自分で食具を使って上手に食事ができるようになるのはだいたい3歳~5歳くらいです。食べる機能を学習する段階ではさまざまな個人差が出てきます。一般的な目安は育児書などに書いてはありますが、それに当てはまらないからといって、すぐに障害、病気と思う必要はありません。しかし、明らかな発達の遅れ、器質的な障害が確認されると、適切な治療、訓練が必要となります。

目次

まずはお子さんの現状を知るところから

脳性麻痺や精神発達遅滞、神経・筋系統の病気を抱えているお子さんの場合、摂食嚥下機能の獲得ができなかったり、通常とは違う順番で獲得したりすることがあります。本人がどの段階にあるかの正確な評価から訓練が始まります

発達が遅れてはいるが、機能獲得の順番は正常のとき

通常の機能獲得の順番(「ものを食べる」機能の発達と子供の摂食嚥下障害の原因」の記事参照)に照らし合わせて、当てはまる段階から訓練をします。

機能獲得の順番が変わってしまい、発達に支障が出ているとき

今できていることを評価し、備わっていない機能を補う訓練を考えます。

食べるための訓練の方法

子供と大人の手-写真

食べ物を使わずに機能の訓練をする方法(間接訓練)

脱感作療法

食べる機能に障害のあるお子さんは、口の中や周りにものが触れることを嫌がる「過敏」の症状が出ることがあります。過敏を軽減するのがこの方法で、過敏のある部分にあえて触れることで慣らしていくイメージです。正しい方法でないと悪化させる可能性があるので、過敏のある部位の確認と正しい方法の指導を受けてから行う必要があります。

首のマッサージ、リラックス

筋肉の緊張を伴うような基礎疾患があり、頚部(飲み込むために必要な筋肉)が固く動きになっているときは、体操等でほぐし、飲みこみやすい姿勢をつくります

口腔の体操(バンゲード法)

唇の周りの筋肉(口輪筋)や舌の動きを活性化させる運動です。口を尖らせたりつまんだり押したりする運動をします。

嚥下の促進(ガムラビング)

指で口の中(歯と歯茎の間)のマッサージをします。 口の中の感覚を高めて、食べ物を噛む感触を覚えたり、嚥下反射を誘発します。

実際に食べ物を使う方法(直接訓練)

直接訓練の際には誤嚥を防ぐため、姿勢や使う食べものの形状・量に気を付けながら行う必要があります。また、本人が体調不良だったり、眠気が強かったりする際には危険なので避けなくてはいけません

捕食機能訓練

食べものを口の中に取り込む動作の練習です。

食べものを載せたスプーンを下唇に近づけ、口を開くようなそぶりを見せるか、口を閉じるときに唇が食べものを取り込むような動きをするかなどを見ます。自発的に食べようとする動きがあるかを確認してから、補助的に手指で顎や唇を介助します。

咀嚼機能訓練

あごを動かし咀嚼する力を高める訓練です。この訓練は噛む力の強さに応じて、食べ物の硬さや大きさなどを変えて噛む動作を引き出したり、嚙む力を調整する訓練です。

液体を飲む訓練

液体は広がりやすく流れが速くむせやすいので、トロミをつけたりして行うこともあります。

コップやスプーンを使う場合には、下唇がコップのふち、もしくはスプーンの底に触れた状態で、水面に上唇がつくように介助しながら飲ませていきます。

食具を使う訓練

物を掴むと余計な力が入ってしまう場合や、指の細かい動きが苦手な場合などは、手に合った食具(握り手に工夫のあるスプーン、すくいやすく、つかみやすい皿など)を選んで、本人の機能を引き出せる工夫をしながら、食べる練習をします

環境を整えることで改善が期待できるもの

姿勢を見直す

首の位置や向き、猫背、椅子の背もたれの角度など、姿勢を改善することで飲み込みや、咀嚼をスムーズにすることができることがあります。

食べているものや環境を見直す

柔らかいものばかり食べていると口の中の機能が発達しません。逆に硬すぎるものも同様です。発達の段階にあった硬さ、大きさなどを見直すことで、機能獲得を促します。

同じもの、同じ味、同じような柔らかさのものばかりを食べていないか、食べる料理の色合いは悪くないか、食具の色合いは楽しいものになっているか、など、食べ物の感触や視覚から食事への興味を高めることもできます

おわりに

摂食嚥下の障害は、何等かの基礎疾患が元にある場合が多いです。しかし「食べることは楽しいこと」という感覚は誰しも持てるもので、そこから興味を引き出し、発達を促すことは可能です。原因が幅広く、個人差が大きい分、機能の評価と同時に、どうしたら楽しめるかを一緒に考え、工夫することが大切です