません。高齢者や抵抗力が落ちた人では、寝ている時に誤嚥することが多く、抵抗力が低いために誤嚥性肺炎を起こしやすいのです。

脳血管障害に要注意

では、全ての高齢者が誤嚥するのでしょうか?

加齢とともに咳反射や嚥下反射の低下が起き、高齢者は肺炎に罹患しやすいと長い間考えられてきました。しかし、ADL(日常生活動作)の高い人のみを対象に20~80歳後半までの各年代で咳反射と嚥下反射を調べたところ、加齢による変化は認められませんでした。一方で、肺炎既往のある高齢者では、・嚥下反射ともに低下していました。つまり、加齢以外の因子が重要であると考えられます。これが、脳梗塞などの脳血管障害です。

高齢者肺炎が治りづらいのは、脳血管障害による嚥下機能低下の存在があるからです。まったく症状がないにも関わらず、人間ドッグなどで脳MRI検査をすると無症候性脳梗塞が認められることがよくあります。無症候性脳梗塞でも、脳梗塞の全くない場合に比べると、肺炎罹患率が高いことが報告されています。

誤嚥性肺炎の症状とは?

通常の肺炎であれば、発熱・咳・痰が出るといった症状があります。しかし高齢者の場合、こういった症状がみられないことも多々あります。
高齢者の場合は、周りの方が以下のような症状に注意して見てあげてください。

  • なんとなく元気がない
  • 1日中うつらうつらしている
  • 食事中にむせこむことがある
  • 喉が常にゴロゴロ鳴っている
  • 唾液が飲み込めない
  • 食事に時間がかかる
  • 痰が汚い

誤嚥肺炎になりやすいのは、固形食が飲み込めずに刻んだ食事や流動食を摂っている高齢者の人ばかりではありません。普通の食事ができる人でも、上記のような症状があれば注意が必要です。

特に、「なんとなく元気がない」だけではまさか肺炎になっているとは思わず、受診が遅れる場合も少なくありません。いつもと違うと思うことがあれば、早めに受診するようにしましょう。

 誤嚥性肺炎の治療法とは?

酸素吸引

肺炎の治療では、原因となる菌によって使用する薬が異なります。

誤嚥性肺炎を起こす菌は肺炎球菌嫌気性菌(酸素のないところでしか育たない菌)など多彩です。治療には、嫌気性菌対応の抗生剤が使われます。

また、肺に酸素がうまく取り入れられなくなっている(呼吸不全)場合は酸素吸入が行われます。さらに重症となり、自力で呼吸ができなくなってしまった時は、人工呼吸器が使用されることもあります。

誤嚥性肺炎の最大の原因は、飲み込む力が落ちたことです。そのため、一度誤嚥性肺炎を起こした人は何度も繰り返してしまうことがあります。誤嚥性肺炎になり、治療を行い…と繰り返していると、やがて薬に対して抵抗できる耐性菌ができてしまいます。すると、治療が難しくなってしまうのです。

誤嚥性肺炎を予防するには?

誤嚥性肺炎を防ぐには、まずは誤嚥を防ぐのが第一です。誤嚥の予防について詳しくは「肺炎の原因にもなる誤嚥!その原因と予防法について」をご覧ください。

また、口の中に細菌が多いと肺炎になりやすいので、口の中を清潔に保つために歯磨きをきちんと行うようにすると良いでしょう。入れ歯の消毒も欠かせません。自分で動けない人に対しては、介護をしている周りの人がお口のケアを行ってください。「お年寄りや要介護者の歯のために、周りの人が出来ること」で詳しく説明していますので、そちらをご覧ください。

また、口の中が渇くとドライマウスとなって細菌が増えるので、水分を沢山摂ることも大切です。

また、咳・嚥下反射の低下を防ぐためには、脳血管障害を予防することが重要です。高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病をコントロールし、受動喫煙を避けるためにも、ご自分だけでなく、ご家族にも禁煙していただくことが重要です。

 

ここまでの内容を、以下に簡単にまとめます。

原因 誤嚥したことで口の中の細菌が肺で繁殖
症状 熱・咳・喀痰(症状がなく元気がないなど、いつもと違う様子だけの場合あり)
治療 抗生剤を使う・酸素吸入(繰り返し起こしている場合は抗生剤が効きにくいことも)
予防 誤嚥させない・歯磨き・入れ歯の消毒・水分補給・生活習慣病の予防

出典:誤嚥性肺炎|一般社団法人日本呼吸器学会を元にいしゃまち編集部作成

まとめ

今回は、誤嚥性肺炎の症状や治療法について説明しました。高齢になると、どうしても身体の機能が低下してしまいます。そのため、普通なら高熱・咳・ 痰などのひどい症状がみられる肺炎でもあまり目立った症状が起こらず、重症となってしまってから治療を始めるというケースも少なくありません。

高齢者にとって、誤嚥性肺炎は恐ろしい病気です。まずは誤嚥を起こさないようにしっかりと予防し、少しでもいつもと違う様子がみられたら早めに呼吸器内科を受診するようにしてください。早期受診が、あなたの大切な人の命を救うことに繋がるのです。