摂食嚥下とは、私たちが食べ物を認識して口へと運び、咀嚼(そしゃく:食べ物をかみつぶす)して飲み込むまでの過程をいいます。摂食嚥下の過程は5段階で構成されており、食べる、飲むための口や喉頭、咽頭の機能の他にも食べ物を認識する脳の働きや姿勢保持、覚醒を保つこと、食べるために必要な動作を行うことなど色々な身体の機能や働きによって行われています。私たちが普段、無意識に行っている摂食嚥下はどのように行われているのか、メカニズムをみていきましょう。

目次

摂食嚥下は5段階で構成される

目の前にある食べ物や飲み物を飲み込むことは食事の度に何度も繰り返し行われていることです。摂食嚥下は、色々な働きや機能によって行われている一連の流れであり、先行期(認知期)、準備期(咀嚼期)、口腔期、咽頭期、食道期の5段階に分けられます。

先行期(認知期)

目の前にある食べ物の形や柔らかさ、大きさや量、におい、温度などを認識し、過去の記憶と照らし合わせてその食べ物がどのような食べ物であるのか、どのような味か、どれくらいの量をどのように持って食べれば良いのか、どのような味であるのかを判断して、姿勢や箸、スプーンなど道具の選択、手の形、力の入れ具合、スピード、唾液の分泌などの決定を行います。

どのように口に運ぶのか、次に食べるものはどれにするのかなど、食べ物を口へ運ぶペースを決定する段階です。食べるために覚醒を保つこと、食べ物を認識するための脳の認知機能、認知した情報から様々な判断を行う高次脳機能、食べ物の情報を得るための視覚、嗅覚、聴覚などの感覚情報が必要です。

準備期(咀嚼期)

口へ食べ物をとり込み、食べ物を咀嚼して細かくし、唾液と混ぜ合わせながら飲み込みやすい形状にまとめ上げて食塊(しょくかい:かみ砕いた食べ物と唾液を混ぜ合わせてできた食べ物のかたまり)をつくる段階です。

口へとり込む際に口が開くこと、食べ物に合った口の形状をとれること、とり込んだ後に唇がしっかり閉じること、食べ物を前歯から奥歯と運ぶ舌の動きや咀嚼するために必要な頬や顎の筋肉の働き、歯のかみ合わせ、唾液の分泌や唾液と食べ物を混ぜ合わせる舌の機能が必要です。食べ物や、食塊への変化を感じ取れる口の中の感覚・知覚も必要です。

口腔期

食塊を口腔から咽頭(のど)へと送り込む段階です。

しっかりと口を閉じて、食塊を咽頭へと送りこむ舌の運動、鼻への逆流を防ぐための鼻咽腔閉鎖、唾液の分泌が必要です。

咽頭期

食塊を「ごっくん」と飲み込み、咽頭から食道へと送りこむ段階です。嚥下反射(「ごっくん」と食べ物を飲み込む際に起こる反射)が起こり、喉が上に持ち上がる(喉頭挙上と言います)ことによって、喉頭蓋(こうとうがい)というふたが下がって気道を閉鎖し、食塊が気道に入って誤嚥(ごえん)することを防ぎます。左右の声帯が内側へと動き、声門がしっかり閉じることも必要です。同時に食道の入り口が開き、食塊は食道へと送りこまれます。

嚥下反射がタイミングよく起こること、喉頭挙上の運動が起こること、声門がしっかり閉じること、気道への入り口が閉じて食道の入り口が開くことが必要です。

食道期

食塊を食道から胃へと送りこむ段階です。食道の筋肉の運動により、食塊を胃へと運びます。食道から食道括約筋(しょくどうかつやくきん:食道の入り口と出口にある筋肉、入り口を上部括約筋、出口を下部括約筋といいます)の働きにより、咽頭へ食べ物や胃酸、細菌などが逆流するのを防いでいます。逆流したものを誤嚥した場合も肺炎となります。

食道の壁の筋肉が波打つように動く蠕動(ぜんどう)運動が起こり、食塊が食道を通過できることが必要です。

摂食嚥下の障害が起こる疾患とは

お皿-写真

脳卒中

脳卒中は、摂食嚥下障害が起こる原因の約40を占めていると言われています(日本脳卒中学会より)。脳卒中は脳が損傷を受ける疾患なので、脳のどの部分がどの程度損傷を受けるかによって摂食嚥下機能の障害される症状も変わってきます。

意識障害や物の認識、高次脳機能が障害されると先行期の障害がみられます。自発的な運動がみられない、口腔の動きに関係する筋肉の麻痺がある場合は準備期や口腔期の障害がみられます。嚥下反射の遅れ声帯麻痺(声帯が閉じないまたは閉じにくい)、構音障害(発声、発音の障害)などがある場合は咽頭期の障害がみられます。食道の運動の低下がある場合は食道期の障害がみられます。

パーキンソン病

口腔期から咽頭期、食道期までが障害されます。病状が進行して低栄養になったり寝たきりとなったりすると誤嚥性肺炎のリスクも高くなります。

認知症

認知症の原因疾患にもよりますが、気分や感情の障害、物の認識の障害などの認知面の障害によって、食事をとるための準備を行う先行期が障害されます。活動性・自発的な運動の低下によって、咀嚼や嚥下反射も起こりにくく準備期、口腔期、咽頭期の障害もみられます。

加齢によるもの

加齢によって口の中や咽頭の筋力の低下、唾液の分泌の変化、歯の状態が悪くなると咀嚼や食塊をつくることが難しくなり、準備期や口腔期の障害がみられます。嚥下反射の低下が起こると咽頭期の障害がみられ、注意力や集中力が低下すると先行期をはじめ各段階においてタイミングのずれやペースの低下が起こります。薬の副作用によって嚥下障害が起こることもあります。

がん

口や首の周辺のがんによって圧迫された神経の麻痺や咽頭や食道が狭くなることによって食べ物が通りにくくなる、がん切除後の運動機能や知覚の低下などにより、各段階において嚥下障害がみられます。

まとめ

摂食と嚥下は人間が生きていくための必要な水分や栄養を摂るために欠かせない機能であり、食を楽しむという側面も持っています。普段何気なく行われていることですが、実はそのメカニズムには色々な機能や働きが複雑に関与しており、摂食嚥下の障害が起こることで誤嚥や窒息で死亡する原因ともなります。摂食嚥下のメカニズムの知識を得て、自分や家族に摂食嚥下障害がみられた時に、適切な対処ができるようにしておくことが大切です。